このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
** *

 ひとりで部屋に戻ろうとしたリベルトのもとに、まるでその時を待っていたかのようにふたりの魔法師団侍女が駆け寄ってくる。
「リベルト様!」
 声をかけられ視線を向けるも、その侍女たちが誰かはまったくわからない。
「あの、噂で聞いたんですけど……」
「リベルト様は女性を抱きしめると疲れが吹っ飛ぶんですよね!?」
 ふたりの侍女は上目遣いでリベルトの顔色を窺いながら、媚びるように高く可愛らしい声を出すが、リベルトの耳にはキーンと響き、耳ざわりがいいとはお世辞にもいえなかった。
「見てる限り、フィリスさんはあんまり乗り気でなさそうなので、よければ私たちがお相手しますよ」
「リベルト様ならいつでも大歓迎です」
 積極的に迫ってくる侍女たちを無表情で見下ろしながら、リベルトは言う。
「いらない」
「え?」
「その噂、間違ってる。俺はフィリスしかダメなんだ。フィリス以外に触れたいとは思わない」
 それだけ言うと、リベルトは強張った空気を振り払うようにその場を立ち去った。
「そ、そんなの、試してみないとわからないじゃないですか!」
 呆然としていた侍女のひとりが、負け惜しみのように背後からそう叫ぶ。リベルトはその声に足を止めることはなかったが、耳に届いた彼女の言葉は、あながち間違っているとは思わない。
(ほかの人で試してみようなんて、考えたこともない)
 そして、その意見を聞いたとて、試そうとも思わない。この感情がなにを指しているのか考えたとき、現段階でリベルトが出せる答えはひとつだ。
(……俺はフィリスに、興味を持ち始めている)
 入団してからずっと仕事だけに全力を尽くしてきたリベルトにとって、それは初めての出来事で、未知の感情だった。



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