このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「フィリス・キャロルと申します。僻地の男爵家から、昨日ひとりで王都へ出てきたばかりです」
「なんでまた王都に?」
「出稼ぎです。田舎では仕事がなかなか見つからなくて」
アルバは終始穏やかな口調でフィリスとの会話を続けてくれた。そのおかげで、次第にフィリスも緊張が解けていった。
「あ、バッジ。早めにお返ししておきますね。こちらになります」
フィリスは門番が受け取ってくれなかったバッジを、今度はアルバに渡した。
「……たしかに受け取ったよ。これは間違いなく、魔法騎士団の証となるバッジだ。……こんな大事なものをあいつは適当に扱って……軍服に縫い付けてやるべきか……」
アルバはバッジを自分のポケットにしまいながらため息をついた。
(あいつって、昨日のあの男性よね。やっぱり魔法騎士団の人だったんだ。……あんな無茶ばかりする礼儀のない人も、魔法騎士に入れるのね)
突然その場に倒れ込み、助けも拒み、汚い部屋で寝るだけ寝たら勝手にいなくなる。
フィリスの人生で、そんな滅茶苦茶な人間に会ったのは初めてだった。
「フィリスくん、よければ昨日なにがあったかを私に教えてくれないか? どこでこれを見つけたのか、詳しく聞きたいんだ」
「いいですよ。私は昨日、市街の中央広場にある掲示板を見に行ったんです。そこでふらふら歩いている黒髪の男性を見つけて――」
フィリスは昨日の出来事をありのままアルバに話した。
倒れた男性を無理矢理家まで運んだこと。男性が寝ている間に、汚すぎる部屋を掃除したこと。寝室に移動したと思ったら、勝手に窓から抜け出していたこと。そして、サイドテーブルにこのバッジが置いてあったこと。
「なるほど。そういう経緯だったのか。つまり君が、このバッジの持ち主を助けてくれたんだな?」
「助けたというか、放っておけなかったんです。向こうにとってはよけいなお世話だったと思いますが」
頼まれてもいないのに掃除までしてしまった。世話焼きなのはフィリスのいいところでもあるが、時には悪いところにもなるとフィリスは今回のことで自覚する。
「なぜよけいなお世話だと?」
「だって、向こうは俺に構うなとしか言いませんでしたから。名前を聞いても教えてくれないし」
「そういった態度を取られて、君は嫌だと思わなかったのか? 話を聞いていると、せっかく助けてあげたのに無礼なやつだなと、苛立ってしまうのが普通だと思う」
「いえ。まったく。私とできるだけ関わりたくないんだなぁと思っただけです。それでいちいち苛立ったり傷ついたりしません。私は私で好きなようにやらせてもらっただけなので」
悪態をつかれてへこんでいては、そもそもラウルとは建前上でも婚約者を続けられなかった。彼のおかげで鋼メンタルとなったフィリスからすると、昨日の男性はせいぜい〝無愛想だなぁ〟と思ったくらい。
「では君は、またそいつに同じような態度を取られても平気だと?」
「そんな機会があるかはわかりませんが……はい。むしろそういう人だとわかってるので、よけいなんとも思いませんね」
「せっかく片付けた部屋を再度そいつに汚くされた場合はどうする?」
「それは注意しながら片付けます。まぁ、人には向き不向きがありますからね。まずは紙屑を床に投げないことから教えてあげたいです。ふふっ」
小さな子供に教えるようなことを、あの無愛想な男性に教えてあげる姿を想像したら自然と笑みがこぼれた。そんなフィリスを、アルバは目を見開いて凝視している。
「……あっ。ご、ごめんなさい。アルバ団長の部下なのに、生意気なこと言って」
「合格だ」
「へっ?」
「フィリス・キャロル、合格!」
アルバは優しげな瞳をキラキラに輝かせ、ぐっと身を乗り出してそう言った。
