月夜の約束
~第四章~
 天気は晴れ、朝日が窓から差し込む中、私は朝を迎えた。正直最近の学校はほんの少しだけ楽しい。けれども、どこか物足りなさを感じる。彼女と仲良くなったとはいえ、心の奥底にはまだ言い知れぬ不安と焦燥感が残っていた。何かが足りない。何かが欠けている――。
「おはよう月乃さん。浮かない顔してどうしたの?」
「あ、おはよう。実はね・・・」
彼女に悩みを告げた。もちろん夢のことは伏せた状態で。
「うーん、なにか助けになれたらいいんだけど・・・」
「おはようございます。二人ともどうしました?」
「「おはようございます先生。」」
「先生に質問があります。友人が悩んでいるとき、どうしたら力になれると思いますか?」
「うーん、そうだなぁ・・・悩みの内容にもよるけど、私だったら話を聞いてもらえるだけでも心が軽くなったようで嬉しいな。月乃さんもそうでしょ?」
「確かに・・・え⁉なんで私のことだってわかったんですか?」
「女の勘、かな(笑)」
先生は太陽のような笑顔で私たちの質問に応えてくれた。
「悩み解消につながるかわからないけど、二人はとある伝説、知ってる?」
「「伝説??」」
「これは私の祖母が言っていたことなんだけれど・・・」

―伝説―
『皓(こう)月(げつ)が照らす子の刻、一人の少年が舞い降りる』
平安時代末期のこと。姫と風変わりな少年の出会いが始まりだった。彼は月の子と名乗り、「私たちが出会えたのは運命です。あなたの望み、一つだけ叶えましょう…」といいながら姫に近づく。姫は答えた。「ならば、我思ずる恋心、殿君へと送り申したい」と。彼女は下級貴族の末娘でね、十五の時に上級貴族に嫁入りさせられたらしいの。月の子は姫を過去に連れて行き、想い人と結ばせたんだって。願いを叶えた月の子はその後、姿をくらましたそうよ。けれど、その言い伝えはずっと残っていて、今でもこの街に語り継がれているんだとか。何百年も前のことだから、今じゃその真意を知る者はほとんどいないけど・・・

先生はそう言いながら微笑んだが、その話に一層引き込まれる自分がいた。何かが胸の中でざわめき、まるで伝説が私に語りかけているかのような感覚に包まれていた。
「そんな昔話、信じられないですよね。現実的じゃないし…」私はそう言いかけて笑おうとしたが、先生の表情は意外にも真剣だった。
「確かに現実的じゃないかもしれない。でもね、伝説には何かしらの意味があるものよ。小夜香さんも何か困っていることがあるなら、少しだけ信じてみてもいいかもね。願いはいつか、形を変えてでも叶うかもしれないわ。」
先生の言葉に、私は少しだけ気持ちが軽くなった気がした。そしてふと、私が胸の奥に秘めた願いが頭をよぎった。それは誰にも話したことがない夢…私がずっと追いかけているもの。まだ叶えるには足りないものが多すぎるけれど、いつかこの伝説のように叶う日が来るのだろうか。
「ありがとう、先生。少しだけ、希望が持てたかもしれない…。ちなみにその日って次はいつですか?」
「確か…ちょうど一ヵ月後ね。時間は二十三時から一時の間。ただし、その日が雲一つない青空でないといけない。加えて、現れる場所はわからないわ。」
「・・・そうですか。」
「役に立てなくてごめんなさいね。」
「・・・月乃さん、一緒に探そうよ。その悩みだって、〈月の子〉に会えば何とかなるかもしれないよ」
「そ、そうだよね。ありがとう。」
二人で探すことを決意した。すると、
「話は聞かせてもらった。俺たちにも手伝わせろ。」
「そうだよ!ともだちでしょ?」
(うわぁー。めんどくさい奴らが乱入してきた・・・)
「水を差すようで悪いけれど、あなたたちまだ高校生だよね?」
「「そうですよ?」」
「そしたら、二十三時以降は外出禁止ですよ?もちろん朝の四時までね。」
「あ・・・」
「と、とりあえず、場所を突き止めよう」
「「そ、そうだね」」
(肝心なことを忘れてたぁー‼)

翌日から、早速調査に乗り出した。なんやかんや二人も協力することに。わかっていることはただ一つ。この町のどこかに現れるということ。住宅街や商店街、空き地などもくまなく探した。近隣住民にも話を聞いてわかったことがある。それは、この町で最も古い宿が千二百年以上前から存在しているということ。つまり、そこがもっとも怪しい場所。だが、他にもいくつか怪しい場所は残っている。さびれた廃墟や土管のある空き地、もしかしたら最近建てられたあの建物だって・・・。見るものすべてが怪しく感じてしまう。

「ちょとまって、一回休もうぜ。もう四時間も探し続けてもうヘトヘトだ」
「唯一の男が真っ先にへばるなよ」
「へなちょこ春樹(笑)」
「確かここの近くに小さなお寺があったはず。そこに休憩がてら話を聞きに行こうか。いいでしょ?月乃さん。」
「え?うん。そうしようか。」

寺院につくと、一人の若いお坊さんが掃除をしていた。
「ようこそ花月(かげつ)寺院へ」
とても礼儀正しそうな人だった。
「ふぅー。休憩休憩!」
 デリカシーのない斎藤は、彼がさっきまで掃除していたベンチに勢い付けて座り込む。落ち葉が舞った。
「はぁー、あんたって奴は・・・。すいませんこいつが。」
「いいえ、いいんですよ。ゆっくり休憩していってください。」
「あ、あの、つかぬことを聞きますが、〈月の子〉というワード、ご存知ですか。」
「ツキノコ・・・。すいません、聞いたことありませんね。」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
(収穫なしか・・・)
「…〈月の子〉か。懐かしい呼ばれ名じゃな。あやつなら知っとるぞ。」
寺院から顔をのぞかせ、年老いたお坊さんがそう答えた。
「おじいさん、知っているんですか⁉」
「あぁ、しっとる。君たち、奴に興味があるのか?」
「はい!ずっと探しているんです。どこに行ったら会えますか?」
「そうじゃなー。わしが、奴と会ったのは日野守2丁目。新しくデパートが建てられた場所じゃよ。」
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