このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
 午後六時。調査もひと段落付き、フィリスはリベルトとアレンと共に支部に帰ることになった。馬車に揺られながら、見えなくなるまでキャロル家の面々に手を振り続けた。
 しばらくはまたこの地と離れ離れだ。それでも、最初に王都へ発つときのような寂しさはない。再会の時間は短かったが、家族の絆を再確認するにはじゅうぶんな時間だった。
「ここから五時間か。支部に着くころには真っ暗だな」
 窓から夕焼け空を見上げ、アレンがけだるげに呟く。
 狭すぎず、かといって広すぎず、中くらいの広さがある馬車内にはリベルトにアレン、そしてフィリスという変わった三人組が座っている。
「そういえば、調査では特に気になる箇所は見当たらなかったんですか?」
 ふたりともが答えられる質問をすると、先に反応を示したのはアレンだった。
「大きな被害が出る前に俺たちで食い止めたからな。大事には至らなかったぜ。被害者もゼロ。これは帰ったら褒美が楽しみだ」
 親指と人差し指で、金貨を表すマルを作ると、アレンは悪い笑みを浮かべた。
「ひとつ、気になる点があるといえば……フィリスの屋敷から近い場所に、倒した覚えのないワイバーンの死骸があったことだ。しかも、なかなか無残なやられ方でな」
 今度はリベルトが神妙な面持ちでそう言った。
「ああ、辺りは血まみれだったもんな。あの血のにおいに誘われて、群れが襲ってきたに違いねぇ。やつらはバカだが目と鼻が利くからな」
 フィリスが住む僻地の周辺には沼地があり、そこにはずっと昔からワイバーンが棲みついていた。近づかなければ危害は加えられないと言われていたため、誰もその沼地に足を踏み入れないのが暗黙のルールとなっていたはずだが……。
「ワイバーンは縄張りを守る習性がある。縄張りを荒らされたり勝手に侵入しない限り、自分たちから外に出ることはない。僻地に派遣された騎士が定期的に沼地を監視し、数年間なにも起きなかったというのに……なぜこうなったのか」
「どうせ通りすがりの冒険者か、ワイバーンの毒を狙ったろくでもねぇ連中が私欲のために縄張りに踏み込んだんだろ。田舎はどうしても王都より警備が薄くて狙われやすい。深い理由はねぇさ」
 尻尾の毒は、どうやら薬に使えるらしい。といっても毒薬のため、表では取引されることはないようだ。
「……そうだな。誰かが仕組んだという証拠もない」
「そういうこった。さてと、俺は支部に着くまで寝かせてもらうぜ」
 フィリスとリベルトは横並びに座っているが、アレンはその向かい側をひとりで独占して座っている。
 両手を頭の後ろで組んだ状態でアレンはその場に寝転がると、五分もすればいびきをかいて爆睡していた。
 車輪が道を駆ける音と、アレンのいびき。耳ざわりがいいとは決して言えない音を聞きながら、馬車はひたすら支部までの道を走っていく。
「リベルト様、今日は本当にありがとうございました。魔物はもちろん、私とお兄様をここに連れてきてくれたことも感謝いたします」
 当初の四人で来ていれば、帰りも馬車に乗らずに済んだだろうに。
「不謹慎かもしれないですが……一緒に来られてよかったです。魔物と戦うリベルト様は……純粋にとってもかっこよかったです」
 足元をふらつかせ、ぼろぼろになっていた人とは思えない。エリートと呼ばれる所以を疑う余地もないほど、完璧な戦闘だった。
「それを言うなら、俺もいいものが見れた。フィリスは兄弟だけでなく、家族みんなの仲がいいんだな。支え合って生きているのがよくわかった。……素敵な家族だ」
 自分だけでなく、家族ごと褒められるのは倍嬉しくもあり、照れくさくもある。
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