このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「リベルト様は伯爵家に帰ったりするのですか? どんな家族か気になります」
いろんなところが常人と大きくズレていたリベルトは、幼い頃どういった環境で過ごしていたのだろうか。
「俺の家族は……そうだな。両親は物凄く厳しかった。俺の父上は魔法騎士に入りたかったが、入団試験を落ちてその夢を諦めていたんだ。そのせいか、俺に自分の夢を叶えさせようと必死だった。幸い魔力は元々強かったんだが、剣技に関しては物心がついたときからみっちり稽古をつけられた」
朝から晩まで、手に血豆ができるほどだったとリベルトは嘲笑する。
「それでもうまくできると褒めてくれる。子供だった俺は、それだけのために頑張れたんだ。俺には弟がいるんだが、弟は正反対にのびのびと自由に育てられていたよ。弟は魔力がなかった。父上の願いを叶える役目としては選ばれなかったが、息子として大事にされていた」
(それって――どっちが幸せなんだろう)
話を聞いて、フィリスはふとそう思った。比べるものではないとわかっている。だが、リベルトが父親にエゴを押し付けられていたのは違いない。
「俺は魔法騎士団に入らなければ息子でいられない。そんなわけないのに、頭が勝手にそう解釈していた。だからほかのことに興味を持ったり、娯楽を楽しむ暇はない。……そのおかげか、俺が一発で魔法騎士団の試験に受かったときはすごく喜ばれた」
同時にやっと解放された気がしたと、リベルトは言った。
「最初は親のために入った魔法騎士団だったが、俺は入団してからこの仕事の楽しさにのめり込んだ。魔法、剣技、魔物。そのすべてが奥深く、興味が湯水のように湧いて出てくる。好きな時間に好きなだけ仕事をしても、誰も俺を咎めない。最高の環境だった」
(使用人や親の目がなくなって、解放されたリベルト様の完成形が――私が出会った頃のリベルト様だったのね)
昔からあんなに滅茶苦茶だったわけではない。その気質を持ちながら、ずっと押さえつけられていた。そのため解放されたことで、一気に反動がきてしまったのだ。
「魔法騎士団への道を示してくれた父上にも感謝するようになった。だが、俺が副団長に昇格する直前に、父上に言われたんだ。副団長としてのキャリアをある程度積んだら退団して実家を継げと。父上の中では、俺が魔法騎士団に受かった時点で自分の夢が達成されていたんだろう」
「そんなの、自分勝手すぎます……!」
人の親を悪く言いたくないが、気づけば声を発していた。
「俺もそのとき気づいた。俺が努力したのは、父上に誇れる息子になるためじゃない。自分自身のためだったんだと。生まれて初めて猛反発して、魔法騎士団に残留する決意をした。実家は弟が継ぐことになったが、それからあまり連絡はこなくなったな。だから伯爵家に帰る機会はない」
フィリスは憂いを帯びたリベルトの横顔を、静かに見つめていた。
「でも、俺はこの選択に後悔は微塵もない。大好きな仕事を続けられる。それは、俺が望んだ幸せだと言い切れる。……それに今日、改めて気付かされた。フィリス、君のおかげで」
「……私?」
フィリスのほうを向くと、リベルトは小さく頷いてみせる。
「俺はいつも国のため、民のためと言いながら、魔物と戦えることにやりがいを感じていた部分が大きかった」
魔物を攻略し、新たな技を考える。それらはリベルトの仕事でもあり、趣味でもある。
「だが今日は――君と、君の故郷を守るためだけに戦った。おかげで戦闘時のことをなにも覚えていない。帰っても、まとめるものがなにもない」
リベルトは言う。誰かを、なにかを守るのが〝騎士〟だったと。その最高位にいるのが、魔法騎士団なのだと。
「フィリスにはこれまでも、いろんなことを教わった。ここへきてまさか、騎士としての在り方まで教わるとは思わなかったな」
ただただ強く才能があり、気づけばこの地位まで上り詰めていた。
そんなリベルトがまた一歩、大きく成長するこの瞬間に立ち会えて、フィリスは光栄だと思う。
「実は私も今日、気づいたことがあるんです」
「……君も?」
「はい。自分の間違いに。私はリベルト様に、初めて間違いを教えてしまいました」
思い当る節がないようで、リベルトはきょとんとしている。
「リベルト様にコミュにケーショントレーニングは必要ありません。私のアドバイスや教えは、忘れていただいて結構です」
「なぜ急にそう思ったんだ? アルバ団長やエルマーも、俺にはコミュニケーション能力が必要だと言っていただろう」
「ええ。でも、私は今日いらないと判断しました。だって、特別なことをなにもしなくたって、お兄様もアレン副団長も、最終的にはリベルト様を認めていらっしゃいましたよね」
どんなに印象が落ちていても、それを白紙にする力をリベルトは既に持っている。
