このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
魔法騎士団はこのルミナリア王国でトップを誇る超絶エリート部隊である。
この国には〝宮廷魔法騎士団〟〝宮廷騎士団〟〝宮廷魔法団〟という三つの機関が存在する。
まず騎士団。魔法は使えないか魔力が著しく低いが、剣技に優れている者が所属している。
次に魔法団。魔力が強く、魔法の扱い方に長けているが剣は扱えない者が所属している。
最後に魔法騎士団。その名の通り、魔法と剣技をどちらも極め、それらを融合して戦えるエリート集団。
「ああ。紋章に剣と星両方が入っているだろう。それが魔法騎士の証だ。騎士なら剣のみ、魔法使いなら星のみの紋章になっているからね」
「そうなのね。これを持っているのは、魔法騎士団の団員だけ?」
「そうだよ。どうしてお嬢さんが持っているのかは謎だけど、拾ったならちゃんと王宮敷地内にある魔法騎士支部まで届けてあげないとね。……あそこ、美形だらけって聞くよ。よかったら今度感想聞かせておくれ」
五十半ばほどの女性の店主が、にやりと笑いながらフィリスに耳打ちをした。フィリスは苦笑しながら「機会があればね」と返すと、お礼を言って宿をから出て行く。
(ひとまず魔法騎士支部に向かうしかないわね。バッジを返してから、また戻って掲示板を見に行こう。こんな貴重なもの、持っているとそわそわしちゃうもの)
フィリスは馬車を借り、王都からそれほど遠くない王宮へと向かった。
(まさか家を出た次の日に、王宮へ向かうことになるなんて。……こんな格好で中に入れるかしら)
首元の詰まったフリルつきのブラウスに深緑のワンピース。黒いソックスに茶色いローファー。窓に映る貴族令嬢にしては地味な格好をしている自分を見て、フィリスは少し不安になった。
だが、あくまで出稼ぎ目的で王都に出たため、華やかなドレスなんて一着も持って来ていない。そもそもドレスを着てバッジを届けに行くのもおかしな話だ。この服装がいちばんベストだろう。
そうして納得した頃には王宮が見えてきた。とにかく敷地が広く、あらゆる建物が別の棟にある。ここだけで、軽くひとつの町である。
「魔法騎士支部に落とし物を届けたいので、その近くで降ろしてもらえますか?」
「かしこまりました。三つある棟の真ん中、赤い屋根が魔法騎士支部です」
御者がどれが魔法騎士支部なのか、丁寧に教えてくれた。
(……また赤い屋根)
もしや昨日行ったあの汚部屋も、魔法騎士の隠れ家かなにかだったのかなんて思ったりする。
馬車が到着し、フィリスは言われた通り真ん中の棟へ向かった。入り口には門番が立っており、フィリスを見て眉間に皺を寄せる。
「失礼。魔法騎士支部になんの御用でしょう」
深紅と黒を基調とされた軍服は、昨日男性が着ていたものと同じだ。ただ肩章の色が男性は金色だったのに対して、門番は銀色だった。
「……もしかして、過激な追っかけですか? たまにいるんですよ。そういう厄介な娘が」
少し返事が遅れただけで、門番はフィリスを追っかけだと勘違いし、露骨に嫌な顔をした。
「ち、違います! 追っかけなんかじゃありません!」
「ではなんだ。初めて見る顔だ。関係者でないことはわかっているんだぞ」
せっかく忘れ物を届けに来たのに、何故勝手に勘違いされなくてはならないのか。
門番の態度にむっとしたが、ここで言い争っても時間の無駄だ。さっさとバッジを返してしまえば、こちらとてこんな場所にもう用はない。
「昨日、背の高い黒髪の男性がこちらを忘れて行ったので、代わりに届けに来ただけです。ここの紋章なんですよね? 名前もわかりませんが、本人に届けてあげてください」
門番に手のひらに乗せたバッジをずいっと差し出せば、門番は急に慌てた様子を見せ始めた。
「こ、これは……まさかリベルト副団長の……!」
(副団長?)
