MY WORLD
「お父さん…!お父さんっ…!」
私の心は、その気持ちでいっぱいだった。
*
「まぶしっ‥」
目が覚めると、そこは、ただただ眩しい世界が広がっていた。
『朝日』というものだろうか。
「ここはどこなのだろう。これまでのことが思い出せない。」
「あっ‥!やっと起きたんだねっ!」
誰だろう。私を待つ人なのだろうか。
「大丈夫?お姉さん。倒れてたから、ここまで連れてきたんだよ?」
そう私に明るくてちょっと怒りっぽく言ったのは、小学生くらいの小さな男の子だった。
「そ、そうなの?ごめんね。私あんまり、覚えてなくてさ。お姉さんに詳しく教えてくれない?」
こくりと首を縦に振って、話し始めた。
「なんかね。公園でいつものように遊んでたらね。隅っこの方で、お姉さんが横になってるの見えたんだ。今日さ、めちゃくちゃ暑いじゃん?だから、家が近いから、重たいけど運んできたんだよー。」
「なるほどね。知らない間にそこにいたってことね。ところで…
『誰が重たい』ですって‥???」
少年は「あはは‥」と苦笑いをして、なんとかやり過ごそうとしていた。
全く。最近の子はデリカシーという言葉を持っているのだろうか。
「そういえば。お姉さんって名前なんていうの?」
『名前』
私の名前‥。
「‥もしかして覚えてないの‥?それとも、無いとか‥?」
「–––覚えてない。というか、無かったかもしれない‥‥。」
思い出せない。私の名前‥。–––私の大事な名前。思い出さなきゃいけないのに。
「そうなのかぁ。確かに、なんかお姉さん、すごい変。なんていうか、僕とちょっと違うみたいな?」
おそらく彼の言う「変」と言うのは、私と彼とでは、言葉では言い表せない明確な『違い』を感じているのだろう。
「じゃあさ。僕が決めてもいい?『カノア』とかどうかな?
そーいや言い忘れてたけど、僕「友紀」って言うんだ。」
–––カノア–––
どこか異国の雰囲気もあって、今の私と友紀に似ている。
「ありがとう。名前をくれて。」
–––痛っ。
私の目の前は古い映画を見ているようだった。
「……初めまして。今日から僕が君のお父さんだよ。安心してね。」
優しい顔をした人が、私にそっと教えてくれた。
「………!」
「大丈夫⁉︎急にカノア目の光が消えたみたいになってたよ⁉︎」
「‥う、うん。大丈夫だと思う‥‥。」
–––なに‥、急に‥?
思い出さなきゃ‥。
*
「そうだ!カノア!今日ママがね、誕生日でね!お祝いにケーキ食べるんだ!カノアも一緒に食べない?」
「私ここにいていいの?急に来たからお母さんたちびっくりしてない?」
「ううん大丈夫だよ!カノアが目を覚ます前にママに確認とってあるから!」
「じゃあお言葉に甘えさせて、ちょっとここにいようかな。」
私の記憶も取り戻すために何かヒントが得られるかもしれないし。
そういやさっき「お父さん」って言葉が妙に引っかかったな。
普通お父さんと出会うなら、再婚とかじゃ無い限り物心ついた頃から「お父さんだよ」なんて言うかな‥?
私の家庭ってもしかしてケッコー複雑なのかな?
