このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~

6 みんなで仲良くしましょう

「フィリス、そっちはあとどれくらいで終わりそう?」
「このごみをまとめれば終了です。ナタリアさんは?」
「こっちもよ。さすがフィリス。あっという間に仕事が終わるわ」
 フィリスの今日の仕事は、魔法騎士団の共有スペースを順番に掃除することだった。食堂から始まり会議室ときて、最後の休憩室の掃除が今まさに終わろうとしている。
 ごみを詰めた袋の口を縛り、ナタリアと共にごみ捨て場まで運び終わる頃には、もう夕方になっていた。
「いけないわ。さっさと夕食を済ませておかないと。今晩、リベルト副団長の部隊が帰ってくるのよね?」
「そうですね。予定では午後八時くらいになるとは言っていましたけど……」
 リベルトは現在、国境沿いの魔物調査へと駆り出されている。本来アルバも行く予定だったが、王宮の護衛が手薄になると指摘され、リベルトが代表として任務へ向かうこととなった。
 なんでも国境沿いで隣国から魔物が侵入しているようだ。近隣の村から通報が入り、それらの処理と原因追及も兼ねて、約四日間ほど出張中だ。
 そのあいだ、フィリスは侍女の通常業務をナタリアとこなしていた。いくら世話係といえども、戦場へ着いて行ったところでただのお荷物だろう。アルバも同行を推奨していなかったため、フィリスはこの四日間ナタリアと共に業務に励んだ。
「任務帰りなら、相当疲れているんじゃない? 長いハグを覚悟しておかないとね」
 からかうように、ナタリアがにやりと口角を上げる。
「もう、やめてください。フィット感がいいぬいぐるみみたいな扱いされて困ってるんですから。それより……任務先でもきちんと寝ているかが心配です」
「すっかりお世話係として板に付いてきたわね」
 首を垂らしてため息をつくフィリスをよそに、ナタリアはのんきな笑い声を上げる。
「それよりフィリス、みんなが帰ってくる前に私たちの食事を済ませておきましょ」
「そうですね。今日のメニューはなにかなぁ」
「私はシチューとパンの気分」
「いいですね。お腹が空いてきました」
 今日の晩餐を予想しながら、フィリスは食堂へ向かい、リベルトの帰還を待った。

 午後八時。
 馬車が走る音が聞こえてくる。予定ぴったりに、リベルトが率いる魔法騎士団の部隊が戻って来た。
 フィリスは出迎えの列に並び、四日ぶりのリベルトの様子を見守る。
(顔色は悪くない。ついでにエルマーさんも苛立っている様子はないし……うん。問題はなさそうね)
 取り巻く空気感でなんとなく、リベルトがやらかしたかどうかがわかってきた。
 今回はアルバを無視して部屋に駆け込むこともなく、きちんと調査報告を伝えている。
(新種の魔物は出なかった、ってことかしら)
 新種の魔物が出ていたら、リベルトがこんなに落ち着いていられるはずがない。いつの間にか、フィリスはリベルトの動向から出来事を予測する癖がついていた。
「よくやってくれた。報告書のまとめはいつでもいいから、今日はしっかり休め!」
「いいや。すぐに取り掛かる。……フィリスは?」
 リベルトは前回と違いアルバの隣ではなく、後方でほかの侍女たちの列に紛れているフィリスをきょろきょろと探す。
(なんだか呼ばれたような気が……)
 名前を呼ばれる声が聞こえて、フィリスは嫌な予感がした。任務帰りは訓練後よりもその場に居合わせる人たちが多い。こんなところでぬいぐるみ扱いされるのは勘弁だ。リベルトと目を合わせないように、フィリスはひたすら自分のつま先に視線をやった。
「おい、リベルト!」
 すると、突如怒声が聞こえておもわず顔を上げる。
 そこには青い軍服を着た男性がひとり立っており、眉間に深い皺を何本も刻んでリベルトを睨みつけていた。
「ナタリアさん、あの人は誰ですか?」
 隣に立つナタリアに小声で問いかける。
「彼は騎士団のアレン副団長よ。今回の任務、魔法騎士団と騎士団、両方で向かったみたい」
「へぇ……」
 騎士団の副団長は、リベルトよりも年上だ。見たところ三十前半くらいだろうか。見るからにがっちりした身体をしており、肌は浅黒い。
「お前、いい加減にしろよ。ちょっと強いからって人のことを馬鹿にしやがって」
 酒焼けのような掠れた声で、アレンはリベルトの胸倉に掴みかかった。
「お、おい、どうしたんだアレン」
 慌ててアルバが仲介に入り、ふたりの距離を一定に保たせる。アレンは怒りが収まらないのか、今にもまた掴みかかりそうな勢いだ。
「どうもこうもないぜ。アルバ団長よ。こいつ、俺たち騎士団を見下してんだ。なにもできないなら帰れだの、足手まといだの、散々言われたよ。こっちも命がけで仕事してんのに、魔法騎士団ってのはそんなにえらいのか? ええ?」
 アレンの声が魔法騎士団の玄関先に響き渡る。詰め寄られたアルバは、神妙な面持ちで無言を貫くリベルトのほうを見た。
「リベルト、アレンの言っていることは本当なのか?」
「……ああ。たしかに言った」
「お前……! なんでそんなことを……」
 言い訳もせずにあっさり認めるリベルトに、アルバは怒りを通り越して呆れているように見える。
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