「ええっと、合格っていうのは……」
「フィリスくん。君、仕事を探しに来たと言っていたろう」
「はい。今日もこの後掲示板を見に行くつもりです」
「その必要はない。たった今、君は私の面接をクリアしたのだから。いやぁ、たくさんの希望者がここに来たんだが、クリアしたのは君が初めてだ!」
話を聞くと、アルバは魔法騎士団の〝特殊仕事〟ができる者をずっと探しており、掲示板にも数日前までこっそりと求人情報を載せていたようだ。だが、忙しいなかでどれだけ面接をこなしてもいい人が見つからず、途中で取り下げたという。
「もう知人の紹介かこちら側から見つけに行くしかないと思っていたが、まさかこんな奇跡が起きるとはね」
(……私、知らぬ間に面接されていたのね。全然気づかなかったわ)
でも、仕事内容もわからずに承諾はできない。盛り上がっているアルバを前にフィリスが神妙な面持ちをしていると、それに気づいたアルバが一枚の紙を渡してきた。
「仕事を受けてくれるなら、給料はこれくらい出すつもりだ。ちなみに住み込みの場合は食事もつく。ほかにはない、かなりの好条件だと思うぞ?」
自信満々に、アルバはにやりと口の端を上げた。
(月収七金貨!? 単純計算でも年間八十四金貨……! これだけあればじゅうぶんだわ。それに出張手当、特別ボーナスもあり。住む場所も食事も確保できるなら無駄な出費は抑えられるし、必要なものはすべて支給……!)
フィリスが求めていたものが全部揃っている上に、予想以上の好条件。応募が殺到するのも頷ける。読んでいるうちに、今度はフィリスの瞳が煌めきを放ち始めた。
「アルバさん、是非お受けしたいです! ただ――肝心の仕事内容をまだ教えてもらってないのですが」
これだけの金貨を出すのなら、かなり厳しい仕事内容でもおかしくない。
「仕事は魔法騎士団の副団長、リベルトの世話係になることだ」
「副団長リベルト……?」
「私の部下であり、君が昨日助けた黒髪の男だよ」
「えっ!? あの人副団長なんですか!?」
「なんでまた王都に?」
「出稼ぎです。田舎では仕事がなかなか見つからなくて」
アルバは終始穏やかな口調でフィリスとの会話を続けてくれた。そのおかげで、次第にフィリスも緊張が解けていった。
「あ、バッジ。早めにお返ししておきますね。こちらになります」
フィリスは門番が受け取ってくれなかったバッジを、今度はアルバに渡した。
「……たしかに受け取ったよ。これは間違いなく、魔法騎士団の証となるバッジだ。……こんな大事なものをあいつは適当に扱って……軍服に縫い付けてやるべきか……」
アルバはバッジを自分のポケットにしまいながらため息をついた。
(あいつって、昨日のあの男性よね。やっぱり魔法騎士団の人だったんだ。……あんな無茶ばかりする礼儀のない人も、魔法騎士に入れるのね)
突然その場に倒れ込み、助けも拒み、汚い部屋で寝るだけ寝たら勝手にいなくなる。
フィリスの人生で、そんな滅茶苦茶な人間に会ったのは初めてだった。
「フィリスくん、よければ昨日なにがあったかを私に教えてくれないか? どこでこれを見つけたのか、詳しく聞きたいんだ」
「いいですよ。私は昨日、市街の中央広場にある掲示板を見に行ったんです。そこでふらふら歩いている黒髪の男性を見つけて――」
フィリスは昨日の出来事をありのままアルバに話した。
倒れた男性を無理矢理家まで運んだこと。男性が寝ている間に、汚すぎる部屋を掃除したこと。寝室に移動したと思ったら、勝手に窓から抜け出していたこと。そして、サイドテーブルにこのバッジが置いてあったこと。
「なるほど。そういう経緯だったのか。つまり君が、このバッジの持ち主を助けてくれたんだな?」
「助けたというか、放っておけなかったんです。向こうにとってはよけいなお世話だったと思いますが」
