このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「俺たちは互いを理由に、異性をあしらえるということだな」
「そうなると……リベルト様の気になる人は私でいいんですか?」
 話の流れ的に自分だと思っていたが、念のため確認してみる。
「? 当然だろう」
(やっぱり私なんだ。だけど……)
 根本的な疑問が、フィリスの脳内を埋め尽くす。
「リベルト様は、なぜ私が気になるのですか?」
 世話係が主人を気にするのは、至って普通の現象だ。でも、逆の場合はどんな理由があるのか。
 さらに言えば、リベルトは仕事一筋の男性だ。そんな彼の気になる要素に自らが入ったのは、どんな経緯があってのことなのか純粋に気になった。
 好奇心の詰まったまんまるな瞳を向けて、フィリスはリベルトの返事を待つ。
「……なぜ、なんだろう?」
 少し間が空いて、リベルトは不思議そうな表情を浮かべたままそう言った。
「教えてくれフィリス。俺はどうして君に興味が湧くのだろう。理由を考えてもわからない」
質問に質問で返されるとは思わなかったため、フィリスも肩透かしをくらってしまう。
「そんなこと言われても――あっ! リベルト様、以前私を変わっていると仰っていましたよね。それなら新種の魔物を見つけたときのような探求心が、一時的に私に芽生えているのかもしれませんよ」
 いつもなら一週間程度でいなくなった世話係が、もうすぐここへ来て二か月が経とうとしている。フィリスから見てもリベルトはこれまで出会ったことのないタイプの人間だが、逆も然りだ。
「そう言われると、気持ちが高揚する感覚はそれに似ている。……だけど、なにか違う気もするんだ」
 考えても答えが出ない。そんな状況が気持ち悪いのか、リベルトは顎に手をあてて見つからない答えを一生懸命首を捻って考えている。
 アドバイスをしてあげたいが、フィリスも人の感情を除くことは不可能だ。それに、違いなどないだろうと勝手にたかをくくっていた。彼にとって、自分はただの新種の魔物的存在。それだけだ。
「リベルト様、そろそろ会議のお時間ですよ」
「ああ。そうだったな。行ってくる」
 リベルトは時計に目をやってドアのほうに歩き出した。フィリスは会議に同席しないため、部屋でお見送りすることに。
「はい。明日またコミュニケーションのトレーニングをしましょうねっ」
「……またやるのか。だが君が必要というのなら仕方がない」
「リベルト様ったら、ずいぶん素直に頼みを聞いてくれるようになりましたね」
「今のところ、君の教えは役立っているからな。食も睡眠も楽しめるようになった」
 前例があるおかげで、気の乗らないコミュニケーショントレーニングも付き合ってくれる。
 リベルトのいなくなった部屋で、フィリスは明日どんな方法でトレーニングをしようか考えていた。
(そういえば、私宛に手紙が届いていたんだっけ。きっと家族からね。今朝は忙しくてチェックできなかったから、今のうちに見ておこうっと)
 フィリスが王都へ出稼ぎに行ってから、家族は頻繁に手紙をくれていた。魔法騎士団で働くのが決まってすぐにその報告をしたため、実家からの手紙はすべて魔法騎士団宛てに届くようになっている。
元気でやっているか、仕事は辛くないか――そういった内容がお決まりで、今回もその類だろう。そう思い手紙を手に取ると、差出人の欄にはジェーノの名前のみが記載されていた。
(……今回はお兄様ひとりが書いてくれたのかしら)
 封蝋を剥がし、二枚の便箋を取り出す。
 そこにはフィリスを心配する言葉以外にも、フィリスがいなくなった屋敷がどれだけ静かで、どれだけ寂しい思いをしているかが長々と綴られていた。哀愁漂う文章ではあったが、フィリスは読んでいると自然と口元が綻んだ。
(元気そうでよかった)
 綺麗であるが大きく圧を感じる筆跡に、ジェーノの力強さを感じる。
 後半はほとんど妹への溺愛っぷりが書かれており、フィリスも「はいはい」と呆れた様子だったが、最後のP.Sの欄を見ておもわず固まった。
〝P.S 二十日、魔法騎士団に遊びに行くことにしたんだ! 午後には到着すると思うよ。愛しいフィリス、待っていておくれ〟
「二十日って……明日!?」
 焦って今日の日付を確認する。何度確認しても十九日だ。つまり、明日ジェーノが魔法騎士団へやって来る。……完全にアポなしで。
(お兄様、なにを考えているの!? ずっと僻地にいるから、一般的常識が多少欠けているのはわかるけれど……!)
フィリスもいきなり突撃した身だが、あれは忘れ物を届けるという使命があったからだ。
(とにかく、会議が終わったらアルバ団長とリベルト様に確認しなくっちゃ)
 今頃、うきうきで王都へ出る準備をしているであろうジェーノとは対極に、フィリスははらはらとした気持ちで会議終了を待つこととなった。
 そして会議終了後。フィリスはアルバに事情を説明しに行く。確認したところ、やはり来客のアポ取りはされていなかった。
 わざわざ王都まで来てくれる兄を追い返すのも心苦しい。そんなフィリスの胸中を察してか、アルバが特別な対応をしてくれた。
「よし。明日は休みをとっていいぞ。フィリスくん。おもえば君に、まともな休日を与えられていなかったな」
 こちらの都合にもかかわらず、アルバが申し訳なさそうに後ろ頭を掻いた。
「そんな、丸一日休みなんていりません。そんな勝手はリベルト様にも申し訳ないです」
「俺はそんなことで気を悪くしないから安心していい。ただそうなると、トレーニングも延期だな」
 トレーニングと聞いて、イリスははっとする。
(お兄様の来訪……これはいい機会かもしれないわ!)
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