希望を見つけ出せたなら
第一章「過去の記憶たち」


「行ってきまーす!お母さん!」「行ってらっしゃい!4時には帰ってくるんだよ」「わかってるって〜」今日からは待ちに待った夏休み、小学校4年生である私は、友達と遊ぶ約束をしていた。女の子なのだけど、いつも鬼ごっことか、かくれんぼとか、いわゆる男の子らしい遊びをしていた。そういう性格もあってか、友達はみんな男の子が多かった。それでも少しでも自分のことは女の子だと思っていたので、女の子になるためにも色々なことをした。人形遊びをしたり、かわいいものを集めたり、色々工夫してみせた。「お待たせ!今日は何して遊ぶの?」「そうだな、今日は鬼ごっこして、トランプとかでもするか?もうちょいしたら2人くらい追加でくると思うわ。」「わかった!」私たちは毎日のように鬼ごっこをしたり、トランプをしていた。飽きを知らなかったんだろう。「明日は、プールでもいくか?」「うん!久しぶりに行きたい!」毎日が同じ内容でも、「おっ、やっときたかぁお前たち、だいぶ待ったんだぜぇー」毎日が平凡でも「まぁまぁ、そこまで言わない言わないのっ。ね?」それでもやっぱり毎日が新しいようで、毎日が大冒険のようで、毎日が楽しかった。「じゃあな!また明日な!「葵」!」「うん!また明日ね!」あっという間に時間は過ぎてゆき、長いようで短いようなひと時だった。「ただいまぁ!」はじけるような明るい声でそう言った。「おかえり。葵」母も私と同じようなはじける明るい声だったが、どこか大人びた落ち着いた声で言い返してみせた。「今日はね!みんなでね鬼ごっことか、トランプしたんだ!」毎日、同じ事を言っているけどお母さんは何一つ嫌な顔をしなかった。「そうなんだ!楽しかった?」「うん!楽しかった!」そう言って私は、意気揚々と自分の部屋へと戻って行った。夕飯まで、まだ二時間ほどある。今のうちに宿題を進めておこう。コツコツと、鉛筆の響きがいい音が部屋中に鳴り響いた。宿題はたった20分しかできなかった。でもそんなことは構わない。まだまだ夏休みは長いという優越感に浸っていた。宿題を忘れて、私は絵を描いていた。唯一私が女の子らしいと言える趣味だろう。幼い頃から絵を描くことだけは好きだった。絵に没頭している一階から「あおいー!ご飯できたわよー!」お母さんの声が響いて聞こえた。すかさず私は「はぁい!」ドタドタと大きな音を立てて、一階へと降りていく。今日は、私の好きなオムライスだった。「わぁあ!オムライスじゃん!」目を輝かせて、オムライスを口に放り込んだ。母の作るオムライスは、卵の焼き加減が良く、トロッとしていて美味しい。「ごちそうさまでした!」あっという間に完食し、少し両親と会話をして、2階へと上がっていった。自室に帰ってからは、夕飯前の絵を黙々と描いていた。小学校にも入る前のこと。私は、早くして姉を亡くした。どんな顔だったかも、写真ももうほとんど残っていない。でも一枚だけ、姉と私が写っている写真がある。この写真だけだけど。普段描いてる絵は、姉と一緒に行って見たい景色の絵が多い。もう行けないけど、想像して書くのは楽しい。
––––––––––––一時間ほどたった頃、トイレに行くために私は一階へ降りて行った。リビングからは、両親の声が聞こえた。「あの子、ずっと男の子らしいことばっかしてるの。困っちゃうわねぇ」「まぁまぁそんなこと言うなって。葵は葵らしくいさせてあげればどうだ?」「それでもあの子は女の子だから、少しでも女の子らしい–––––」ドキリとした。考えたこともなかった。母が悲しむ姿を初めて見たような気がした。「女の子らしい」「男の子らしい」何が違うのか。なぜ違わないといけないのか。その頃の私は、わからなかった。でも母の悲しむ姿を見て、胸が痛くなった。と言うことだけは覚えている。「女の子らしい、生き方…か……」ボソッと私は呟き、トイレに行ったあと二階へと上がっていった。
––––––––––––中学校に入っても、私は変わらなかった。いつものメンバーで、鬼ごっこ…はしなかったけど、それでもオンラインで話したり、ゲームをしたり、学校でも話の輪に入っていた。そこからだろうか、自分が女子であるという自覚が薄れ、少し女子を嫌っていた、いや苦手になり始めたのは…。
そんな楽しかった中学校生活もあっという間に過ぎ去っていき、いつの間にか高校生になろうとしていた。「みんな。高校になっても、一緒にいてくれる?」「あぁ、どうだろうな。お前といるのは楽しかったけど、いつかはもう遊べなくなる日が来るのかな」「そっかぁ。でも楽しみにしてるね」「おう。じゃあまた明日な」それからと言うもの中学の友達とは少しずつ疎遠になっていった。それでも、たまに一緒にオンラインで会話をしていた。だけれど、中学校の頃は三時間も、四時間も何時でもできる気がした。でも今は違う、長くても一時間。30分くらいの時が多かった。いつもは何気ない会話だってできた。でも話を切り出すのはいつも私から。必死に誘っているのは私だけ。バカみたい。私が私利私欲で周りを巻き込んでいるんだとひしひしと感じた。相手にとって「迷惑」だし、私は成長と共に心もあの頃よりは成長し少しずつ落ち着いたような考えが持てるようになった。どちらかというと、ネガティブな思考に偏ってしまったような気がする。いつものように2階に足を踏み入れる。「自分ってなんだろう。」小学校の頃に言われた「男の子らしい」この言葉だけがずっと引っかかっていた。「なんでっ。私は女の子として生きなきゃいけないのっ」疎遠になってしまったあいつらのことを思うと「嫌われたのかな。自分ばっかり勝手なことをしてしまった。」と色々なことが込み上げて、いつも胸が締め付けられていた。母は何を私に求めているの。色々な期待がいつの間にかそれは圧力に変わっていた。「そんな私ならいっそのこと…」引き出しをガサゴソと探す。「あ、あった。」心臓が大きく高鳴る。目を閉じて、覚悟を私は決めた。


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