月夜の約束
~第三章~
「「おはよ~」」
今日も懲りずにあの二人が話しかけてきた。その後ろには日野さんも一緒にいる。私は日野さんにだけ、「おはよ」と返す。二人は自分たちに挨拶が返ってきたと思ったのか、嬉しそうな笑みを浮かべていた。そんな二人をスルーして、私は日野さんのもとへと駆け寄る。
「今日から担任変わるんだよね?」
「うん、月乃さんのおかげだね。みんな嬉しそう。」
「確かに。でもそのせいで私に被害が出ているのは正直困る(笑)」
「二人がごめんね。でも根はいい人たちだからさ。」
「日野さんが謝ることではないよ。私との相性が悪いだけだからさ。」
チャイムが鳴り、校長が若い女性を連れてきた。
「席に着きなさい。・・・紹介する、この人が新しい担任だ。」
「…初めまして。私、宮内すみれ《みやうち すみれ》と申します。これから皆さんをサポートしていけるように善処いたします。よろしくお願いします。」
とても礼儀正しい人だ。見た目からして、とても穏やかな人。話し方も丁寧で凛としている。あの衛藤とかいうクソ教師とは真逆の存在だ。
「彼女は前任の衛藤と同じく社会科全般を担当する。東大卒のためとても優秀な教師だ。では宮内教諭、あとはよろしくお願いしますね・・・。」
勝手に人の学歴をさらすだけさらして校長は去っていった。校長の姿が見えなくなると、彼女の本性が突如としてさらけだされた。宮内先生は肩の力を抜くように軽く背伸びをし、リラックスした表情で教壇の端に寄りかかった。
「・・・よし、あのハゲいなくなったね。あー、ごめんごめん。初めに言っておくけど私、学歴とか興味ないから。みんながいきたいとこ行けばいいって感覚だし。」
その表情は先ほどの丁寧で堅いものから一転、まるで友達と話しているかのような親しみやすさを感じさせた。『ま、心配しないでよ』と軽い口調で付け加えた彼女の声には、自信と包容力が混じっていた。
クラスメイトたちは一瞬静まり返り、その後、ざわめきが教室中に広がった。前列に座っている真面目そうな佐藤くんは、眼鏡をクイッと押し上げながら信じられないように先生を見つめ、後ろの席の山田さんは小さな声で『嘘でしょ…』と呟いた。皆、それぞれの驚きと戸惑いを隠しきれない。最初に口を開いたのは、あのうるさい男だった。
「え、えーっと、つまりどういうこと?」
「ん?簡単にいうと、この学校の方針には一切従わないってこと。まあ、上の奴らにばれないように多少は従ってる風に見せるけど。」
「マ、マジっすか⁉」
「え?うん。だってこんな学習方針を立てている学校なんてもうほとんどないし、逆に古すぎて笑えてくる。」
この瞬間にクラスメイトが歓声をあげた。数日ぶりの歓声だ。
「え、マジで授業もそんな感じで緩くしてくれるんですか?」と、後ろの席から男子生徒が冗談半分で声を上げると、クラス全体が笑いに包まれた。宮内先生は微笑みながら、「いやいや、そこはちゃんとやるから」と返し、皆が安心したように頷いている。やはり限られた枠内で将来を決めるのはさすがに皆嫌なのであろう。校風のしがらみから抜け出せ涙を流すものもいれば、当たり前の高校生活を取り戻せると安堵する者もいた。
「こらこら、そんなに騒いだらばれちゃうでしょ。」
「「あ・・・」」
猫かぶりをやめた宮内さんはとても清々しく、彼女自身の色で人生を彩っているように感じた。
(私とは違うな…)
自由に自分の人生を生きている宮内先生の姿が、どこか羨ましいように感じた。でも、同時に不安も押し寄せてくる。私もこんな風に、自分の意志で何かを選び取ることができるのだろうか…。
「「おはよ~」」
今日も懲りずにあの二人が話しかけてきた。その後ろには日野さんも一緒にいる。私は日野さんにだけ、「おはよ」と返す。二人は自分たちに挨拶が返ってきたと思ったのか、嬉しそうな笑みを浮かべていた。そんな二人をスルーして、私は日野さんのもとへと駆け寄る。
「今日から担任変わるんだよね?」
「うん、月乃さんのおかげだね。みんな嬉しそう。」
「確かに。でもそのせいで私に被害が出ているのは正直困る(笑)」
「二人がごめんね。でも根はいい人たちだからさ。」
「日野さんが謝ることではないよ。私との相性が悪いだけだからさ。」
チャイムが鳴り、校長が若い女性を連れてきた。
「席に着きなさい。・・・紹介する、この人が新しい担任だ。」
「…初めまして。私、宮内すみれ《みやうち すみれ》と申します。これから皆さんをサポートしていけるように善処いたします。よろしくお願いします。」
とても礼儀正しい人だ。見た目からして、とても穏やかな人。話し方も丁寧で凛としている。あの衛藤とかいうクソ教師とは真逆の存在だ。
「彼女は前任の衛藤と同じく社会科全般を担当する。東大卒のためとても優秀な教師だ。では宮内教諭、あとはよろしくお願いしますね・・・。」
勝手に人の学歴をさらすだけさらして校長は去っていった。校長の姿が見えなくなると、彼女の本性が突如としてさらけだされた。宮内先生は肩の力を抜くように軽く背伸びをし、リラックスした表情で教壇の端に寄りかかった。
「・・・よし、あのハゲいなくなったね。あー、ごめんごめん。初めに言っておくけど私、学歴とか興味ないから。みんながいきたいとこ行けばいいって感覚だし。」
その表情は先ほどの丁寧で堅いものから一転、まるで友達と話しているかのような親しみやすさを感じさせた。『ま、心配しないでよ』と軽い口調で付け加えた彼女の声には、自信と包容力が混じっていた。
クラスメイトたちは一瞬静まり返り、その後、ざわめきが教室中に広がった。前列に座っている真面目そうな佐藤くんは、眼鏡をクイッと押し上げながら信じられないように先生を見つめ、後ろの席の山田さんは小さな声で『嘘でしょ…』と呟いた。皆、それぞれの驚きと戸惑いを隠しきれない。最初に口を開いたのは、あのうるさい男だった。
「え、えーっと、つまりどういうこと?」
「ん?簡単にいうと、この学校の方針には一切従わないってこと。まあ、上の奴らにばれないように多少は従ってる風に見せるけど。」
「マ、マジっすか⁉」
「え?うん。だってこんな学習方針を立てている学校なんてもうほとんどないし、逆に古すぎて笑えてくる。」
この瞬間にクラスメイトが歓声をあげた。数日ぶりの歓声だ。
「え、マジで授業もそんな感じで緩くしてくれるんですか?」と、後ろの席から男子生徒が冗談半分で声を上げると、クラス全体が笑いに包まれた。宮内先生は微笑みながら、「いやいや、そこはちゃんとやるから」と返し、皆が安心したように頷いている。やはり限られた枠内で将来を決めるのはさすがに皆嫌なのであろう。校風のしがらみから抜け出せ涙を流すものもいれば、当たり前の高校生活を取り戻せると安堵する者もいた。
「こらこら、そんなに騒いだらばれちゃうでしょ。」
「「あ・・・」」
猫かぶりをやめた宮内さんはとても清々しく、彼女自身の色で人生を彩っているように感じた。
(私とは違うな…)
自由に自分の人生を生きている宮内先生の姿が、どこか羨ましいように感じた。でも、同時に不安も押し寄せてくる。私もこんな風に、自分の意志で何かを選び取ることができるのだろうか…。