このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「俺は魔法騎士団での仕事が好きで、なにより仕事がいちばんだ」
「はい。それは知っていますよ」
「副団長になってから仕事が増えた。魔物討伐などの外仕事のほかにも戦略策定の確認、予算管理、アルバ団長の補佐仕事……それに魔物の情報管理。やることが多ければ多いほど、集中力が上がっていった。とにかく仕事をする時間を確保したくて、やり出したら止まらなくて……眠気が襲ってきたら、一時的な強化魔法をかけることもあった」
「強化魔法?」
強化魔法は対象の身体能力や、特定の身体部位の機能を一時的に向上させることができる魔法という。自分自身にその魔法をかけることで、眠気を覚ましていたとリベルトは言った。
(強化魔法も使えるんだ……)
まだまだリベルトは、フィリスが知らない底知れぬ力を秘めているような気がした。
「でもそれって、身体に負担はかからないのですか?」
「当然かかる」
腕と脚を組んで、リベルトはきっぱりと言い放った。
「そ、そんなドヤ顔で言われても」
「強化魔法っていうのは、いわゆる元気の前借だ。頻繁に使用するのは禁止されている」
そのため、リベルトは自主的にできるだけ寝ないことを心掛けた。たまに眠くなれば強化魔法を使い眠気を飛ばす。そんなことを繰り返していると、眠いという感覚があやふやになってしまったらしい。
「……リベルト様。その状態って危険だと思います。この前言ったのと同じですよ。身体が叫んでいるのに、リベルト様が気づけていない。そういう状態です」
父親がよく言っていた、フィリスに似ているという曾祖母。彼女はいつも元気で、いくつになっても働いていたという。
(だけどある日……本当に突然、過労で命を落としたと聞いたわ)
働き者だった曾祖母は、睡眠時間をほぼとっていなかったと後になって周囲が気づいたという。フィリスも働き者として昔から両親には褒められていたが、睡眠だけはしっかりとるよう言い聞かせられていた。それは、過去にこういう背景があったからだろう。
「私、リベルト様が過労死なんてしたら嫌です……!」
曾祖母の話を思い出すと、フィリスは猛烈にリベルトの未来が不安になってきた。
「俺は死ぬ予定はないが……」
「死は足音も立てず、突如――いや、じわじわ襲ってくるものだってあります。過労死なんかは、まさにそうだと思いませんか?」
「……だとしたら、俺はどうすればいいんだ?」
例え話の過労死のようにじりじりと詰め寄ってくるフィリスに、リベルトが頭上にハテナを浮かべて問いかける。
「せめて最低限の睡眠はとりましょう」
「だから、俺は眠気がわからないんだ」
「それなら思い出させるしかありません。どうやったらリベルト様が気持ちよく眠れるようになるのか、いろいろ試してみるんです!」
フィリスはリベルトの快眠のための手段を模索することにした。
まず試してみたのはアロマだ。フィリスは部屋にアロマストーンを持ってくると、ベッド横のサイドテーブルに置き精油を垂らした。
雰囲気づくりのためにろうそくの灯りのみが揺らめく部屋を、森林の深奥から漂ってきたかのような温かな香りが包んでいく。爽やかさとほのかな甘さが絡み合った森の香りは、心にも身体にも安らぎを与えてくれている。
「……どうですかリベルト様」
ベッドに横たわるリベルトに、フィリスが内緒話をするかのような声で問いかける。その間も手をパタパタと動かし、香りをリベルトがいる方向へ誘うのは忘れない。
「この香り……森で魔物退治をしたときの記憶が蘇って来て、なんだか興奮してきた」
「……リベルト様、これは癒しの香りです。興奮する香りではないかと思いますが」
「君は知らないだろう。あれは中東部の森に任務で行ったときの話だ。猛毒を持つ魔物が現れ、俺たちは苦戦した。やつらの角に触れれば全身に紫の斑点が出て――」
ダメだ。完全に目が冴えている。それだけでなく、いつ終わるかわからない思い出話まで始まってしまった。しかもなんだか聞いているだけでぞわっとする。
(森の香りなんて選ぶんじゃなかった!)