たしかにうまく生きていく上でコミュニケーション能力は必須だ。しかしそれ以上の部分で大きな魅力を持ってさえいれば、自ずとカバーされていく。
それに最近のリベルトは、フィリスから見ても変わった。雰囲気も柔らかくなり、協調性も出てきた。今回アレンをこの場に誘ったのも、今のリベルトだからできたこと。そのためアレンは最初、あんなに驚いていたに違いない。
意味のない言葉を伝えられるようになったのも……リベルトの中で変化が生まれ、常に成長しているからだ。
「リベルト様。あなたはありのままで、じゅうぶん魅力的です。それはもう、私があなただけに集中してしまうくらい」
リベルトを見つめると、自然にふわりと笑みがこぼれる。彼の瞳に移るフィリスの姿は、幸福感に満ち溢れたような表情で笑っていた。
春の風邪のような柔らかな微笑みを受け、リベルトが自らの左胸を押さえる。
「……ここが温かくなる理由が、わかった」
「……えっ?」
独り言のように、リベルトが小声でなにかを呟いた。
「なぜ俺がフィリスに興味を持っているのかも。……そうか。単純なことだった」
「リ、リベルト様?」
「フィリス。俺は自分が好きなものにしか興味がない」
「はい。知ってますけど――え?」
なんとなくフィリスはリベルトの言いたいことを察して、まさかと思いつつ顔が早速熱くなってくる。
「ずっと君に興味があった。そしてこの興味は、好きってことだと気づいた」
「!」
ムードもへったくれもなければ、寝ているとはいえ第三者がいる空間での告白。
そんな状況下でも、リベルトは容赦なくフィリスに前のめりで迫ってくる。
「以前、俺は君の笑顔を可愛いと言ったな」
「え、えっと……」
胸にあてていた手が、今度はフィリスの頬へと伸びた。
誰かに背を押されればキスをしてしまいそうなほどの距離にリベルトがいる。熱のこもった眼差しから逃げようとするも、どうしてか目が離せない。
「今は可愛くもあり……とても、愛おしく思う」
吐息まじりの声で囁くと、リベルトはフィリスの頬にキスを落とした。
「っ!?」
びっくりしてリベルトを見上げると、見たこともない照れくさそうな表情を浮かべている。リベルトはキスを落とした部分を優しく指で撫でながら、固まるフィリスを見て愛おしげに目を細めて笑った。
「フィリス、君が好きだ。この先も一生、俺のそばにいてくれ」
(……い、いきなり重い!)
そう思いながらも、フィリスの心臓は壊れそうなほど早く脈打ち、息をするのさえ忘れていた。
その後も頭の中は真っ白で――フィリスはただ、リベルトを見つめることしかできなかった。
いろんなところが常人と大きくズレていたリベルトは、幼い頃どういった環境で過ごしていたのだろうか。
「俺の家族は……そうだな。両親は物凄く厳しかった。俺の父上は魔法騎士に入りたかったが、入団試験を落ちてその夢を諦めていたんだ。そのせいか、俺に自分の夢を叶えさせようと必死だった。幸い魔力は元々強かったんだが、剣技に関しては物心がついたときからみっちり稽古をつけられた」
朝から晩まで、手に血豆ができるほどだったとリベルトは嘲笑する。
「それでもうまくできると褒めてくれる。子供だった俺は、それだけのために頑張れたんだ。俺には弟がいるんだが、弟は正反対にのびのびと自由に育てられていたよ。弟は魔力がなかった。父上の願いを叶える役目としては選ばれなかったが、息子として大事にされていた」
(それって――どっちが幸せなんだろう)
話を聞いて、フィリスはふとそう思った。比べるものではないとわかっている。だが、リベルトが父親にエゴを押し付けられていたのは違いない。
「俺は魔法騎士団に入らなければ息子でいられない。そんなわけないのに、頭が勝手にそう解釈していた。だからほかのことに興味を持ったり、娯楽を楽しむ暇はない。……そのおかげか、俺が一発で魔法騎士団の試験に受かったときはすごく喜ばれた」
同時にやっと解放された気がしたと、リベルトは言った。
「最初は親のために入った魔法騎士団だったが、俺は入団してからこの仕事の楽しさにのめり込んだ。魔法、剣技、魔物。そのすべてが奥深く、興味が湯水のように湧いて出てくる。好きな時間に好きなだけ仕事をしても、誰も俺を咎めない。最高の環境だった」
(使用人や親の目がなくなって、解放されたリベルト様の完成形が――私が出会った頃のリベルト様だったのね)
昔からあんなに滅茶苦茶だったわけではない。その気質を持ちながら、ずっと押さえつけられていた。そのため解放されたことで、一気に反動がきてしまったのだ。
「魔法騎士団への道を示してくれた父上にも感謝するようになった。だが、俺が副団長に昇格する直前に、父上に言われたんだ。副団長としてのキャリアをある程度積んだら退団して実家を継げと。父上の中では、俺が魔法騎士団に受かった時点で自分の夢が達成されていたんだろう」
「そんなの、自分勝手すぎます……!」
人の親を悪く言いたくないが、気づけば声を発していた。
