このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「いや~。改めて、フィリスくんを世話係にしてよかったよ。あいつ、かなり変わったって評判だ。以前のような近寄りづらさも、奇怪な行動も減ってきた。アレンとも仲直りして、騎士団との関係も修復できたよ」
「よかったです。人望を集めるのも時間の問題かもしれませんね」
「ああ。絶望的だった時期団長の座にも希望が見えてきた。……が、そうなるには、もうひとつ重要なミッションをクリアしなくてはならないんだよ」
「ミッション?」
「ずばり、結婚だ。各団体、団長になる者は、既婚が条件とされている」
こうなったのには理由があるとアルバが教えてくれた。
なんでも過去に色ボケをした団長がおり、そのせいで組織バランスが崩れ、たいへんな目に遭ったらしい。
団長たるもの守る者を持ち、責任感を背負うこと。
十年前からこのように、規則が改変されてしまったようだ。
「私たちがいる魔法騎士団も含め、こういった組織に入団したほとんどのやつらは、幼い頃から稽古や勉強に明け暮れていた。異性や恋愛なんかには無縁だったやつが一度その蜜の味を知ると、止められなくなったりする。過去に色ボケした団長は、まさに真面目を絵に描いたような人だったよ。ま、リベルトに限ってそれはないだろうがな! あっはっは!」
「……そ、そうですね。はは」
アルバの軽快な笑いに、フィリスは苦笑するしかなかった。
リベルトは色ボケをするような質ではない。彼は恋を覚えても、同じくらい仕事も大事にしているからだ。それでも、その蜜の味をリベルトが覚えたと知ったら、アルバはさぞかし驚くだろう。
「で、そろそろリベルトに婚約者くらいは作ってほしいと私は思ってるんだが……浮いた話を聞いたりはしていないか?」
(……告白されたなんて、言うべきではないわよね)
さぐりを入れてくるアルバに、フィリスは悩んだ結果「ない」と答える。
「だよなぁ。あいつと結婚したい令嬢なんて、たくさんいると思うんだがなぁ。中身はアレでもなんせ顔がとびきりいい。それにあの若さで副団長だ」
「これまでアプローチされたりはしていたんですよね?」
「もちろん。出先では必ず声をかけられていた。ここの侍女たちだって、何人もリベルトに玉砕してきたらしいぞ。しかしあいつは女性に興味がないんだ」
モテるのに声をかけてきた女性をばっさり斬り捨ててしまうと、アルバは嘆く。
「でも……近いうち大チャンスがある。一週間後、王宮で魔法騎士、騎士、魔法使いの三部隊が集まる、前年度の慰安会が開かれる。そこには例年、上流階級の令嬢たちも参加するんだ。社交界で噂のとびきり美人の令嬢も数人来ると、既に噂になっている」
慰安会は貴族社会のひとつの出会いの場となっているらしい。アルバも妻とはこの慰安会で出会ったと、どや顔で教えてくれた。
「フィリスくん。よければその慰安会でリベルトにいい女性が見つかるよう、サポートしてやってくれないか?」
「えっ……私が、ですか?」
「あいつは毎年、誰かに話しかけられてもさっさと帰っちまうんだよ。ああいった場が好きではないと言って。せめて慰安会が終わるまで、会場に留まらせてくれるだけでもいい。そうすれば、勝手に美女がリベルトに目をつけてくれる」
リベルトにいい相手を見つけられたら、フィリスに特別ボーナスを支払うと、アルバは意気揚々と語った。
「ついでに君も、いい相手を見つけるチャンスかもしれないぞ。慰安会は、関係者なら誰でもプライベートで参加できる。仕事じゃないから、好きにしてくれていい」
なんの悪気もなしにアルバは言うが、なにげないひとことは、フィリスの心に根をつけてしまった。
(アルバ団長から見ると、私とリベルト様っていう組み合わせは一瞬でも頭を掠めないものなんだわ。……ううん。きっと、誰が見てもそうよね)
フィリスはリベルトの世話係で、それ以上でも以下でもない。
そもそも、自分自身でも釣り合っているとは到底思えない。没落寸前の令嬢と、由緒ある伯爵家出身の魔法騎士団最強エリート。仕事以外で並んで歩けば、レベルの違いに違和感しか生まれないだろう。
(慰安会には、もっと地位も高くて綺麗な令嬢がたくさんくる。そうしたらきっと、リベルト様の目も覚めるに決まってるわ)
なにより彼の未来を考えれば、きちんとした家の令嬢と結ばれるほうが良いに決まっている。使用人を選んだなんて世間に知られたら、リベルトの格を落としかねない。
「わかりました。頑張ってみます」
いろんな想いを噛み砕いて喉の奥に押し込んで、フィリスはアルバの頼みを承諾することにした。
「おお、頼もしいぞフィリスくん! あいつは君の言うことは素直に聞いてくれる。慰安会が楽しみになったよ!」
上機嫌なアルバとは反対に、フィリスの胸はもやもやが止まらない。
それでも、フィリスはなんともないと言い聞かせる。
(リベルト様を好きになる前に、この話を聞いてよかった)
――そう思っている時点で既に心が動かされていることに、フィリスは気付かないふりをした。
