重ねる涙の先で仕合せは紡ぐ。
「これ、やるから。」
そう言いながら、その男性はわたしに傘を差し出した。
「え、でも、、、。」
わたしが戸惑っていると、その男性は強制的にわたしに傘を持たせるように、傘の柄をわたしの手元までグッと差し出してきた。
思わずわたしが傘を掴むと、その男性はパーカーのフードを被り走り出すと、雨に濡れ滑る山の芝をスニーカーで綺麗に滑り下りて去って行ってしまった。
傘を置いて行かれたわたしは、その男性が見えなくなるまで呆然としていた。
傘、置いて行っちゃったけど、いつ返せばいいの?
わたしはそう思いながら立ち上がると、家に帰ることにした。
傘の柄には、さっきの男性の温もりが残っていて温かかった。
緑丘公園から自宅までは10分程で着き、帰宅するとわたしはずぶ濡れの服を脱ぎ、洗濯機の中に投げ入れると、すぐにシャワーを浴びた。
わたしはシャワーから上がり、髪をバスタオルで拭き、部屋着を着てバスタオルを首から下げると、ベッドに腰を下ろした。
そして、傘を持っていた方の手のひらに視線を落とす。
さっきの傘の柄に感じた温もりがまだ手のひらに残っていて、わたしは忘れることが出来なかった。