「申し訳ございませんでした! 中までご案内させていただきます!」
門番は頭を下げると、フィリスを支部の中へと誘導してくる。
「えっ? べつに魔法騎士団に用はありません。私はこのバッジを返しにきただけで……」
「そう言わずに! さあ、行きましょう!」
半ば強制的に支部の中へ連れて行かれると、そこで門番とは別れ今度はべつの団員がフィリスを来客用の部屋まで案内してくれた。
「ここでお待ちください」
フィリスが座る目の前のテーブルにお茶とお菓子を置くと、団員はフィリスを残して去って行く。
輪切りされたオレンジが浮かんだ香りのよい紅茶と、マカロンがふたつ。可愛らしい見た目のラインナップに、フィリスは口元が綻んだ。魔法騎士団にもこんな可愛いお菓子を置いているんだと、どうでもいいことで感心してしまう。
お茶とお菓子、それぞれを大事に噛みしめながら味わっていると、扉をノックする音が聞こえた。フィリスは食べかけのマカロンを皿に戻して立ち上がる。
「失礼。待たせてしまったな」
扉が開くと、お馴染みの黒と深紅の軍服を着た団員が現れた。
(この人は肩章が金色だわ)
門番とも、ここまで案内してくれた団員とも、一目見ただけで別格だとわかる。そのくらい特別なオーラを感じた。偉い人なのだろうか。フィリスの気がぐっと引き締まる。
「遠慮しないで座ってくれ」
「は、はい」
言われた通り、フィリスは再度椅子に座り直す。偉い人っぽい団員は、フィリスの向かい側の椅子に腰かけると白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべた。
「そんなに緊張しないでいい。私はアルバ・アスキス。魔法騎士団の団長だ。よろしくな! 気軽にアルバと呼んでくれ」
「だ、団長……!?」
団長といえば、その名の通り魔法騎士団をまとめ上げ、組織の頂点となる存在である。
年齢は四十代前半くらいだろうか。赤い髪は短く整えられ、少し目尻の下がった茶色い瞳は優しい印象を与えさせる。
鍛え上げられた肉体は軍服の上からでもわかるほどで、胸板は厚く、全体的にがっしりとしている。
「団長様が、なぜわざわざ私なんかに……」
「いや。君がうちの部下の大事なバッジを届けてくれたと聞いてな。君の名前を聞いてもいいかい?」
この国には〝宮廷魔法騎士団〟〝宮廷騎士団〟〝宮廷魔法団〟という三つの機関が存在する。
まず騎士団。魔法は使えないか魔力が著しく低いが、剣技に優れている者が所属している。
次に魔法団。魔力が強く、魔法の扱い方に長けているが剣は扱えない者が所属している。
最後に魔法騎士団。その名の通り、魔法と剣技をどちらも極め、それらを融合して戦えるエリート集団。
「ああ。紋章に剣と星両方が入っているだろう。それが魔法騎士の証だ。騎士なら剣のみ、魔法使いなら星のみの紋章になっているからね」
「そうなのね。これを持っているのは、魔法騎士団の団員だけ?」
「そうだよ。どうしてお嬢さんが持っているのかは謎だけど、拾ったならちゃんと王宮敷地内にある魔法騎士支部まで届けてあげないとね。……あそこ、美形だらけって聞くよ。よかったら今度感想聞かせておくれ」
五十半ばほどの女性の店主が、にやりと笑いながらフィリスに耳打ちをした。フィリスは苦笑しながら「機会があればね」と返すと、お礼を言って宿をから出て行く。
(ひとまず魔法騎士支部に向かうしかないわね。バッジを返してから、また戻って掲示板を見に行こう。こんな貴重なもの、持っているとそわそわしちゃうもの)
フィリスは馬車を借り、王都からそれほど遠くない王宮へと向かった。
(まさか家を出た次の日に、王宮へ向かうことになるなんて。……こんな格好で中に入れるかしら)
首元の詰まったフリルつきのブラウスに深緑のワンピース。黒いソックスに茶色いローファー。窓に映る貴族令嬢にしては地味な格好をしている自分を見て、フィリスは少し不安になった。
だが、あくまで出稼ぎ目的で王都に出たため、華やかなドレスなんて一着も持って来ていない。そもそもドレスを着てバッジを届けに行くのもおかしな話だ。この服装がいちばんベストだろう。
