このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「魔物襲来、魔物襲来です!」
伝令係がそう叫びながら、緊迫した表情で庭園に駆け込んでくる。
この国には国の治安のために教育されたカラスに似た魔鳥が存在する。魔鳥は国の監視役を担っており、トラブルが発生した際、素早く情報を届けてくれるのだ。
(こんな緊急事態、初めてだわ)
フィリスの胸をざわついた。よりによってジェーノが訪問しているときにこんな事態が起きるなんて。
「現場はどこだ。魔物の種類は?」
言葉を失うフィリスとジェーノをよそに、リベルトが伝令係に冷静に問いかける。
「王都から南西に位置する辺境地です。魔物はワイバーンの群れ。地方騎士が向かって応戦中ですが、飛行能力を持つため苦戦しています」
伝令係の報告を聞いて、フィリスとジェーノが顔を見合わせる。まるで鏡のように、互いの顔色がさーっと青ざめていった。
「……南西の辺境地って……私たちの家がある場所だわ……」
「そんな……今朝はなんともなかった。変わった様子なんて、どこにも」
「お兄様、どうしよう! もしお父様とお母様……屋敷のみんなになにかあったら……!」
心臓の音がうるさくなって、声は勝手に震えだす。それはジェーノも同様だった。
「ああ、どうして僕はこんな日に、みんなを置いて出て行ってしまったんだ」
後悔が押し寄せて、フィリスを抱きしめようと伸ばした手が弱弱しく空を切る。場違いにこの場を彩るお菓子たちは、この重い空気を現すように乾き始めた。
「……フィリス。ジェーノ」
全身が震え、動揺に支配されているふたりの名前を、リベルトがなぞるようにゆっくりと呼んだ。
「安心しろ。絶対に全員助ける」
リベルトの目つき、そして目の色が変わった。
「ついてこい。現場へ行く」
「で、でも、ここからは数時間かかります……!」
実際に馬車でここまで来たフィリスは、どれだけ距離が遠いか把握している。これから現場へ向かって全員助けるなど現実的ではない。
「つべこべ言わずに一緒に来い。そうすれば、不安なんて消してやる」
リベルトは凛々しい眼差しでそう告げると、すぐさま門のほうへ走り出した。もつれそうになる足を必死に動かして、フィリスとジェーノも後を追う。絶望が襲ってくるこの状況下で、その背中はやけに大きく逞しく見えた。
「エルマー、状況は」
門の手前にエルマーの姿、そして奥にはアルバ、アレンに加えて魔法団の団長、ローランの姿があった。
「地方に待機していたのが騎士のみだったため、飛行型のワイバーンを捉えるのに苦戦しているようです」
「ローランの転移魔法を使おう」
「その予定です。現在、誰が向かうかの話し合い中です。ローランさんの魔力をフルで使っても、連れて行けるのは四人までですから」
リベルトはローランの持つ転移魔法の能力を使って、事件現場である僻地へ飛ぼうとしているようだ。
(四人までなら……間違いなく私とお兄様は行けない……)
戦力となる人が行くべきだ。戦えないフィリスやジェーノが向かったところでなんの役にも立たない。……頭ではそう理解しているのに、気持ちは簡単に割り切れなかった。もどかしい気持ちを抱えたまま、フィリスは無力な己を悔やんで唇を噛みしめる。
「リベルト、早く来い! この四人で現場へ飛ぶ」
既に待機している三人とリベルトで、転移魔法を使うことに決定したようだ。
「アルバ団長。フィリスとジェーノも連れて行ってほしい」
リベルトはアルバに呼ばれてその輪へ入っていくなり、とんでもないことを言いだした。
「なにを言っているんだ。緊急事態だぞ」
「襲われているのは彼女らの実家近くなんだ。家族の無事を本人たちの目で一刻も早く確認させてやるべきだろう」
リベルトが熱を込めて言うと、アルバは面食らった顔を見せる。
「……お前がそんなことを言うとはな。いつも効率でものを判断していたというのに」
感心したような、でも少し呆れたようなそんな表情を浮かべて、アルバはフィリスとジェーノに視線を向ける。
「お願いしますアルバ団長……! 私たちが無力なのはわかっています。でも、みんなが心配なんです!」
「僕からも無理を承知でお願いいたします!」
このチャンスを逃さないとばかりに必死に訴えかけると、アルバはため息をついた。
「リベルト、お前、責任とれるんだろうな……?」
「ワイバーンなら過去に何度も倒してきた。何体いようが平気だ」
「……わかった。じゃあ私は辞退するよ」
アルバが居残りを決めたところで、黙って話を聞いていたアレンが大きな音を出して舌打ちをする。
「はっ。またこれか。ひとりで余裕って言いたいんだろ。女にいいところ見せて功績もひとりじめか。どうせ飛行型のワイバーンに、剣しか扱えない俺は必要ないって言いたいんだろ。魔法のほうが遠隔攻撃ができるもんなぁ?」
戦場へ行く候補者として外されたと判断したアレンは、リベルトへの不満が止まらない。
「勝手にしろ。ローランも付き合わされてかわいそ――」
「いいや。アレンは一緒に来てもらう」