フィリスはアロマストーンをいそいそと片付けると、べつの作戦を実行することにした。
「はい。それは知っていますよ」
「副団長になってから仕事が増えた。魔物討伐などの外仕事のほかにも戦略策定の確認、予算管理、アルバ団長の補佐仕事……それに魔物の情報管理。やることが多ければ多いほど、集中力が上がっていった。とにかく仕事をする時間を確保したくて、やり出したら止まらなくて……眠気が襲ってきたら、一時的な強化魔法をかけることもあった」
「強化魔法?」
強化魔法は対象の身体能力や、特定の身体部位の機能を一時的に向上させることができる魔法という。自分自身にその魔法をかけることで、眠気を覚ましていたとリベルトは言った。
(強化魔法も使えるんだ……)
まだまだリベルトは、フィリスが知らない底知れぬ力を秘めているような気がした。
「でもそれって、身体に負担はかからないのですか?」
「当然かかる」
腕と脚を組んで、リベルトはきっぱりと言い放った。
「そ、そんなドヤ顔で言われても」
「強化魔法っていうのは、いわゆる元気の前借だ。頻繁に使用するのは禁止されている」
そのため、リベルトは自主的にできるだけ寝ないことを心掛けた。たまに眠くなれば強化魔法を使い眠気を飛ばす。そんなことを繰り返していると、眠いという感覚があやふやになってしまったらしい。
「……リベルト様。その状態って危険だと思います。この前言ったのと同じですよ。身体が叫んでいるのに、リベルト様が気づけていない。そういう状態です」
父親がよく言っていた、フィリスに似ているという曾祖母。彼女はいつも元気で、いくつになっても働いていたという。
(だけどある日……本当に突然、過労で命を落としたと聞いたわ)
働き者だった曾祖母は、睡眠時間をほぼとっていなかったと後になって周囲が気づいたという。フィリスも働き者として昔から両親には褒められていたが、睡眠だけはしっかりとるよう言い聞かせられていた。それは、過去にこういう背景があったからだろう。
「私、リベルト様が過労死なんてしたら嫌です……!」
曾祖母の話を思い出すと、フィリスは猛烈にリベルトの未来が不安になってきた。
「俺は死ぬ予定はないが……」
「死は足音も立てず、突如――いや、じわじわ襲ってくるものだってあります。過労死なんかは、まさにそうだと思いませんか?」
「……だとしたら、俺はどうすればいいんだ?」
例え話の過労死のようにじりじりと詰め寄ってくるフィリスに、リベルトが頭上にハテナを浮かべて問いかける。
「せめて最低限の睡眠はとりましょう」
「だから、俺は眠気がわからないんだ」
「それなら思い出させるしかありません。どうやったらリベルト様が気持ちよく眠れるようになるのか、いろいろ試してみるんです!」
フィリスはリベルトの快眠のための手段を模索することにした。
まず試してみたのはアロマだ。フィリスは部屋にアロマストーンを持ってくると、ベッド横のサイドテーブルに置き精油を垂らした。
雰囲気づくりのためにろうそくの灯りのみが揺らめく部屋を、森林の深奥から漂ってきたかのような温かな香りが包んでいく。爽やかさとほのかな甘さが絡み合った森の香りは、心にも身体にも安らぎを与えてくれている。
「……どうですかリベルト様」
ベッドに横たわるリベルトに、フィリスが内緒話をするかのような声で問いかける。その間も手をパタパタと動かし、香りをリベルトがいる方向へ誘うのは忘れない。
「この香り……森で魔物退治をしたときの記憶が蘇って来て、なんだか興奮してきた」
「……リベルト様、これは癒しの香りです。興奮する香りではないかと思いますが」
「君は知らないだろう。あれは中東部の森に任務で行ったときの話だ。猛毒を持つ魔物が現れ、俺たちは苦戦した。やつらの角に触れれば全身に紫の斑点が出て――」
ダメだ。完全に目が冴えている。それだけでなく、いつ終わるかわからない思い出話まで始まってしまった。しかもなんだか聞いているだけでぞわっとする。
(森の香りなんて選ぶんじゃなかった!)
フィリスはアロマストーンをいそいそと片付けると、べつの作戦を実行することにした。