そうして納得した頃には王宮が見えてきた。とにかく敷地が広く、あらゆる建物が別の棟にある。ここだけで、軽くひとつの町である。
「魔法騎士支部に落とし物を届けたいので、その近くで降ろしてもらえますか?」
「かしこまりました。三つある棟の真ん中、赤い屋根が魔法騎士支部です」
御者がどれが魔法騎士支部なのか、丁寧に教えてくれた。
(……また赤い屋根)
もしや昨日行ったあの汚部屋も、魔法騎士の隠れ家かなにかだったのかなんて思ったりする。
馬車が到着し、フィリスは言われた通り真ん中の棟へ向かった。入り口には門番が立っており、フィリスを見て眉間に皺を寄せる。
「失礼。魔法騎士支部になんの御用でしょう」
深紅と黒を基調とされた軍服は、昨日男性が着ていたものと同じだ。ただ肩章の色が男性は金色だったのに対して、門番は銀色だった。
「……もしかして、過激な追っかけですか? たまにいるんですよ。そういう厄介な娘が」
少し返事が遅れただけで、門番はフィリスを追っかけだと勘違いし、露骨に嫌な顔をした。
「ち、違います! 追っかけなんかじゃありません!」
「ではなんだ。初めて見る顔だ。関係者でないことはわかっているんだぞ」
せっかく忘れ物を届けに来たのに、何故勝手に勘違いされなくてはならないのか。
門番の態度にむっとしたが、ここで言い争っても時間の無駄だ。さっさとバッジを返してしまえば、こちらとてこんな場所にもう用はない。
「昨日、背の高い黒髪の男性がこちらを忘れて行ったので、代わりに届けに来ただけです。ここの紋章なんですよね? 名前もわかりませんが、本人に届けてあげてください」
門番に手のひらに乗せたバッジをずいっと差し出せば、門番は急に慌てた様子を見せ始めた。
「こ、これは……まさかリベルト副団長の……!」
(副団長?)
「申し訳ございませんでした! 中までご案内させていただきます!」
門番は頭を下げると、フィリスを支部の中へと誘導してくる。
「えっ? べつに魔法騎士団に用はありません。私はこのバッジを返しにきただけで……」
「そう言わずに! さあ、行きましょう!」
半ば強制的に支部の中へ連れて行かれると、そこで門番とは別れ今度はべつの団員がフィリスを来客用の部屋まで案内してくれた。
「ここでお待ちください」
フィリスが座る目の前のテーブルにお茶とお菓子を置くと、団員はフィリスを残して去って行く。
輪切りされたオレンジが浮かんだ香りのよい紅茶と、マカロンがふたつ。可愛らしい見た目のラインナップに、フィリスは口元が綻んだ。魔法騎士団にもこんな可愛いお菓子を置いているんだと、どうでもいいことで感心してしまう。
お茶とお菓子、それぞれを大事に噛みしめながら味わっていると、扉をノックする音が聞こえた。フィリスは食べかけのマカロンを皿に戻して立ち上がる。
「失礼。待たせてしまったな」
扉が開くと、お馴染みの黒と深紅の軍服を着た団員が現れた。
(この人は肩章が金色だわ)
門番とも、ここまで案内してくれた団員とも、一目見ただけで別格だとわかる。そのくらい特別なオーラを感じた。偉い人なのだろうか。フィリスの気がぐっと引き締まる。
「遠慮しないで座ってくれ」
「は、はい」
言われた通り、フィリスは再度椅子に座り直す。偉い人っぽい団員は、フィリスの向かい側の椅子に腰かけると白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべた。
「そんなに緊張しないでいい。私はアルバ・アスキス。魔法騎士団の団長だ。よろしくな! 気軽にアルバと呼んでくれ」
「だ、団長……!?」
団長といえば、その名の通り魔法騎士団をまとめ上げ、組織の頂点となる存在である。
年齢は四十代前半くらいだろうか。赤い髪は短く整えられ、少し目尻の下がった茶色い瞳は優しい印象を与えさせる。
鍛え上げられた肉体は軍服の上からでもわかるほどで、胸板は厚く、全体的にがっしりとしている。
「団長様が、なぜわざわざ私なんかに……」
「いや。君がうちの部下の大事なバッジを届けてくれたと聞いてな。君の名前を聞いてもいいかい?」