このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「……は? な、なんで俺が」
「ローランの転移魔法は、自分以外の誰かを送り込むだけでも使えるはずだ。そうなれば、ローランを除いた四人が転移できる。最後のひとりはアレンだ」
「だから、なんで俺なんだよッ!」
「ワイバーンは尻尾を落とすまでが大変な魔物だ。だが、魔法でピンポイントに尻尾を落とすのは難しい。しかもそれが一体だけでなく何体もいるならなおさらだ」
ワイバーンは尻尾に毒を持つ、ドラゴン型の魔物。弱点の尻尾を切り落とせばバランスが保てずに飛行ができなくなる――リベルトの魔物資料にそう書いてあったのを、フィリスはふと思い出す。
「! リベルト様が魔法で飛行バランスを崩して、よろけたところをアレン副団長が狙って切り落とす! こういうことですね!?」
リベルトのあらゆる魔物対策一覧を見てきたせいか、フィリスの脳内にあっという間にその図が描かれる。読みは当たっていたようで、リベルトはにやりと笑みを浮かべた。
「その通り。現場にはほかの地方騎士もいるだろうが――一発で尻尾を仕留められるような腕の立つ騎士は、アレン。君しかいない」
「……!」
淡々としているが、素直で真っすぐな言葉を受け、アレンの目が見開かれる。
「……ちっ。わかったよ。行けばいいんだろ」
不満そうな物言いだが、表情はやる気に満ち溢れている。
「ローランはそれでいいか?」
アルバがローランを気遣うと、ローランは苦笑しながら言う。
「構わないです。むしろ助かりました。四人分の転移魔法を使うと、魔力消費が大きくて身体に負担がかかるんです。僕は現場に行ったところでしばらくはなにもできない。それならアレンが行く方が効率はいいでしょう。……帰りは自力で戻ってもらうことになりますが、そこさえ承諾いただけるならすぐにでも転移させます」
「頼む」
「わかりました。では……」
迷いのないリベルトの即答を聞いて、ローランが四人に向けて両手をかざす。
次第に大きな光に包まれて、全身が呑まれていく感覚がした。おもわず目を固く閉じる。そして次に開けたときには――懐かしい緑の景色が飛び込んできた。
(すごい! こんな一瞬で!)
フィリスは転移魔法の凄さを身をもって思い知った。こんなすごい魔法を使えるのなら、魔法団の団長になるのも頷ける。
「ジェーノ、フィリスを連れてできるだけ隅に下がっていろ」
リベルトが空を見上げたままジェーノに指示を出す。つられて上を見ると……ワイバーンの群れがぐるぐると空を飛び回っていた。
(さん、よん、ご、ろく……七体はいる!)
ようやくリアルに身の危険が迫っているのを感じ取って、フィリスの背筋にぞくりと悪寒が走る。
「フィリス、行こう!」
ジェーノはフィリスの手を取って、ワイバーンの群れが飛んでいる場所から離れて行った。転移した位置は、実家のキャロル家がある道中だ。だが屋敷がすぐそこに確認できるほど近い位置にあたる。
(遠目で見たところ……屋敷や庭が荒らされている形跡はないわ)
即座に走り出して安否を確認したいが、勝手な行動を取ればリベルトたちに迷惑がかかるかもしれない。まずは自らの安全をきちんと確保するのが先だと思い、フィリスは動きだしそうな足を踏ん張った。
地方騎士が数名、リベルトとアレンのもとに駆け寄る。ワイバーンを仕留めようと試みたが、魔法が使えないため高く飛ばれると手も足も出せない。そんな状況を切羽詰まった声で説明しているのが、フィリスの耳にも届いた。
(リベルト様、何体でも大丈夫だと言っていたけど……実際はどうなんだろう)
信頼の中にも、心配は生まれる。
(どうか……この危機を救って!)