頼まれてもいないのに掃除までしてしまった。世話焼きなのはフィリスのいいところでもあるが、時には悪いところにもなるとフィリスは今回のことで自覚する。
「なぜよけいなお世話だと?」
「だって、向こうは俺に構うなとしか言いませんでしたから。名前を聞いても教えてくれないし」
「そういった態度を取られて、君は嫌だと思わなかったのか? 話を聞いていると、せっかく助けてあげたのに無礼なやつだなと、苛立ってしまうのが普通だと思う」
「いえ。まったく。私とできるだけ関わりたくないんだなぁと思っただけです。それでいちいち苛立ったり傷ついたりしません。私は私で好きなようにやらせてもらっただけなので」
悪態をつかれてへこんでいては、そもそもラウルとは建前上でも婚約者を続けられなかった。彼のおかげで鋼メンタルとなったフィリスからすると、昨日の男性はせいぜい〝無愛想だなぁ〟と思ったくらい。
「では君は、またそいつに同じような態度を取られても平気だと?」
「そんな機会があるかはわかりませんが……はい。むしろそういう人だとわかってるので、よけいなんとも思いませんね」
「せっかく片付けた部屋を再度そいつに汚くされた場合はどうする?」
「それは注意しながら片付けます。まぁ、人には向き不向きがありますからね。まずは紙屑を床に投げないことから教えてあげたいです。ふふっ」
小さな子供に教えるようなことを、あの無愛想な男性に教えてあげる姿を想像したら自然と笑みがこぼれた。そんなフィリスを、アルバは目を見開いて凝視している。
「……あっ。ご、ごめんなさい。アルバ団長の部下なのに、生意気なこと言って」
「合格だ」
「へっ?」
「フィリス・キャロル、合格!」
アルバは優しげな瞳をキラキラに輝かせ、ぐっと身を乗り出してそう言った。
「ええっと、合格っていうのは……」
「フィリスくん。君、仕事を探しに来たと言っていたろう」
「はい。今日もこの後掲示板を見に行くつもりです」
「その必要はない。たった今、君は私の面接をクリアしたのだから。いやぁ、たくさんの希望者がここに来たんだが、クリアしたのは君が初めてだ!」
話を聞くと、アルバは魔法騎士団の〝特殊仕事〟ができる者をずっと探しており、掲示板にも数日前までこっそりと求人情報を載せていたようだ。だが、忙しいなかでどれだけ面接をこなしてもいい人が見つからず、途中で取り下げたという。
「もう知人の紹介かこちら側から見つけに行くしかないと思っていたが、まさかこんな奇跡が起きるとはね」
(……私、知らぬ間に面接されていたのね。全然気づかなかったわ)
でも、仕事内容もわからずに承諾はできない。盛り上がっているアルバを前にフィリスが神妙な面持ちをしていると、それに気づいたアルバが一枚の紙を渡してきた。
「仕事を受けてくれるなら、給料はこれくらい出すつもりだ。ちなみに住み込みの場合は食事もつく。ほかにはない、かなりの好条件だと思うぞ?」
自信満々に、アルバはにやりと口の端を上げた。
(月収七金貨!? 単純計算でも年間八十四金貨……! これだけあればじゅうぶんだわ。それに出張手当、特別ボーナスもあり。住む場所も食事も確保できるなら無駄な出費は抑えられるし、必要なものはすべて支給……!)
フィリスが求めていたものが全部揃っている上に、予想以上の好条件。応募が殺到するのも頷ける。読んでいるうちに、今度はフィリスの瞳が煌めきを放ち始めた。
「アルバさん、是非お受けしたいです! ただ――肝心の仕事内容をまだ教えてもらってないのですが」
これだけの金貨を出すのなら、かなり厳しい仕事内容でもおかしくない。
「仕事は魔法騎士団の副団長、リベルトの世話係になることだ」
「副団長リベルト……?」
「私の部下であり、君が昨日助けた黒髪の男だよ」
「えっ!? あの人副団長なんですか!?」