このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「……その顔」
「え?」
「昨日から、君のその顔を見ると、この辺がぽかぽかする」
「は、はい?」
自らの左胸にそっと触れながら、リベルトは至って真面目な顔でそう言った。
「フィリス、君の笑顔は可愛いな」
ふ、と小さく笑って、リベルトは左胸を押さえていた手をゆっくりとフィリスの頭上に乗せた。二回ほどぽんぽんと撫でると、満足したのか手を離す。
(……な、な、なに今の)
あまりに唐突な言葉と共に頭を撫でられ、フィリスはなにが起きたか理解できなかった。
ずっと険しい顔をして、こっちを見ようともしなかったリベルトが、確実に心を開いてくれいる。その事実に直面したとき、フィリスの顔がカッと熱くなる。
(天然人たらしでもあるなんて……ますます危ういわ。リベルト様)
改めて、フィリスはリベルトという男の危険性を思い知らされたのだった。
その日のランチタイム。
騎士団の食堂は、かつてないほどざわついていた。
「お、おい。副団長が食堂に来てるぞ」
「何年ぶりだ? しかもちゃんと、ランチセットを頼んでるぞ!」
フィリスときちんと食事を摂るという約束をしたリベルトは、魔法騎士団の食堂に姿を現した。
通常、団員はこの食堂で食事をするのだが、リベルトがいっさい食堂に行かなかったため、フィリスが毎回部屋まで食事を運んでいたのだ。
約束したことによりその必要がなくなったため、リベルトは自主的に食堂へ足を運ぶように。
――そんなことが数日間続き、団員たちはようやく、リベルトが食堂にいる状況に慣れ始めていた。
「フィリス。ホワイトピーチパイに続くうまいものを見つけたんだ」
ある日、食堂から戻ってきたリベルトがそんなことを言いだした。
フィリスはリベルトの食事にたまに同行していたが、毎回ではなかった。というのも、同行するとかなり目立つため自然に注目を浴びる羽目になる。リベルトはまったく気にしていなかったが、フィリスは人の目を感じすぎて食事に集中できなかった。そのため、最近はできるだけ同行しないようにしていた。
「へえ! どんな食べ物ですか?」
「ミートパイとアップルパイだ。どちらも美味しい。ホワイトピーチパイを初めて食べたときの感覚に似ている」
「へ、へぇ。そうなのですね」
「明日はレモンパイに挑戦しようと思う」
リベルトはどうやら様々なパイにハマッたようで、それからもいろんなパイを食べ比べていた。お陰様で食に興味を持てたようだが……。
(リベルト様って、雪桃が好きだったのではなく、もはやパイ生地が好きだったんじゃあ……)
フィリスの中に浮かんだそんな疑念は、心の中で留めておくことにした。