龍神島の花嫁綺譚
「陽葉、俺のもとに残ると言え」
「無理に紅牙の言うことを聞くことはありませんよ、陽葉さん。冷静によく考えて、私のもとに来ませんか」
「あ、あの……、私……」
紅牙の命令口調も、蒼樹のウソくさい笑顔も怖い。
追い詰められた陽葉が顔をひきつらせていると、突然、脇からグイッと上に引き上げられた。
ふわっと浮いた身体が、気付けば蒼樹と紅牙から離れた場所に着地する。
「やめなよ、怖がってる」
何が起きたかわからずぽかんとしている陽葉の後ろから、ため息が聞こえた。
「何すんだよ、黄怜」
「そうですよ」
「ふたりこそ、いつまで見苦しい争いを続けるつもり? どちらかのところに行く以外に、人里に帰る選択もあるよね。身代わりで送られてきたこの子は、本来島とは無関係。次の朔の夜に帰らせるべきだよ。それまでは、とりあえず僕が預かる」
黄怜の言葉に、蒼樹と紅牙がそれぞれ不服そうに顔を歪めた。