「俺もそのとき気づいた。俺が努力したのは、父上に誇れる息子になるためじゃない。自分自身のためだったんだと。生まれて初めて猛反発して、魔法騎士団に残留する決意をした。実家は弟が継ぐことになったが、それからあまり連絡はこなくなったな。だから伯爵家に帰る機会はない」
フィリスは憂いを帯びたリベルトの横顔を、静かに見つめていた。
「でも、俺はこの選択に後悔は微塵もない。大好きな仕事を続けられる。それは、俺が望んだ幸せだと言い切れる。……それに今日、改めて気付かされた。フィリス、君のおかげで」
「……私?」
フィリスのほうを向くと、リベルトは小さく頷いてみせる。
「俺はいつも国のため、民のためと言いながら、魔物と戦えることにやりがいを感じていた部分が大きかった」
魔物を攻略し、新たな技を考える。それらはリベルトの仕事でもあり、趣味でもある。
「だが今日は――君と、君の故郷を守るためだけに戦った。おかげで戦闘時のことをなにも覚えていない。帰っても、まとめるものがなにもない」
リベルトは言う。誰かを、なにかを守るのが〝騎士〟だったと。その最高位にいるのが、魔法騎士団なのだと。
「フィリスにはこれまでも、いろんなことを教わった。ここへきてまさか、騎士としての在り方まで教わるとは思わなかったな」
ただただ強く才能があり、気づけばこの地位まで上り詰めていた。
そんなリベルトがまた一歩、大きく成長するこの瞬間に立ち会えて、フィリスは光栄だと思う。
「実は私も今日、気づいたことがあるんです」
「……君も?」
「はい。自分の間違いに。私はリベルト様に、初めて間違いを教えてしまいました」
思い当る節がないようで、リベルトはきょとんとしている。
「リベルト様にコミュにケーショントレーニングは必要ありません。私のアドバイスや教えは、忘れていただいて結構です」
「なぜ急にそう思ったんだ? アルバ団長やエルマーも、俺にはコミュニケーション能力が必要だと言っていただろう」
「ええ。でも、私は今日いらないと判断しました。だって、特別なことをなにもしなくたって、お兄様もアレン副団長も、最終的にはリベルト様を認めていらっしゃいましたよね」
どんなに印象が落ちていても、それを白紙にする力をリベルトは既に持っている。
たしかにうまく生きていく上でコミュニケーション能力は必須だ。しかしそれ以上の部分で大きな魅力を持ってさえいれば、自ずとカバーされていく。
それに最近のリベルトは、フィリスから見ても変わった。雰囲気も柔らかくなり、協調性も出てきた。今回アレンをこの場に誘ったのも、今のリベルトだからできたこと。そのためアレンは最初、あんなに驚いていたに違いない。
意味のない言葉を伝えられるようになったのも……リベルトの中で変化が生まれ、常に成長しているからだ。
「リベルト様。あなたはありのままで、じゅうぶん魅力的です。それはもう、私があなただけに集中してしまうくらい」
リベルトを見つめると、自然にふわりと笑みがこぼれる。彼の瞳に移るフィリスの姿は、幸福感に満ち溢れたような表情で笑っていた。
春の風邪のような柔らかな微笑みを受け、リベルトが自らの左胸を押さえる。
「……ここが温かくなる理由が、わかった」
「……えっ?」
独り言のように、リベルトが小声でなにかを呟いた。
「なぜ俺がフィリスに興味を持っているのかも。……そうか。単純なことだった」
「リ、リベルト様?」
「フィリス。俺は自分が好きなものにしか興味がない」
「はい。知ってますけど――え?」
なんとなくフィリスはリベルトの言いたいことを察して、まさかと思いつつ顔が早速熱くなってくる。
「ずっと君に興味があった。そしてこの興味は、好きってことだと気づいた」
「!」
ムードもへったくれもなければ、寝ているとはいえ第三者がいる空間での告白。
そんな状況下でも、リベルトは容赦なくフィリスに前のめりで迫ってくる。
「以前、俺は君の笑顔を可愛いと言ったな」
「え、えっと……」
胸にあてていた手が、今度はフィリスの頬へと伸びた。
誰かに背を押されればキスをしてしまいそうなほどの距離にリベルトがいる。熱のこもった眼差しから逃げようとするも、どうしてか目が離せない。
「今は可愛くもあり……とても、愛おしく思う」
吐息まじりの声で囁くと、リベルトはフィリスの頬にキスを落とした。
「っ!?」
びっくりしてリベルトを見上げると、見たこともない照れくさそうな表情を浮かべている。リベルトはキスを落とした部分を優しく指で撫でながら、固まるフィリスを見て愛おしげに目を細めて笑った。
「フィリス、君が好きだ。この先も一生、俺のそばにいてくれ」
(……い、いきなり重い!)
そう思いながらも、フィリスの心臓は壊れそうなほど早く脈打ち、息をするのさえ忘れていた。
その後も頭の中は真っ白で――フィリスはただ、リベルトを見つめることしかできなかった。