月夜の約束
~第二章~
 ―ザー、ザザー―
 天気は最悪の大雨、気分も沈む。加えて今日は進路希望表の提出期限。配られた直後、私は何も考えずに目に入った大学名を記入した。はなから大学に行く気など更々ない。大学を卒業したからよい就職先に入れる、という時代は当の昔の話だ。今は完全実力主義。それなのに今日もまた平成に取り残された使えないゴミ担任にグチグチ文句を言われる時間が始まる。最悪の日だ。
「希望表回収するぞー。前に流せ―。」
「じゃあ、今から確認していく。青木は青学、伊勢崎は阪大・・・」
ゴミ担任がいきなり一人一人の志望校を晒し始めた。何考えているんだ、あいつは個人情報とやらを義務教育で学ばなかったのか?
 他のクラスメイトもドン引きしている。
「・・・月乃は東大、ん?と、とうだい⁉笑…。笑わせてくれるなー。てめーの成績じゃ東大になんて受かるわけねーだろ笑笑…。」
 クラスメイトの前で堂々と志望校を馬鹿にできる精神、ある意味尊敬すらできる。私はゴミ担任がここから選べっていうから選んでやったってのに、
「そもそもこっちは受験する気なんてハナからないんだよ。」
「は?」
(ヤベッ)
思わず口に出してしまっていた。最悪だ。
「月乃今なんつった‼てめー誰に向かって口きいてんのかわっかてんのか⁉此処の生徒はな、有名大学に行くのが絶対なんだよ!黙って大学に行け!」
(チッ、こうなったら言っちまうか・・・)
「おい衛藤《えとう》、さっきから頭おかしーぞ。「誰に向かって口きいてんのか」だって?ゴミくず担任に決まってんだろ(笑)まさか気づいてねーのか?おまえが非常識な発言をしているとき、クラスの奴ら全員ドン引いてたぞ。おまえがひいきしている奴らでさえもな。そんなことすら気づいていないのに何様発言はさすがにダサい(笑)学校のプライドのために私たち生徒を利用すんな。」
「な、なんだとぉー‼」
(俺だって好きで言ってるんじゃねぇ。この高校はそもそも進学校だ。多少なりとも良い大学に行ってもらわないと俺への評価が下がっちまう…)
ゴミ担任が今にも暴れだす寸前でチャイムが鳴った。授業が始まる。
「衛藤先生、チャイムが鳴りましたよ?他のクラスの可愛げある子たちに授業しに行ってあげてください(笑)。」
何とかしてクラスから追い出した。
(や、やりすぎた・・・)
 その直後、
「「ウワァー‼スゲー‼」」
クラスメイトから歓声が上がった。
 一部の男子からは尊敬のまなざしを向けられているようにも感じた。
「月乃スゲーよ‼衛藤にあんな言い返せるなんて‼まじですっきりした‼」
「僕も‼」
「わたしもー‼」
どうやら今ので、クラスでの好感度が上がってしまったようだ。 
(なんかくすぐったい・・・)
「これからはもっと話そうよ。知っていると思うけど私、宇野美咲《うの みさき》。こっちのうるさいのが斎藤春樹《さいとう はるき》。ほんわかした雰囲気のこの子は日野しずく《ひの しずく》。よろしくね。」
なぜかいきなり挨拶されてしまった。
「よ、よろしく・・・。」
(別に仲良くしたいなんてこっちは思っていないのに・・・)
「授業始まるから後ではなそうね!」
そう言い残し、彼女たちは自分たちの席へと戻っていく。
(面倒くさい問題が増えた・・・)

―キーンコーンカーンコーン—
授業終了直後、すぐに三人は私のもとへやってきた。
「ねぇねぇ、普段何してるの?」
「趣味は?趣味は?」
宇野さんと斎藤君がこっちの気持ちは後回しにガンガン質問を投げかけてくる。迷惑極まりない。
「二人がいきなりごめんね。別に答えなくても大丈夫だよ。月乃さんってこういうの苦手でしょ?」小声で日野さんが話しかけてきた。
(まともな奴もいるもんだな・・・)
 「ありがと。」とだけ返す。もちろん二人からの質問には一切答えていない。日野さんが二人を抑え、なんとか自分たちの席に戻っていった。男のほうが「なんだよ」とぼやく声が聞こえた。
 放課後、日野さんが一人になったタイミングをみて私は声をかけた。
「さっきは助かった」
「よかった、二人とも、グイグイいっちゃうタイプだから。」
そこから他愛のない会話を少し行い、私は帰路を辿った。
(彼女とは、仲良くなれそう・・・)

翌日・・・
 今日はいつもよりも気持ちが明るい。仲良くなりたいと思えるようなクラスメイトが現れたからだろうか。それとも、あのゴミ教員にはっきりと文句を言ってやったからだろうか。それとも・・・。
 そんなことを考えながらベッドから起き上がった。母が自ら起床した私をみて目を丸くしていたが、そんなことは気にせずに準備に取り掛かる。用意された朝ご飯を食べ、いつもならまだ眠っている時間に脳がスッキリとしているのがわかる。
 「行ってきます。」とだけ言い残し、自転車を意気揚々と漕ぎはじめた…。
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