「夜ご飯までさ!一緒にボードゲームしよ!」
「うん。もちろん」
そうして私たちは日が暮れるまで、友紀と遊び尽くした。
–––夜–––
「パパ!おかえり!」
「初めまして、訳あってここに居候させてもらってます。カノアと申します」
「あぁ、君が例の。ママから色々話は聞いてるよ。記憶がなくて大変らしいようで–––」
ドクンっと私の心は動いた。
なんだろう。この懐かしい気持ちは。どこかでみたような‥。
友紀のパパは医者だろうか、それとも教授だろうか。白衣を着たまま帰る姿に目を奪われた。
私の記憶のかけらの一つだろうか。あの白衣に胸がトキメク。
そうやって呆然と立っていると、いつの間にか、友紀たちはリビングに入ろうとしていた。
「–––〜Happy Birthday to you〜–––」
そう言ってケーキの蝋燭に火が灯る。
「………!」
ケーキはフルーツがいっぱいで、とても美味しそうだった。
大きな口を開けてケーキを頬張る友紀の姿はとっても可愛いかった。
–––楽しい時間はあっという間に過ぎ、私は友紀の家に泊まらせてもらうことになった。
「ねぇ‥友紀。私‥なにか大事なこと忘れてる気がするんだ‥。」
「‥大切な。そう私にとって一番大切な‥。」
私の呼吸は、過呼吸になっていた。
「カノア。落ち着いて‥?ゆっくりでいいからさ。一緒に思い出そ‥?」
「うん‥」
そういう友紀のその言葉だけは、可愛い顔とは似つかないとても、とても。大人びた声で、誰かが憑依したようだった。
「ありがとう‥。友紀。」
私はそっと眠っている友紀の髪を撫でた。
さぁ私もそろそろ寝よう。
「………!!!」
「友紀!私ねすごいことに気がついちゃったかもしれない!」
眠っている友紀より自分の興奮を抑えきれなくてつい、大きく揺さぶってしまった。
「ねぇ‥カノアうるさいよ‥もう夜だよ‥真っ暗だよ‥。」
「ご、ごめんっ!でも聞いてよ!」
「もぉーなぁに?そのすごいことって‥?」
「‥‥‥私。ロボットだ‥。」
え?
「ええええええええええええ!?!?!?!?!?」
「こーら友紀。静かにしなさい」
*
「なんでカノアは自分がロボットだと思ったの?」
「さっきね、つい可愛かったから友紀の髪撫でたりとか、ほっぺたぷにぷにしてたんだけどね?」
「あの‥僕が寝てる間に僕で遊ばないでくれる‥‥?」
「ごめんごめん〜つい!」
「で‥?なんでなの?」
「あのね、その後ねちゃんと寝よーって思ってさ目を閉じたら、急に目の前にね、ホログラムで、『睡眠しますか?』って言う文字が出てきて、普通の人だったらこんなの、当たり前だけど無いじゃん?だからロボットかなぁーって思った」
「なんでそんな淡々と喋れるんだよ‥」
友紀は引き気味にそう言った。
「じゃ。それだけだからおやすみ。」
「あ、はい。」
–––朝–––
「ふわぁ‥‥」
いつの間にか起きていた。寝る時はホログラムの画面は出るけど、起きる時は結構適当なんだな。
「おっ‥!やっと起きた。」
「あら、もう友紀起きてたの?早いね。」
「そりゃそうでしょ小学生なんだから。」
「まぁ、そうゆーもんか。」
–––「…おはようXXX。ではこれから、XXXを始めるぞ」
「はい…。お願いします…」
あたりは薄暗くて気味が悪い。私はどこかへ連れ去られてしまうようだ。
連れて行かれるその所は、此処よりずっと暗くて不気味なオーラを纏っている。
……やめて……
–––「痛っ‥‥」–––
何?また‥。変な幻覚が‥。
でももしかしてあれ‥私かな‥。もしそうだとしたら‥。
私ってなんのために生まれたの‥?
また新しい疑問が生まれてしまった‥。
ねぇ私って誰…?教えてよ…
*
「カノア?今日はさ、海に行ってみない?」
「いいね!私初めて行く気がするなぁ」
そうして私は友紀についていくように海に連れて行ってもらった。
友紀のいえは海沿いにあって、眺めもいい。
友紀は、時々海に来ているのだろうか、手慣れたようにパパッと支度を終わらせていた。
「友紀って、海好きなの?」
「好きだよ。なんかすごい落ち着くというか、風が気持ちいいんだよね。」
やっぱり友紀はどこか大人げがある。
「そうなんだ。」
私たちが海に向けて歩いているとき、ふと友紀の口が開いた
「カノアってさ。他にロボット的なものないの?」
確かに。これだけ精巧に作られたものなのだから、他にも機能があってもおかしくない。というかただただスリープ機能だけはちょっと悲しすぎる。
「えっとね、ホームとかあるのかな?
