このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「お腹は空いていませんか? パンを持って来ているので、よければ一緒にどうでしょう」
「いらない」
「食べないと体力回復しませんよ。置いておくので、気が向いたら食べてください」
「……俺はあっちの寝室で寝る」
「はい、どうぞ。もう本にダイブできない仕様になっていますけど」
フィリスがそう言うと、男性はのそのそと起き上がり、奥の寝室へと移動していった。
(ここでパンを食べたら、私は宿を探しに行かないと)
もうすっかり陽が暮れている。野宿だけはしたくない。
フィリスは鞄から包みに入ったパンを取り出すと、三つあるうちのいちばん大きなパンを男性用に残し、余った二つを自分で食べた。貴族令嬢とは思えない質素な食事だ。
(あまり宿代にお金を使いたくないし、早く働き口を見つけないと……)
明日また求人を見に行こう。そう決めて、フィリスは立ち上がると寝室の扉をノックした。
「すみません。開けていいですか?」
最後に長々と居座ったことを謝っておこうと思い、何度もノックするが返事はない。さっきのように熟睡しているのだろうか。
起こすのも忍びない。フィリス的には挨拶はきちんとしたかったが、きっと彼はそんなの望んでいないだろう。
(……このまま静かに出て行くべきかしら)
最後にもう一度ノックをする。すると、部屋の中から物音が聞こえてきた。気になっておもわず聞き耳を立てると、物音がどんどん強くなっている。
「あの、大丈夫ですか!?」
やはり返事はない。フィリスは男性のことが気になって、そっと扉を開けてみた。
寝室は窓が全開になっており、強風のせいで近くに生える木の葉や枝が中まで飛んできている。古びた窓枠は風で激しく揺れ、ガタガタと悲鳴を上げていた。
いつの間にこんなに風が強くなっていたのか。いいや、そんなことよりも――。
「あの人、どこに行ったの!?」
この様子だと、窓から出ていったのだろうか。
自分の家なのに、何故窓から出て行ったのか気になる。というか、本当にここがあの男性に家なのかも疑わしい。鍵すら見ていないフィリスは、だんだんと不信感が募って来た。
(不法侵入で捕まったらどうしよう。とにかく、早くここから出て行かないと)
動揺する心を表すように、風に吹かれたカーテンが大きく波打つ。フィリスが窓を閉めに行くと、ベッド付近に置かれたサイドテーブルに、小さなバッジが置いてあるのを見つけた。
(これ……片付けたときには置いてなかったわよね)
バッジを手に取りまじまじと眺める。星と剣がモチーフとなった金の紋章は、ただのバッジとは思えない。
(なんだかすごく大事な忘れ物を拾ってしまった気がするわ……)
気づいてしまったからには、見過ごせないのがフィリスの性分だ。
フィリスはバッジを大事に鞄にしまうと、誰もいなくなった謎の家を後にした。
次の日。フィリスは宿泊した宿の店主に、黒髪の男性が忘れていったであろうバッジを見せた。
「これは魔法騎士団の紋章だね」
店主は親指と人差し指でバッジを挟むと、絵柄を覗き込みながらそう言った。
「ま、魔法騎士団って、あの!?」
フィリスは信じられなくて驚きの声を上げた。まさか、あんなに怪しい男が魔法騎士団に所属しているとは夢にも思わなかった。
「いらない」
「食べないと体力回復しませんよ。置いておくので、気が向いたら食べてください」
「……俺はあっちの寝室で寝る」
「はい、どうぞ。もう本にダイブできない仕様になっていますけど」
フィリスがそう言うと、男性はのそのそと起き上がり、奥の寝室へと移動していった。
(ここでパンを食べたら、私は宿を探しに行かないと)
もうすっかり陽が暮れている。野宿だけはしたくない。
フィリスは鞄から包みに入ったパンを取り出すと、三つあるうちのいちばん大きなパンを男性用に残し、余った二つを自分で食べた。貴族令嬢とは思えない質素な食事だ。
(あまり宿代にお金を使いたくないし、早く働き口を見つけないと……)
明日また求人を見に行こう。そう決めて、フィリスは立ち上がると寝室の扉をノックした。
「すみません。開けていいですか?」
最後に長々と居座ったことを謝っておこうと思い、何度もノックするが返事はない。さっきのように熟睡しているのだろうか。
起こすのも忍びない。フィリス的には挨拶はきちんとしたかったが、きっと彼はそんなの望んでいないだろう。
(……このまま静かに出て行くべきかしら)
最後にもう一度ノックをする。すると、部屋の中から物音が聞こえてきた。気になっておもわず聞き耳を立てると、物音がどんどん強くなっている。
「あの、大丈夫ですか!?」
やはり返事はない。フィリスは男性のことが気になって、そっと扉を開けてみた。
寝室は窓が全開になっており、強風のせいで近くに生える木の葉や枝が中まで飛んできている。古びた窓枠は風で激しく揺れ、ガタガタと悲鳴を上げていた。
いつの間にこんなに風が強くなっていたのか。いいや、そんなことよりも――。
「あの人、どこに行ったの!?」
この様子だと、窓から出ていったのだろうか。
自分の家なのに、何故窓から出て行ったのか気になる。というか、本当にここがあの男性に家なのかも疑わしい。鍵すら見ていないフィリスは、だんだんと不信感が募って来た。
(不法侵入で捕まったらどうしよう。とにかく、早くここから出て行かないと)
動揺する心を表すように、風に吹かれたカーテンが大きく波打つ。フィリスが窓を閉めに行くと、ベッド付近に置かれたサイドテーブルに、小さなバッジが置いてあるのを見つけた。
(これ……片付けたときには置いてなかったわよね)
バッジを手に取りまじまじと眺める。星と剣がモチーフとなった金の紋章は、ただのバッジとは思えない。
(なんだかすごく大事な忘れ物を拾ってしまった気がするわ……)
気づいてしまったからには、見過ごせないのがフィリスの性分だ。
フィリスはバッジを大事に鞄にしまうと、誰もいなくなった謎の家を後にした。
次の日。フィリスは宿泊した宿の店主に、黒髪の男性が忘れていったであろうバッジを見せた。
「これは魔法騎士団の紋章だね」
店主は親指と人差し指でバッジを挟むと、絵柄を覗き込みながらそう言った。
「ま、魔法騎士団って、あの!?」
フィリスは信じられなくて驚きの声を上げた。まさか、あんなに怪しい男が魔法騎士団に所属しているとは夢にも思わなかった。