――フィリスがそう願ってからは、本当に一瞬の出来事だった。
リベルトは一寸も狂わずに飛んでいるワイバーンに氷魔法を放った。尖った氷柱が銃弾のようにワイバーンに直撃すると、ふらついたところでアレンが高くジャンプをしそのまま尻尾を切り落とす。これもまた、正確に一撃で尻尾を仕留めていた。
まるで流れ作業のように蹴散らしていくと、地面に落ちたワイバーンをリベルトが広範囲の火属性魔法で一気に燃やしていく。普通の炎とは違う魔力を帯びた炎は、ワイバーンの硬い鱗をも貫通して焼き尽くした。
「ふぅ。もう終わりか? 転移魔法まで使った割にはあっけなかったな」
ワイバーンの体液が付着した剣をしまい、アレンが暴れたりないと伸びをする。
「……にしても、さすがだねぇリベルトは。俺がいる必要はなかったかもな」
アレンはそう言って、ゆらめく炎を見つめた。
「いいや。君が確実に尻尾を捉えてくれたおかげで、俺も助かった。それに……以前よりアレンの剣の腕が上がっている気がする。先日の任務で俺が下した判断は、間違っていたかもしれないな」
「な、なんだよお前。いきなり調子狂うだろ。これまで俺の剣の腕なんて、見もしなかったくせに」
「見てはいた。だから呼んだんだ。ただ、わざわざ褒める意味はないと思っただけだ」
「じゃあどうして褒めてくれたんだよ。一時の気の迷いか?」
けだるげに鼻で笑うアレンに、リベルトは言う。
「意味のないことでも、伝えることで相手が喜ぶのなら悪くない。コミュニケーションとはそういうものなんだろう」
「……なんだか意味わかんねぇけど……ああ、ったく! 俺もこないだは悪かったよ!」
「べつにいい。それより素行の悪さを直せ。剣の腕がもったいない」
「あー、やっぱうざってぇ!」
アレンは頭を抱え、リベルトから顔を背ける。言葉と裏腹に、アレンはどこか嬉しそうだった。
一触即発だったふたりがここへ来て仲直りできたようで、フィリスも微笑ましそうにその姿を見守った。
「ローランの転移魔法は、自分以外の誰かを送り込むだけでも使えるはずだ。そうなれば、ローランを除いた四人が転移できる。最後のひとりはアレンだ」
「だから、なんで俺なんだよッ!」
「ワイバーンは尻尾を落とすまでが大変な魔物だ。だが、魔法でピンポイントに尻尾を落とすのは難しい。しかもそれが一体だけでなく何体もいるならなおさらだ」
ワイバーンは尻尾に毒を持つ、ドラゴン型の魔物。弱点の尻尾を切り落とせばバランスが保てずに飛行ができなくなる――リベルトの魔物資料にそう書いてあったのを、フィリスはふと思い出す。
「! リベルト様が魔法で飛行バランスを崩して、よろけたところをアレン副団長が狙って切り落とす! こういうことですね!?」
リベルトのあらゆる魔物対策一覧を見てきたせいか、フィリスの脳内にあっという間にその図が描かれる。読みは当たっていたようで、リベルトはにやりと笑みを浮かべた。
「その通り。現場にはほかの地方騎士もいるだろうが――一発で尻尾を仕留められるような腕の立つ騎士は、アレン。君しかいない」
「……!」
淡々としているが、素直で真っすぐな言葉を受け、アレンの目が見開かれる。
「……ちっ。わかったよ。行けばいいんだろ」
不満そうな物言いだが、表情はやる気に満ち溢れている。
「ローランはそれでいいか?」
アルバがローランを気遣うと、ローランは苦笑しながら言う。
「構わないです。むしろ助かりました。四人分の転移魔法を使うと、魔力消費が大きくて身体に負担がかかるんです。僕は現場に行ったところでしばらくはなにもできない。それならアレンが行く方が効率はいいでしょう。……帰りは自力で戻ってもらうことになりますが、そこさえ承諾いただけるならすぐにでも転移させます」
「頼む」
「わかりました。では……」
迷いのないリベルトの即答を聞いて、ローランが四人に向けて両手をかざす。
次第に大きな光に包まれて、全身が呑まれていく感覚がした。おもわず目を固く閉じる。そして次に開けたときには――懐かしい緑の景色が飛び込んできた。
(すごい! こんな一瞬で!)