‥‥‥あっあったあった。なになに?」
「・透視能力
→物の中身が1分間だけ透視することができます。
・人間性のある知能
→人間のような知能が元から搭載されています。
・自爆機能
→搭載されている爆弾を爆発させることができます。」
「これだけだ。私に書かれているもの。」
「なんか、透視以外、意味ある?知能とか、結局基本みたいなとこあるし‥。」
「しょぼい能力で悪かったわね!」
全く。これを開発した人は、なんの目的だったのやら。
「カノア!海が見えてきたよ!」
「うわぁぁぁっっっ!すごい‥!」
友紀について行って10分。目の前には果てしないマリンブルーが広がっていた。
想像より大きくて、キラキラと太陽の光に照らされる水面は言葉では表せなかった。
「綺麗でしょ?」
「うん‥!とっても‥」
初めての景色。でもそれはどこか懐かしくてなんだか見覚えがあって、なんだか変な気分だった。
私はもう人間の少女のようだった。
初めてすること。見ること。全部が楽しみで、好奇心しか湧かなかった。
「カノア!おりゃ!」
そう言って友紀は私に水をかけてきた。
「やったなー!私も、、おりゃぁ!」
「うわっ!すごいカノア強すぎるよ‥」
眉を下げて言う友紀は悲しい気持ちの裏側の楽しい気持ちが抑えられていなくて、モロに顔に出ていた。
いわゆる、「表情と言動が合っていない」と言うのはこのことなのだろう。
–––夕暮れ–––
私たちは夕陽が海に沈むまで、いろんな遊びをした。
お互い疲れ切って、今度は私の話をするようになった。
「カノアはさ。まだ思い出せないこととかあるの?」
「うん‥。それがね、時々変な幻覚?みたいなの見るんだ。」
「幻覚?」
友紀はキョトンとしていた
「なんか急にお父さんらしい人が出てきたり、白衣を着た人が私の名前っぽいのを呼んでたりするんだ。」
「その『お父さん』にカノアは会いたいの?」
「多分‥。何か特別な人だったかもしれない。なんか『お父さん』って言うのがひっかかるんだよね。」
「そっかぁ。思い出せるといいね。」
夕日をバックに座る友紀は、とってもかっこよかった。
「友紀は、会いたい人っているの?」
「……マキかな‥。」
声のトーンが少し下がった気がする。
「とっても仲良くしてた友達なんだけどね。今よりちっちゃい頃にねとっても大きな戦争があってさ。その時に‥」
声のトーンが下がったのも納得である。
この間ずっと元気だったから、俯いている彼を見るのは初めてだ。
「大丈夫?落ち着いて‥。ごめんね思い出させちゃって。私が急なこと聞いちゃってさ。」
「とっても綺麗な子だったんだ‥。」
「お互い。特別な人を無くしちゃったんだね。」
「まだ、わかんないよ!そのカノアの言うお父さんはいつかきっと出会えるって!」
「そう‥かな‥?」
「ほら‥これで元気出して‥?」
そう言って私にくれたのは、シルク色の綺麗な貝殻だった。
「いつか。きっと出会えるよ。『大切な大切な場所で待ってる』……からさ。」
「……!」
あぁ。思い出した。全部
*
「…おはよう No.5。ではこれから、戦闘訓練を始めるぞ」
「はい…。」
そう言われて、私は操り人形のように、薄暗い施設へと連れて行かれた。
あの場所は苦痛でしかない。君が悪くて、博士たちは怖くて。
そんな時、私に引き取り手が見つかった。
酷使されて、ドールのようにされるのだろうと思っていた。
「‥‥初めまして。今日から僕が君のお父さんだよ。安心してね。」
「はい。」
「そんな堅苦しくしなくていいよ。安心して。私は、争いが嫌い。だからどっちかって言うと、君を救うために引き取ったのだよ。」
「……!」
「ん。そういや君ずっと研究所では『No.5』って呼ばれてたよね?名前。私がつけてもいいかな?」
こくりと頭を下げるしかできなかった。
「『シエナ』どうかな?研究所の暗い君じゃなくて、エナジーが溢れる子になってほしいからさ。どうかな?」
「…名前。つけてくれてありがとうございます…。」
そうして私は、マスター様と楽しい日々を送るはずだった…
ある日のことだった。
「…ごめん。シエナ。今、戦争が各地で繰り広げのは知っているだろう?
それでさ、うちのシエナが抜擢されちゃったんだ…だからもしかしたら、来週には君が戦線に出ないといけないかもしれない。」
「………。」
「せめて、私たちらしいことをしてみないか?
