重ねる涙の先で仕合せは紡ぐ。

それから3日後のことだった。

わたしがいつものように出勤前に緑丘公園に寄ろうとすると、わたしがいつも座るベンチがある山の上に1人の男性が立っていた。

よく見ると、その人はこないだわたしに傘を差し出してきた男性で、空にカメラを向けていた。

わたしは公園内に入ると、ゆっくりと山へ近付き登って行った。

空に向けシャッターを切る男性は、わたしの気配に気付き、こちらを向いた。

「あ、こないだの雨女。」

わたしを見るなり、表情も変えずに低い声でそう言う男性。

傘を貸してくれたから優しい人かと思えば、結構失礼な人?

わたしは少しムッとしたが、出来るだけ態度には出ないよう気を払い、「こないだは、ありがとうございました。」と言った。

「別に。」
「傘、いつ返せばいいですか?」
「ただのビニール傘だし、返さなくていいよ。」

その男性はぶっきらぼうにそう言うと、再び空にカメラを向けた。

わたしは、この人感じ悪い人だなぁ、と思いながらベンチに腰を掛けた。

男性がカメラを向ける方向には、燕が飛んでいて、巣がある団地の方へ飛んで行ってしまった。

「あんた、ここよく来るの?」

カメラを下ろしながら、男性が言った。

「あんたじゃないです。わたしには、花恋って名前があります。」
「かれん?」
「そう、雨宮花恋。」
「雨宮って、だから雨女なのか。」

男性はそう言うと、静かに笑った。

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