フィリスは転移魔法の凄さを身をもって思い知った。こんなすごい魔法を使えるのなら、魔法団の団長になるのも頷ける。
「ジェーノ、フィリスを連れてできるだけ隅に下がっていろ」
リベルトが空を見上げたままジェーノに指示を出す。つられて上を見ると……ワイバーンの群れがぐるぐると空を飛び回っていた。
(さん、よん、ご、ろく……七体はいる!)
ようやくリアルに身の危険が迫っているのを感じ取って、フィリスの背筋にぞくりと悪寒が走る。
「フィリス、行こう!」
ジェーノはフィリスの手を取って、ワイバーンの群れが飛んでいる場所から離れて行った。転移した位置は、実家のキャロル家がある道中だ。だが屋敷がすぐそこに確認できるほど近い位置にあたる。
(遠目で見たところ……屋敷や庭が荒らされている形跡はないわ)
即座に走り出して安否を確認したいが、勝手な行動を取ればリベルトたちに迷惑がかかるかもしれない。まずは自らの安全をきちんと確保するのが先だと思い、フィリスは動きだしそうな足を踏ん張った。
地方騎士が数名、リベルトとアレンのもとに駆け寄る。ワイバーンを仕留めようと試みたが、魔法が使えないため高く飛ばれると手も足も出せない。そんな状況を切羽詰まった声で説明しているのが、フィリスの耳にも届いた。
(リベルト様、何体でも大丈夫だと言っていたけど……実際はどうなんだろう)
信頼の中にも、心配は生まれる。
(どうか……この危機を救って!)
――フィリスがそう願ってからは、本当に一瞬の出来事だった。
リベルトは一寸も狂わずに飛んでいるワイバーンに氷魔法を放った。尖った氷柱が銃弾のようにワイバーンに直撃すると、ふらついたところでアレンが高くジャンプをしそのまま尻尾を切り落とす。これもまた、正確に一撃で尻尾を仕留めていた。
まるで流れ作業のように蹴散らしていくと、地面に落ちたワイバーンをリベルトが広範囲の火属性魔法で一気に燃やしていく。普通の炎とは違う魔力を帯びた炎は、ワイバーンの硬い鱗をも貫通して焼き尽くした。
「ふぅ。もう終わりか? 転移魔法まで使った割にはあっけなかったな」
ワイバーンの体液が付着した剣をしまい、アレンが暴れたりないと伸びをする。
「……にしても、さすがだねぇリベルトは。俺がいる必要はなかったかもな」
アレンはそう言って、ゆらめく炎を見つめた。
「いいや。君が確実に尻尾を捉えてくれたおかげで、俺も助かった。それに……以前よりアレンの剣の腕が上がっている気がする。先日の任務で俺が下した判断は、間違っていたかもしれないな」
「な、なんだよお前。いきなり調子狂うだろ。これまで俺の剣の腕なんて、見もしなかったくせに」
「見てはいた。だから呼んだんだ。ただ、わざわざ褒める意味はないと思っただけだ」
「じゃあどうして褒めてくれたんだよ。一時の気の迷いか?」
けだるげに鼻で笑うアレンに、リベルトは言う。
「意味のないことでも、伝えることで相手が喜ぶのなら悪くない。コミュニケーションとはそういうものなんだろう」
「……なんだか意味わかんねぇけど……ああ、ったく! 俺もこないだは悪かったよ!」
「べつにいい。それより素行の悪さを直せ。剣の腕がもったいない」
「あー、やっぱうざってぇ!」
アレンは頭を抱え、リベルトから顔を背ける。言葉と裏腹に、アレンはどこか嬉しそうだった。
一触即発だったふたりがここへ来て仲直りできたようで、フィリスも微笑ましそうにその姿を見守った。