……そうだ。『海に行こう』海はとっても広くて、今までシエナが感じたことないくらい広くて自由なんだ。君の中の世界じゃ到底しれないくらい広いんだよ。」
そうやって言われるがままに私はマスター様に海に連れて行ってもらった。
確かにマスター様が言う通り。海は広かった。
「…シエナ。これ。お守り。」
そう言ってマスター様は綺麗な真っ白の貝殻を私にくれた。
私とマスター様を離れ離れにしたくなかったからなのだろうか。それともただ、綺麗であげたくなったのだろうか。マスター様の気持ちは到底理解できない。
でもそれはとっても大切な物なのだろう。それだけはしっかり伝わった。
「もし、シエナが戦争に行っても『私は、ずっとずっと帰ってくるのを待ってるよ』」
この貝殻が私だと思っておきなさい。そうとも言われたようだった。
–––ドォン!っと大きな音が鳴り響く。
またか…。私の手持ちには、小さな機関銃と貝殻。
私は感情をいつの間にかまた失っていた。
一人。また一人と男女関係なく撃ち殺した。
それはもう。人でも。ロボットでもなく。上の人間に従う人形だった。
マスター様は優しい。そう改めて認知させてくれた。
「危ないっ!」
そう。近くから人間の声が聞こえた。
それと同時に。鉛玉が私の方へと寄ってくる。
–––パリンッ–––
あっ…。私の私の大事なものが。
マスター様から譲り受けたものが…。壊れてしまった。
怒りが溢れる中、さっき当たった玉が私の体を突き抜けて、なかなか体をコントロールできない。
なんとか、私は。小さな公園のところで、身を潜めていた。
その間も戦況はどんどん悪くなって。次第にはここら一帯は火の海に包まれた。
何もできない私。火の海に飲み込まれる人々。
「……!」
マスター様だった。火の海に今にでも飲み込まれそうで、助けを求めている。
助けたかった。でも体はもう動かない。
「マスター様!マスター様っ!」
初めてこんなにも声を荒げたかもしれない。
でも私の声は虚しく。そのままスッと。火の海に溺れていった。
あぁ。思い出した。
私が探してた存在が。
私が殺した人無数の人の中には、友紀の言っていた「マキ」という人もいたのか
もしれない
私は今まで身近な人の大切な人を奪って生きていたんだ。
『自爆装置を起動しますか?』
「さよなら。私の世界。」
→はい。
自爆装置が作動します。
私の心は、その気持ちでいっぱいだった。
*
「まぶしっ‥」
目が覚めると、そこは、ただただ眩しい世界が広がっていた。
『朝日』というものだろうか。
「ここはどこなのだろう。これまでのことが思い出せない。」
「あっ‥!やっと起きたんだねっ!」
誰だろう。私を待つ人なのだろうか。
「大丈夫?お姉さん。倒れてたから、ここまで連れてきたんだよ?」
そう私に明るくてちょっと怒りっぽく言ったのは、小学生くらいの小さな男の子だった。
「そ、そうなの?ごめんね。私あんまり、覚えてなくてさ。お姉さんに詳しく教えてくれない?」
こくりと首を縦に振って、話し始めた。
「なんかね。公園でいつものように遊んでたらね。隅っこの方で、お姉さんが横になってるの見えたんだ。今日さ、めちゃくちゃ暑いじゃん?だから、家が近いから、重たいけど運んできたんだよー。」
「なるほどね。知らない間にそこにいたってことね。ところで…
『誰が重たい』ですって‥???」
少年は「あはは‥」と苦笑いをして、なんとかやり過ごそうとしていた。
全く。最近の子はデリカシーという言葉を持っているのだろうか。
「そういえば。お姉さんって名前なんていうの?」
『名前』
私の名前‥。
「‥もしかして覚えてないの‥?それとも、無いとか‥?」
「–––覚えてない。というか、無かったかもしれない‥‥。」
思い出せない。私の名前‥。–––私の大事な名前。思い出さなきゃいけないのに。
「そうなのかぁ。確かに、なんかお姉さん、すごい変。なんていうか、僕とちょっと違うみたいな?」
おそらく彼の言う「変」と言うのは、私と彼とでは、言葉では言い表せない明確な『違い』を感じているのだろう。
「じゃあさ。僕が決めてもいい?『カノア』とかどうかな?