さっさとその場を去ろうとするアレンの肩を、リベルトが背後からぎゅっと掴む。
伝令係がそう叫びながら、緊迫した表情で庭園に駆け込んでくる。
この国には国の治安のために教育されたカラスに似た魔鳥が存在する。魔鳥は国の監視役を担っており、トラブルが発生した際、素早く情報を届けてくれるのだ。
(こんな緊急事態、初めてだわ)
フィリスの胸をざわついた。よりによってジェーノが訪問しているときにこんな事態が起きるなんて。
「現場はどこだ。魔物の種類は?」
言葉を失うフィリスとジェーノをよそに、リベルトが伝令係に冷静に問いかける。
「王都から南西に位置する辺境地です。魔物はワイバーンの群れ。地方騎士が向かって応戦中ですが、飛行能力を持つため苦戦しています」
伝令係の報告を聞いて、フィリスとジェーノが顔を見合わせる。まるで鏡のように、互いの顔色がさーっと青ざめていった。
「……南西の辺境地って……私たちの家がある場所だわ……」
「そんな……今朝はなんともなかった。変わった様子なんて、どこにも」
「お兄様、どうしよう! もしお父様とお母様……屋敷のみんなになにかあったら……!」
心臓の音がうるさくなって、声は勝手に震えだす。それはジェーノも同様だった。
「ああ、どうして僕はこんな日に、みんなを置いて出て行ってしまったんだ」
後悔が押し寄せて、フィリスを抱きしめようと伸ばした手が弱弱しく空を切る。場違いにこの場を彩るお菓子たちは、この重い空気を現すように乾き始めた。
「……フィリス。ジェーノ」
全身が震え、動揺に支配されているふたりの名前を、リベルトがなぞるようにゆっくりと呼んだ。
「安心しろ。絶対に全員助ける」
リベルトの目つき、そして目の色が変わった。
「ついてこい。現場へ行く」
「で、でも、ここからは数時間かかります……!」
実際に馬車でここまで来たフィリスは、どれだけ距離が遠いか把握している。これから現場へ向かって全員助けるなど現実的ではない。
「つべこべ言わずに一緒に来い。そうすれば、不安なんて消してやる」
リベルトは凛々しい眼差しでそう告げると、すぐさま門のほうへ走り出した。もつれそうになる足を必死に動かして、フィリスとジェーノも後を追う。絶望が襲ってくるこの状況下で、その背中はやけに大きく逞しく見えた。
「エルマー、状況は」
門の手前にエルマーの姿、そして奥にはアルバ、アレンに加えて魔法団の団長、ローランの姿があった。
「地方に待機していたのが騎士のみだったため、飛行型のワイバーンを捉えるのに苦戦しているようです」
「ローランの転移魔法を使おう」
「その予定です。現在、誰が向かうかの話し合い中です。ローランさんの魔力をフルで使っても、連れて行けるのは四人までですから」
リベルトはローランの持つ転移魔法の能力を使って、事件現場である僻地へ飛ぼうとしているようだ。
(四人までなら……間違いなく私とお兄様は行けない……)
戦力となる人が行くべきだ。戦えないフィリスやジェーノが向かったところでなんの役にも立たない。……頭ではそう理解しているのに、気持ちは簡単に割り切れなかった。もどかしい気持ちを抱えたまま、フィリスは無力な己を悔やんで唇を噛みしめる。
「リベルト、早く来い! この四人で現場へ飛ぶ」
既に待機している三人とリベルトで、転移魔法を使うことに決定したようだ。
「アルバ団長。フィリスとジェーノも連れて行ってほしい」
リベルトはアルバに呼ばれてその輪へ入っていくなり、とんでもないことを言いだした。
「なにを言っているんだ。緊急事態だぞ」
「襲われているのは彼女らの実家近くなんだ。家族の無事を本人たちの目で一刻も早く確認させてやるべきだろう」
リベルトが熱を込めて言うと、アルバは面食らった顔を見せる。
「……お前がそんなことを言うとはな。いつも効率でものを判断していたというのに」
感心したような、でも少し呆れたようなそんな表情を浮かべて、アルバはフィリスとジェーノに視線を向ける。
「お願いしますアルバ団長……! 私たちが無力なのはわかっています。でも、みんなが心配なんです!」
「僕からも無理を承知でお願いいたします!」
このチャンスを逃さないとばかりに必死に訴えかけると、アルバはため息をついた。
「リベルト、お前、責任とれるんだろうな……?」
「ワイバーンなら過去に何度も倒してきた。何体いようが平気だ」
「……わかった。じゃあ私は辞退するよ」
アルバが居残りを決めたところで、黙って話を聞いていたアレンが大きな音を出して舌打ちをする。
「はっ。またこれか。ひとりで余裕って言いたいんだろ。女にいいところ見せて功績もひとりじめか。どうせ飛行型のワイバーンに、剣しか扱えない俺は必要ないって言いたいんだろ。魔法のほうが遠隔攻撃ができるもんなぁ?」
戦場へ行く候補者として外されたと判断したアレンは、リベルトへの不満が止まらない。
「勝手にしろ。ローランも付き合わされてかわいそ――」
「いいや。アレンは一緒に来てもらう」
さっさとその場を去ろうとするアレンの肩を、リベルトが背後からぎゅっと掴む。