月夜の約束
~第五章~
 出現場所が分かったとして、問題はここから・・・。まずどうやって家を抜け出すか。学歴にしか興味のないあの母親が、成績に反映するようなことを許すはずがない。かといって勝手に出て行っても、ばれたら殺される。さて、どうしたものか。
「提案なんだけどさ、友達とお泊りするっていえばいいんじゃないか?」
「確かに‼名案だねそれ!」
「いいね!」
「・・・ごめん。私それ、無理、かも・・・。」
「「え?」」
「実は・・・」
私のためにここまで力を貸してくれている。こんなことは初めてだ。この三人には打ち明けてもいいのかもしれない・・・。
「私の家、母子家庭でさ、母親と二人で暮らしているんだよね。父がいない理由は病死。私の父は元々医者でさ、母はその意志を私に継いでほしいんだって。だからなのか、私は勉強以外はやらせてもらえない。遊びに行くことはもちろん、出来の悪い友達を作ることも。すべてが禁止事項。ほんの少しの休憩でさえも癇癪起こして怒鳴り始める。必要最低限の服や鞄と、大量の参考書や文房具しか私には与えられない。裏切ったことがバレたら、これからの学費や生活費が…。だからごめん。私のためにここまで協力してくれたのに・・・」
「そっか・・・、今まで気づいてあげられなくてごめんね。衛藤に真正面から意見を言う姿をみて、勇敢な人だと勘違いしちゃってた。ほんとごめん。別の方法考えよっか。」
「ちぇ!いい案だと思ったのになー。」
「ほんとうにごめんなさい。」
「みんなが納得できるほかの案を考えよっか・・・。」
少しの沈黙が流れた。
「・・・やっぱりさっきの案でいい。」
「「え、でもさっき・・・」」
「もしかしたら今が母親のしがらみから抜け出す最後のチャンスかなって…。」
「・・・もしダメだったら?」
「その時は無視して勝手に行く。日野さんが一緒なら怖くない。」
「俺たちを仲間はずれにするなよ(笑)」
突然勇気が沸いてきた。もしかしたら、本音を言えるかもしれない。前の私なら、絶対に選ばないであろう選択肢。日野さんのおかげで私は少しずつ変われているのかもしれない。
「それじゃあ次は、潜入方法だな」
なぜか斎藤が仕切り始めた。
(まぁいいけど・・・)
「オーソドックスなのは、閉店直前に店に潜入することだよね。」
「防犯カメラがあるから、すぐに警備員に捕まらないかな・・・」
やはり、難点が多い。
「・・・デパート側にも協力者がいれば・・・。。」
「確かに、それが一番安全だよね。」
「知り合いに職員とか、警備員とかデパートに関わりのある奴いないか? 」
「うちはいない。」
「私もいないかな。」
「月乃は?・・・あ、ごめん。いないよな。」
「・・・うん。」
(あの、かまってちゃんなバカ母がなんか言っていたような・・・)
「じゃあこれもだめだな」
 潜入の策が見当たらず、本日はいったんお開きになった。

(残る課題は潜入方法。どこから入るのが一番安全か。一度見に行ってみよう。)
なぜだか私は胸が高鳴っている。今まで生きてきて、こんな気持ちになったのは今回で二度目。一度目は3歳の時、生の舞台を初めて観たあの日だ。舞台上に立つ役者さんたちが輝いて見えた。キラキラしていて胸が温まる不思議な感覚に陥った記憶が頭の片隅に僅かに残っていた。あの頃は本当に楽しかった。父さんも生きていて、母もあんなねじ曲がった性格ではなくて、私もまだ、純粋に生きていた。
(あの頃に戻りたい・・・。)
そう願っても叶うことは決してない。わかっているが願わざる負えない。
好奇心と後悔が入り混じるなか、彼女は目を閉じた。
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