そーいや言い忘れてたけど、僕「友紀」って言うんだ。」
–––カノア–––
どこか異国の雰囲気もあって、今の私と友紀に似ている。
「ありがとう。名前をくれて。」
–––痛っ。
私の目の前は古い映画を見ているようだった。
「……初めまして。今日から僕が君のお父さんだよ。安心してね。」
優しい顔をした人が、私にそっと教えてくれた。
「………!」
「大丈夫⁉︎急にカノア目の光が消えたみたいになってたよ⁉︎」
「‥う、うん。大丈夫だと思う‥‥。」
–––なに‥、急に‥?
思い出さなきゃ‥。
*
「そうだ!カノア!今日ママがね、誕生日でね!お祝いにケーキ食べるんだ!カノアも一緒に食べない?」
「私ここにいていいの?急に来たからお母さんたちびっくりしてない?」
「ううん大丈夫だよ!カノアが目を覚ます前にママに確認とってあるから!」
「じゃあお言葉に甘えさせて、ちょっとここにいようかな。」
私の記憶も取り戻すために何かヒントが得られるかもしれないし。
そういやさっき「お父さん」って言葉が妙に引っかかったな。
普通お父さんと出会うなら、再婚とかじゃ無い限り物心ついた頃から「お父さんだよ」なんて言うかな‥?
私の家庭ってもしかしてケッコー複雑なのかな?
「夜ご飯までさ!一緒にボードゲームしよ!」
「うん。もちろん」
そうして私たちは日が暮れるまで、友紀と遊び尽くした。
–––夜–––
「パパ!おかえり!」
「初めまして、訳あってここに居候させてもらってます。カノアと申します」
「あぁ、君が例の。ママから色々話は聞いてるよ。記憶がなくて大変らしいようで–––」
ドクンっと私の心は動いた。
なんだろう。この懐かしい気持ちは。どこかでみたような‥。
友紀のパパは医者だろうか、それとも教授だろうか。白衣を着たまま帰る姿に目を奪われた。
私の記憶のかけらの一つだろうか。あの白衣に胸がトキメク。
そうやって呆然と立っていると、いつの間にか、友紀たちはリビングに入ろうとしていた。
「–––〜Happy Birthday to you〜–––」
そう言ってケーキの蝋燭に火が灯る。
「………!」
ケーキはフルーツがいっぱいで、とても美味しそうだった。
大きな口を開けてケーキを頬張る友紀の姿はとっても可愛いかった。
–––楽しい時間はあっという間に過ぎ、私は友紀の家に泊まらせてもらうことになった。
「ねぇ‥友紀。私‥なにか大事なこと忘れてる気がするんだ‥。」
「‥大切な。そう私にとって一番大切な‥。」
私の呼吸は、過呼吸になっていた。
「カノア。落ち着いて‥?ゆっくりでいいからさ。一緒に思い出そ‥?」
「うん‥」
そういう友紀のその言葉だけは、可愛い顔とは似つかないとても、とても。大人びた声で、誰かが憑依したようだった。
「ありがとう‥。友紀。」
私はそっと眠っている友紀の髪を撫でた。
さぁ私もそろそろ寝よう。
「………!!!」
「友紀!私ねすごいことに気がついちゃったかもしれない!」
眠っている友紀より自分の興奮を抑えきれなくてつい、大きく揺さぶってしまった。
「ねぇ‥カノアうるさいよ‥もう夜だよ‥真っ暗だよ‥。」
「ご、ごめんっ!でも聞いてよ!」
「もぉーなぁに?そのすごいことって‥?」
「‥‥‥私。ロボットだ‥。」
え?
「ええええええええええええ!?!?!?!?!?」
「こーら友紀。静かにしなさい」
*
「なんでカノアは自分がロボットだと思ったの?」
「さっきね、つい可愛かったから友紀の髪撫でたりとか、ほっぺたぷにぷにしてたんだけどね?」
「あの‥僕が寝てる間に僕で遊ばないでくれる‥‥?」
「ごめんごめん〜つい!」
「で‥?なんでなの?」
「あのね、その後ねちゃんと寝よーって思ってさ目を閉じたら、急に目の前にね、ホログラムで、『睡眠しますか?』って言う文字が出てきて、普通の人だったらこんなの、当たり前だけど無いじゃん?だからロボットかなぁーって思った」
「なんでそんな淡々と喋れるんだよ‥」
友紀は引き気味にそう言った。
「じゃ。それだけだからおやすみ。」
「あ、はい。」
–––朝–––
「ふわぁ‥‥」
いつの間にか起きていた。寝る時はホログラムの画面は出るけど、起きる時は結構適当なんだな。
「おっ‥!やっと起きた。」
「あら、もう友紀起きてたの?早いね。」
「そりゃそうでしょ小学生なんだから。」
「まぁ、そうゆーもんか。」
–––「…おはようXXX。ではこれから、XXXを始めるぞ」
「はい…。お願いします…」
あたりは薄暗くて気味が悪い。私はどこかへ連れ去られてしまうようだ。
連れて行かれるその所は、此処よりずっと暗くて不気味なオーラを纏っている。
……やめて……
–––「痛っ‥‥」–––
何?また‥。変な幻覚が‥。
でももしかしてあれ‥私かな‥。もしそうだとしたら‥。
私ってなんのために生まれたの‥?
