このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
 それからリベルトは、寝る前にフィリスの膝枕をたびたびねだるようになった。初めて膝枕をしたときにすごく快適な眠りにつけたようで、フィリスの膝枕はもはやリベルトにとっての睡眠導入剤的な役割を果たしていた。
 膝枕をし、うとうとしたらベッドへ移動してそのまま眠る。
こういったことを一週間続けていると、リベルトは眠いという感覚を次第に取り戻していき、最近は膝枕がなくても眠れるようになった。
 これで睡眠欲も改善されて一安心! と思っていたが――思わぬ弊害がフィリスの前に立ちはだかる。
「フィリス」
「きゃっ!」
 ナタリアと廊下を歩いていると、野外での訓練を終えたばかりのリベルトが後ろから抱き着いてきた。
「……はぁ。癒される」
「リ、リベルト様、みんな見てますから……!」
 リベルトは疲れが溜まると、フィリスをところかまわず抱きしめるようになったのだ。その時間は一瞬のときもあれば長いときもある。なんでも、疲労の度合いによって変わってくるらしい。
「それでは、私はお先に~」
「あっ、ナタリアさん……!」
 気を遣ってか、ナタリアはフィリスを置いてさっさと行ってしまった。行かないでと伸ばした手は、虚しく空を切る。
「……ん。充電完了」
 満足したリベルトが、そっと背中に回した腕を離す。
「おい。副団長がまたやってるぞ」
「あの世話係すごいよな。すっかり副団長を手懐けてやがる」
「マジで何者なんだよ……」
同じく訓練を終えた団員たちのチラチラこちらを窺う視線は、何度経験したって慣れることはない。
「リベルト様、百歩譲ってこういうのは部屋の中だけにしてくださいって言いましたよね」
 リベルトと向き合うように身体をひっくり返すと、フィリスは小声で不満をぶつけた。
「そう言われても、疲れたら身体が君を欲するようになってしまったんだ。フィリスの体温と髪の香りはものすごく落ち着く。初めて膝枕をされたときそれに気づいた」
 こういった理由から、リベルトはフィリスを抱きしめているようだ。
 人に見られて恥ずかしいという感情がリベルトに皆無なのは、やましい気持ちがないからだろうとフィリスは解釈していた。
(例えるなら、私を癒し効果のあるぬいぐるみかなにかと同じように思っているんだわ)
 きっと代わりが見つかれば、それがべつの女性であったって、リベルトは躊躇なく抱きしめるだろう。そう思うと、抱きしめられてドキドキするのも馬鹿らしい。
「たくさん汗をかいておられますから、まずは着替えたらどうですか? その間に欲しいものがあれば用意してお部屋まで持っていきます」
「じゃあ、水を多めに頼む」
「かしこまりました。では、着替えが終わった頃を見計らって伺いますね」
 水を用意するために、フィリスは一度リベルトと離れた。
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