このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「先日の魔物襲撃の件、彼がお金を払って誰かに頼んでやらせたらしいです。さっき自白しました。私の屋敷に被害を負わせて、領地経営に必要な植物回復魔法を取り戻すのが目的だったようです」
「フィリス!」
 焦りから、ラウルが大きな声を上げる。
 それによって逆に注目を浴びてしまい、ラウルは我に返ると何事もなかったようにへらへらと笑って周囲の視線を誤魔化した。
「今の話……本当か?」
「さあね。知らない」
「調べたらいずれ足がつくぞ。正直に答えたほうが身のためだ」
「知らないって言ってるだろう。証拠を持って来てから言ってくれ。言っておくが、僕は手を下していない」
(……指示しただけで、あくまで実行犯でないと言いたいのね)
 そんな言い訳を許す気もなく、リベルトの前でしらを切るラウルに、フィリスが勢いよく前に出た。
「さっきの発言が証拠ではないですか! 私を脅しましたよね!?」
「言った言ってないの水掛け論はしたところで意味がないぞ。たとえ言っていたとして、お前以外の誰かがそれを聞いていたのか?」
「それは……!」
「お前だけに聞こえた言葉が、証拠になるわけないだろう」
 言いよどむフィリスを見て、ラウルは勝ち誇ったように笑った。
「……君はすごいな」
 感心したように、リベルトがぽつりと呟く。
「魔法騎士団の副団長に褒めてもらえるなんて光栄だよ」
 用意周到さを褒めてもらえたと、ラウルは思っていそうだ。
「ああ。すごい。ここまで頭が悪いやつは俺の周りにはいなかった」
「はっ!?」
「新種の魔物に出会った気分だ。とはいっても、まったく気持ちは高揚しないが」
 いい意味で褒められていたわけではないと知り、ラウルが素っ頓狂な声を上げる。あまりにもかっこ悪い元婚約者の姿に、フィリスは心底呆れていた。
「あの事件が起きた日、俺たちは調査でワイバーンの奇妙な死体を見つけた。ほかの団員たちはあまり気に留めていなかったが、俺はしっかりと、魔物の皮膚に付着した剣の金属片と、傷の形状から戦闘スタイルを割り出して、容疑者を絞り出している。……金属片は市場に出回らない特殊な素材。……金を払えばなんでもする、一部の傭兵がよく使っているものだ」
「じゃ、じゃあ、その傭兵がむしゃくしゃしてやったんだろ。全部事故なんじゃないか?」
「その可能性があると思って、あまり大ごとにするなと言われていた。怪我人もゼロだったしな。だが、意図的起こした事件となれば話は変わる。……ちょうどいい。君に教えてあげよう」
 額に汗を滲ませるラウルを、リベルトが上から冷たく見下ろす。
「犯人の傭兵を特定したら、まず口を割らせるんだ。ほかに協力者はいたのかと。金を受け取る際になにがあっても口を割らないと契約していても、ほとんどのやつは自白する。なぜならそれはもう惨たらしい拷問を受けるからだ」
「……!」
「当然、そこで名前が挙がったやつは犯罪者として牢に入れられる。だがな、まだ罪を軽くできる逃げ道はあるぞ。自首するんだ。すべてを。そうしたら、事情を考慮されて処罰が軽くなるかもしれない」
「だから、僕はやっていないと……!」
 洗脳のように囁くリベルトに、ラウルは両手で頭を抱えている。
「そうか。ちなみにもうひとついい情報を教えよう。……こういう慰安会でも、怪しげな投資話や取引が裏で行われていた前例があってな。数年前から、防犯のためにすべて映像魔法によって記録されているんだ」
(……そうだったんだ)
 フィリスも初耳だった。関係者の一部にしか知らされていないのだろうか。
「凄腕魔法使いの映像魔法は機能が高い。なんせ、音声まで逃さず記録している。どんなに小さな声で行われた会話でも、一言一句逃さずに、な」
 それは、フィリスに向けた脅しも記録されているということだ。頭が悪いとお墨付きのラウルも気づいたようで、彼の顔は一瞬で蒼白になった。
「言葉は証拠になる。覚えておくんだな。……二度とフィリスに近づくな。下衆野郎」
 最後になにを言ったのか、フィリスにはよく聞こえなかった。
 なにかに怯えるラウルの姿を見ても、可哀想とは微塵も思わない。
「フィリス……僕を助けてくれ」
 膝をつき、散々馬鹿にした相手に縋りつく元婚約者はひどく滑稽で、見るに堪えない。フィリスは目線を逸らすと、ひとことだけラウルに伝える。
「さようなら。クレイ伯爵令息」
 もう、名前で呼ぶこともない。そして本当に事件を起こした犯人だったなら、一生許すこともない。
「……行こう。フィリス」
 リベルトに肩を抱かれて、フィリスは会場から出て行った。


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