また新しい疑問が生まれてしまった‥。
ねぇ私って誰…?教えてよ…
*
「カノア?今日はさ、海に行ってみない?」
「いいね!私初めて行く気がするなぁ」
そうして私は友紀についていくように海に連れて行ってもらった。
友紀のいえは海沿いにあって、眺めもいい。
友紀は、時々海に来ているのだろうか、手慣れたようにパパッと支度を終わらせていた。
「友紀って、海好きなの?」
「好きだよ。なんかすごい落ち着くというか、風が気持ちいいんだよね。」
やっぱり友紀はどこか大人げがある。
「そうなんだ。」
私たちが海に向けて歩いているとき、ふと友紀の口が開いた
「カノアってさ。他にロボット的なものないの?」
確かに。これだけ精巧に作られたものなのだから、他にも機能があってもおかしくない。というかただただスリープ機能だけはちょっと悲しすぎる。
「えっとね、ホームとかあるのかな?
‥‥‥あっあったあった。なになに?」
「・透視能力
→物の中身が1分間だけ透視することができます。
・人間性のある知能
→人間のような知能が元から搭載されています。
・自爆機能
→搭載されている爆弾を爆発させることができます。」
「これだけだ。私に書かれているもの。」
「なんか、透視以外、意味ある?知能とか、結局基本みたいなとこあるし‥。」
「しょぼい能力で悪かったわね!」
全く。これを開発した人は、なんの目的だったのやら。
「カノア!海が見えてきたよ!」
「うわぁぁぁっっっ!すごい‥!」
友紀について行って10分。目の前には果てしないマリンブルーが広がっていた。
想像より大きくて、キラキラと太陽の光に照らされる水面は言葉では表せなかった。
「綺麗でしょ?」
「うん‥!とっても‥」
初めての景色。でもそれはどこか懐かしくてなんだか見覚えがあって、なんだか変な気分だった。
私はもう人間の少女のようだった。
初めてすること。見ること。全部が楽しみで、好奇心しか湧かなかった。
「カノア!おりゃ!」
そう言って友紀は私に水をかけてきた。
「やったなー!私も、、おりゃぁ!」
「うわっ!すごいカノア強すぎるよ‥」
眉を下げて言う友紀は悲しい気持ちの裏側の楽しい気持ちが抑えられていなくて、モロに顔に出ていた。
いわゆる、「表情と言動が合っていない」と言うのはこのことなのだろう。
–––夕暮れ–––
私たちは夕陽が海に沈むまで、いろんな遊びをした。
お互い疲れ切って、今度は私の話をするようになった。
「カノアはさ。まだ思い出せないこととかあるの?」
「うん‥。それがね、時々変な幻覚?みたいなの見るんだ。」
「幻覚?」
友紀はキョトンとしていた
「なんか急にお父さんらしい人が出てきたり、白衣を着た人が私の名前っぽいのを呼んでたりするんだ。」
「その『お父さん』にカノアは会いたいの?」
「多分‥。何か特別な人だったかもしれない。なんか『お父さん』って言うのがひっかかるんだよね。」
「そっかぁ。思い出せるといいね。」
夕日をバックに座る友紀は、とってもかっこよかった。
「友紀は、会いたい人っているの?」
「……マキかな‥。」
声のトーンが少し下がった気がする。
「とっても仲良くしてた友達なんだけどね。今よりちっちゃい頃にねとっても大きな戦争があってさ。その時に‥」
声のトーンが下がったのも納得である。
この間ずっと元気だったから、俯いている彼を見るのは初めてだ。
「大丈夫?落ち着いて‥。ごめんね思い出させちゃって。私が急なこと聞いちゃってさ。」
「とっても綺麗な子だったんだ‥。」
「お互い。特別な人を無くしちゃったんだね。」
「まだ、わかんないよ!そのカノアの言うお父さんはいつかきっと出会えるって!」
「そう‥かな‥?」
「ほら‥これで元気出して‥?」
そう言って私にくれたのは、シルク色の綺麗な貝殻だった。
