月夜の約束
これはこの街にはるか昔から伝わる言い伝え。
皓月《こうげつ》が照らす子の刻、一人の少年が舞い降りる
この言葉を知っている人はもう殆んどいない。この言葉の真意に気づいたものは果たして存在したのか、その者は一体どうなったのか…。
ではそろそろ街を覗いてみましょう・・・
~第一章~
―ジリジリ ジリジリ―
目覚まし時計が耳障りに鳴り響く。冷たい空気が漂う部屋で、私はその音を無視しようとするけれど、どうしても頭に響いて離れない。
「・・・・コラッ!早く起きなさい!」
「もう、ちょっとだけ・・・。」
「いいから起きろー‼」
母の怒鳴り声で、私はしぶしぶ目を覚ました。ベッドから起き上がり、今日から始まる新学期に対する憂鬱な気持ちが胸に広がった。長期休暇の後の学校はさすがにきつい。とりあえず支度をし、朝ご飯をかきこむ。
(はぁ。学校か…)
私は学校が大嫌い。親の決めた高校で、親の決めた理系で、私の意思は一ミリたりとも反映されていないあの場所なんか行きたくないに決まってる。加えて仲いい友人は一人もいないし、教師だって、顔がいいやつばかり贔屓するし、勉強だけなら家でもできる。正直通う価値がない。
「小夜香《さやか》、そろそろ行く時間よ。早く行きなさい。」
外に出ると【月乃《つきなみ》】の表札が少し傾いていた。
私は仕方なく学校へ向かった。学校までは長い一本道。自転車を漕げば五分
もありゃあ到着する。そのせいで寝坊したから間に合わないなんて言い訳の代表格の言葉すらつかえない。
—正直つらい、はやく学校なんてやめてしまいたい—
家庭内で弱音を吐いても意味がない。私の親は学歴にしか興味のない典型的な毒親。早くこんな奴らとも縁を切りたい。むしゃくしゃした感覚のまま授業が始まった・・・。
教師による中身のない自慢話、チョークで書かれた乱雑な文字、読む気も失せる長ったらしい解説文。一応、私の通う高校は進学校。偏差値60は当たり前。だからなのか、高校一年の時から、有名大学の過去問を定期的に解かされる。二年次になった今、教師陣から「志望大学を定めよ」とのお達しがあった。それも条件付きで。
「席に付けー。今から大事なプリントを配るぞ。親御さんと相談しながら決めるように。今月中に提出するんだぞ。」
そう言われて配られたのは進路希望調査票。高校の多くは面談用として配られているものだ。しかし、ほかの高校では考えられないであろう注意書きがあった。
——以下の大学から選択すること——
「「え⁉」」
クラス内は騒然としている。無理もない。注意書きの下には、たった二五種類の大学名。学校側からしたら、名の知れた有名大学に進学してほしいのだろう。だからと言って、私たち生徒の夢を踏みにじっていい理由にはならない。まったく、どいつもこいつも腹が立つ。
「これは決定事項だ。専門や短大、偏差値の低い大学は頭の出来が悪い奴らが受験するところだ。そんなところに行きたいなんて考えている奴らは今すぐ考えを改めろ。まぁ、ここに載っていない海外の大学に行きたい人は俺に直接言ってくれ。専用のプリントと、受験までの最適なサポート環境を用意する。」そう言い残し、担任は職員室へと帰って行く。今日の学校は何とか終わりを遂げた。
「おかえりー。今から最近できたデパートに買い物行くけど、足りなくなった文房具ある?」母がそう聞く。三日前にも同じことを言われた。「文具を買ってあげる私、なんていい母親!」とかでも思っているのだろう。「ない」とだけ答えて私は自分の部屋へと戻っていった。
母はいつもそうだ。いつも母親ぶって、みんなに褒められようと必死に生きてる。母が子供のころ、妹ばかりがちやほやされる家庭で育ったもんだから、今頃になってみんなに褒められたい欲が溢れてきたのだ。本当に子供っぽい。ついこの間なんて、自分の思い通りに事が進まなかっただけで周りに迷惑をかけ、近所の人から変な目で見られていた。本当にやめてほしい。
そう思いながら勉強を始めた。学校の勉強ではなく、私の勉強を…。
「たっだいまー。いっぱい買えたわー!さすがデパートね。広いし、きれいだし!しかも、デパートのモチーフが『月』だなんて最高だわ。ハマりすぎて、株主になっちゃったわよ~。」
買い物から帰宅した母は、いかにも私に聞いてほしいといわんばかりの声量で独り言を話していた。まったく、うるさいったらありゃしない。
やはり、自分が一番なのであろう。