気づけばきっと、もやもやだけは済まない。今度こそ本当に傷ついてしまう。
この自己防衛が正しいかわからぬまま、フィリスは無意識に気持ちに蓋をしたて虚飾に笑顔を繕った。
「よかったです。人望を集めるのも時間の問題かもしれませんね」
「ああ。絶望的だった時期団長の座にも希望が見えてきた。……が、そうなるには、もうひとつ重要なミッションをクリアしなくてはならないんだよ」
「ミッション?」
「ずばり、結婚だ。各団体、団長になる者は、既婚が条件とされている」
こうなったのには理由があるとアルバが教えてくれた。
なんでも過去に色ボケをした団長がおり、そのせいで組織バランスが崩れ、たいへんな目に遭ったらしい。
団長たるもの守る者を持ち、責任感を背負うこと。
十年前からこのように、規則が改変されてしまったようだ。
「私たちがいる魔法騎士団も含め、こういった組織に入団したほとんどのやつらは、幼い頃から稽古や勉強に明け暮れていた。異性や恋愛なんかには無縁だったやつが一度その蜜の味を知ると、止められなくなったりする。過去に色ボケした団長は、まさに真面目を絵に描いたような人だったよ。ま、リベルトに限ってそれはないだろうがな! あっはっは!」
「……そ、そうですね。はは」
アルバの軽快な笑いに、フィリスは苦笑するしかなかった。
リベルトは色ボケをするような質ではない。彼は恋を覚えても、同じくらい仕事も大事にしているからだ。それでも、その蜜の味をリベルトが覚えたと知ったら、アルバはさぞかし驚くだろう。
「で、そろそろリベルトに婚約者くらいは作ってほしいと私は思ってるんだが……浮いた話を聞いたりはしていないか?」
(……告白されたなんて、言うべきではないわよね)
さぐりを入れてくるアルバに、フィリスは悩んだ結果「ない」と答える。
「だよなぁ。あいつと結婚したい令嬢なんて、たくさんいると思うんだがなぁ。中身はアレでもなんせ顔がとびきりいい。それにあの若さで副団長だ」
「これまでアプローチされたりはしていたんですよね?」
「もちろん。出先では必ず声をかけられていた。ここの侍女たちだって、何人もリベルトに玉砕してきたらしいぞ。しかしあいつは女性に興味がないんだ」
モテるのに声をかけてきた女性をばっさり斬り捨ててしまうと、アルバは嘆く。
「でも……近いうち大チャンスがある。一週間後、王宮で魔法騎士、騎士、魔法使いの三部隊が集まる、前年度の慰安会が開かれる。そこには例年、上流階級の令嬢たちも参加するんだ。社交界で噂のとびきり美人の令嬢も数人来ると、既に噂になっている」
慰安会は貴族社会のひとつの出会いの場となっているらしい。アルバも妻とはこの慰安会で出会ったと、どや顔で教えてくれた。
「フィリスくん。よければその慰安会でリベルトにいい女性が見つかるよう、サポートしてやってくれないか?」
「えっ……私が、ですか?」
「あいつは毎年、誰かに話しかけられてもさっさと帰っちまうんだよ。ああいった場が好きではないと言って。せめて慰安会が終わるまで、会場に留まらせてくれるだけでもいい。そうすれば、勝手に美女がリベルトに目をつけてくれる」
リベルトにいい相手を見つけられたら、フィリスに特別ボーナスを支払うと、アルバは意気揚々と語った。
「ついでに君も、いい相手を見つけるチャンスかもしれないぞ。慰安会は、関係者なら誰でもプライベートで参加できる。仕事じゃないから、好きにしてくれていい」
なんの悪気もなしにアルバは言うが、なにげないひとことは、フィリスの心に根をつけてしまった。
(アルバ団長から見ると、私とリベルト様っていう組み合わせは一瞬でも頭を掠めないものなんだわ。……ううん。きっと、誰が見てもそうよね)
フィリスはリベルトの世話係で、それ以上でも以下でもない。
そもそも、自分自身でも釣り合っているとは到底思えない。没落寸前の令嬢と、由緒ある伯爵家出身の魔法騎士団最強エリート。仕事以外で並んで歩けば、レベルの違いに違和感しか生まれないだろう。
(慰安会には、もっと地位も高くて綺麗な令嬢がたくさんくる。そうしたらきっと、リベルト様の目も覚めるに決まってるわ)
なにより彼の未来を考えれば、きちんとした家の令嬢と結ばれるほうが良いに決まっている。使用人を選んだなんて世間に知られたら、リベルトの格を落としかねない。
「わかりました。頑張ってみます」
いろんな想いを噛み砕いて喉の奥に押し込んで、フィリスはアルバの頼みを承諾することにした。
「おお、頼もしいぞフィリスくん! あいつは君の言うことは素直に聞いてくれる。慰安会が楽しみになったよ!」
上機嫌なアルバとは反対に、フィリスの胸はもやもやが止まらない。
それでも、フィリスはなんともないと言い聞かせる。
(リベルト様を好きになる前に、この話を聞いてよかった)
――そう思っている時点で既に心が動かされていることに、フィリスは気付かないふりをした。
気づけばきっと、もやもやだけは済まない。今度こそ本当に傷ついてしまう。
この自己防衛が正しいかわからぬまま、フィリスは無意識に気持ちに蓋をしたて虚飾に笑顔を繕った。