「いつか。きっと出会えるよ。『大切な大切な場所で待ってる』……からさ。」
「……!」
あぁ。思い出した。全部
*
「…おはよう No.5。ではこれから、戦闘訓練を始めるぞ」
「はい…。」
そう言われて、私は操り人形のように、薄暗い施設へと連れて行かれた。
あの場所は苦痛でしかない。君が悪くて、博士たちは怖くて。
そんな時、私に引き取り手が見つかった。
酷使されて、ドールのようにされるのだろうと思っていた。
「‥‥初めまして。今日から僕が君のお父さんだよ。安心してね。」
「はい。」
「そんな堅苦しくしなくていいよ。安心して。私は、争いが嫌い。だからどっちかって言うと、君を救うために引き取ったのだよ。」
「……!」
「ん。そういや君ずっと研究所では『No.5』って呼ばれてたよね?名前。私がつけてもいいかな?」
こくりと頭を下げるしかできなかった。
「『シエナ』どうかな?研究所の暗い君じゃなくて、エナジーが溢れる子になってほしいからさ。どうかな?」
「…名前。つけてくれてありがとうございます…。」
そうして私は、マスター様と楽しい日々を送るはずだった…
ある日のことだった。
「…ごめん。シエナ。今、戦争が各地で繰り広げのは知っているだろう?
それでさ、うちのシエナが抜擢されちゃったんだ…だからもしかしたら、来週には君が戦線に出ないといけないかもしれない。」
「………。」
「せめて、私たちらしいことをしてみないか?
……そうだ。『海に行こう』海はとっても広くて、今までシエナが感じたことないくらい広くて自由なんだ。君の中の世界じゃ到底しれないくらい広いんだよ。」
そうやって言われるがままに私はマスター様に海に連れて行ってもらった。
確かにマスター様が言う通り。海は広かった。
「…シエナ。これ。お守り。」
そう言ってマスター様は綺麗な真っ白の貝殻を私にくれた。
私とマスター様を離れ離れにしたくなかったからなのだろうか。それともただ、綺麗であげたくなったのだろうか。マスター様の気持ちは到底理解できない。
でもそれはとっても大切な物なのだろう。それだけはしっかり伝わった。
「もし、シエナが戦争に行っても『私は、ずっとずっと帰ってくるのを待ってるよ』」
この貝殻が私だと思っておきなさい。そうとも言われたようだった。
–––ドォン!っと大きな音が鳴り響く。
またか…。私の手持ちには、小さな機関銃と貝殻。
私は感情をいつの間にかまた失っていた。
一人。また一人と男女関係なく撃ち殺した。
それはもう。人でも。ロボットでもなく。上の人間に従う人形だった。
マスター様は優しい。そう改めて認知させてくれた。
「危ないっ!」
そう。近くから人間の声が聞こえた。
それと同時に。鉛玉が私の方へと寄ってくる。
–––パリンッ–––
あっ…。私の私の大事なものが。
マスター様から譲り受けたものが…。壊れてしまった。
怒りが溢れる中、さっき当たった玉が私の体を突き抜けて、なかなか体をコントロールできない。
なんとか、私は。小さな公園のところで、身を潜めていた。
その間も戦況はどんどん悪くなって。次第にはここら一帯は火の海に包まれた。
何もできない私。火の海に飲み込まれる人々。
「……!」
マスター様だった。火の海に今にでも飲み込まれそうで、助けを求めている。
助けたかった。でも体はもう動かない。
「マスター様!マスター様っ!」
初めてこんなにも声を荒げたかもしれない。
でも私の声は虚しく。そのままスッと。火の海に溺れていった。
あぁ。思い出した。
私が探してた存在が。
私が殺した人無数の人の中には、友紀の言っていた「マキ」という人もいたのか
もしれない
私は今まで身近な人の大切な人を奪って生きていたんだ。
『自爆装置を起動しますか?』
「さよなら。私の世界。」
→はい。
自爆装置が作動します。