皓月《こうげつ》が照らす子の刻、一人の少年が舞い降りる
この言葉を知っている人はもう殆んどいない。この言葉の真意に気づいたものは果たして存在したのか、その者は一体どうなったのか…。
ではそろそろ街を覗いてみましょう・・・
~第一章~
―ジリジリ ジリジリ―
目覚まし時計が耳障りに鳴り響く。冷たい空気が漂う部屋で、私はその音を無視しようとするけれど、どうしても頭に響いて離れない。
「・・・・コラッ!早く起きなさい!」
「もう、ちょっとだけ・・・。」
「いいから起きろー‼」
母の怒鳴り声で、私はしぶしぶ目を覚ました。ベッドから起き上がり、今日から始まる新学期に対する憂鬱な気持ちが胸に広がった。長期休暇の後の学校はさすがにきつい。とりあえず支度をし、朝ご飯をかきこむ。
(はぁ。学校か…)
私は学校が大嫌い。親の決めた高校で、親の決めた理系で、私の意思は一ミリたりとも反映されていないあの場所なんか行きたくないに決まってる。加えて仲いい友人は一人もいないし、教師だって、顔がいいやつばかり贔屓するし、勉強だけなら家でもできる。正直通う価値がない。
「小夜香《さやか》、そろそろ行く時間よ。早く行きなさい。」
外に出ると【月乃《つきなみ》】の表札が少し傾いていた。
私は仕方なく学校へ向かった。学校までは長い一本道。自転車を漕げば五分
もありゃあ到着する。そのせいで寝坊したから間に合わないなんて言い訳の代表格の言葉すらつかえない。
—正直つらい、はやく学校なんてやめてしまいたい—
家庭内で弱音を吐いても意味がない。私の親は学歴にしか興味のない典型的な毒親。早くこんな奴らとも縁を切りたい。むしゃくしゃした感覚のまま授業が始まった・・・。
教師による中身のない自慢話、チョークで書かれた乱雑な文字、読む気も失せる長ったらしい解説文。一応、私の通う高校は進学校。偏差値60は当たり前。だからなのか、高校一年の時から、有名大学の過去問を定期的に解かされる。二年次になった今、教師陣から「志望大学を定めよ」とのお達しがあった。それも条件付きで。
「席に付けー。今から大事なプリントを配るぞ。親御さんと相談しながら決めるように。今月中に提出するんだぞ。」
そう言われて配られたのは進路希望調査票。高校の多くは面談用として配られているものだ。しかし、ほかの高校では考えられないであろう注意書きがあった。
——以下の大学から選択すること——
「「え⁉」」
クラス内は騒然としている。無理もない。注意書きの下には、たった二五種類の大学名。学校側からしたら、名の知れた有名大学に進学してほしいのだろう。だからと言って、私たち生徒の夢を踏みにじっていい理由にはならない。まったく、どいつもこいつも腹が立つ。
「これは決定事項だ。専門や短大、偏差値の低い大学は頭の出来が悪い奴らが受験するところだ。そんなところに行きたいなんて考えている奴らは今すぐ考えを改めろ。まぁ、ここに載っていない海外の大学に行きたい人は俺に直接言ってくれ。専用のプリントと、受験までの最適なサポート環境を用意する。」そう言い残し、担任は職員室へと帰って行く。今日の学校は何とか終わりを遂げた。
「おかえりー。今から最近できたデパートに買い物行くけど、足りなくなった文房具ある?」母がそう聞く。三日前にも同じことを言われた。「文具を買ってあげる私、なんていい母親!」とかでも思っているのだろう。「ない」とだけ答えて私は自分の部屋へと戻っていった。
母はいつもそうだ。いつも母親ぶって、みんなに褒められようと必死に生きてる。母が子供のころ、妹ばかりがちやほやされる家庭で育ったもんだから、今頃になってみんなに褒められたい欲が溢れてきたのだ。本当に子供っぽい。ついこの間なんて、自分の思い通りに事が進まなかっただけで周りに迷惑をかけ、近所の人から変な目で見られていた。本当にやめてほしい。
そう思いながら勉強を始めた。学校の勉強ではなく、私の勉強を…。
「たっだいまー。いっぱい買えたわー!さすがデパートね。広いし、きれいだし!しかも、デパートのモチーフが『月』だなんて最高だわ。ハマりすぎて、株主になっちゃったわよ~。」
買い物から帰宅した母は、いかにも私に聞いてほしいといわんばかりの声量で独り言を話していた。まったく、うるさいったらありゃしない。
やはり、自分が一番なのであろう。
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