重ねる涙の先で仕合せは紡ぐ。
「そっちは?わたしが名前教えたんだから、名乗りなさいよ。」
馬鹿にされイラッとしたわたしは、強めの口調でそう言った。
「羽多野巡。」
すんなり名前を教えてくれたことに拍子抜けしていると、巡と名乗るその人はわたしの隣に腰を掛けた。
「花恋って、ずっとこの辺に住んでんの?」
突然の呼び捨てに驚いたが、わたしは「まぁ、ずっとこの辺に住んでるかな。」と答えた。
「俺、最近引っ越してきたばっかなんだ。」
「そうなんだ。そりゃあ、こんな背高い人見たこと無いわけだ。何センチあるの?」
「183。俺もあんな雨の日にずぶ濡れになってベンチに座ってる女、見たこと無いな。」
意地悪なことばかり言ってくる巡をわたしは横目で睨みつけた。
巡は悪戯な笑みを浮かべると、「何でわざわざ雨に打たれてたわけ?」と訊いてきた。
「わたし、雨嫌いじゃないの。何か、穢れた自分を洗い流してくれるような気がして。」
わたしがそう言うと、巡はふと真剣な表情になり、「俺も雨は嫌いじゃない。」と言った。
「巡は?何でわたしに傘を貸してくれたの?1人でずぶ濡れになってる女なんて居たら、普通変な奴だと思って関わりたくないでしょ。」
自虐的なことを言い、自分に笑うわたし。
すると、巡は真剣な表情を変えないまま、「花恋、寂しそうだったから。」と言い、空を見上げていた。