龍神島の花嫁綺譚

 黄怜が暮らす西の邸宅は、寝所以外、書物で溢れている。

 陽葉が間借りすることになった小さな客間も、もとは大量の本が積まれていたが、さすがに布団を敷く場所がないので、それは全て書斎と奥座敷に持ち込まれた。

 一日中あまり陽のあたらない西の邸宅で、黄怜は朝も昼も夜も、飽きることなく本を読んでいる。

 読み終えた本は棚に仕舞われることなく床に散らかり、あっという間に足の踏み場がなくなる。

 それで、陽葉は散らかる部屋の片付けをするようになった。

 他の邸宅には身の回りのことを手伝う者がいるそうだが、黄怜のところにはそれがいない。

 敷地内に誰かいるのが煩わしいそうで、食事だけ、必要なときに蒼樹のところで分けてもらっている。彼のところには、料理が得意な元花嫁がいるのだそうだ。

 書斎いっぱいに散らばっていた書物を全て棚に片付け終えると、陽葉はしばらく手持ち無沙汰になった。

(そろそろ東の邸宅に、白米を分けてもらいにいってこようか……)

 部屋の片付け以外に、陽葉は黄怜のために食事も運んでいる。

 ここへ来たばかりの頃、塩結びを握って出したら、「本を読みながらでも食べやすい」と黄怜が喜んだ。

 無能な自分でも役に立てたことが嬉しくて、それ以来毎日、陽葉は黄怜のためにおにぎりを作っている。

「ちょっと、東の邸宅で白米をいただいてきます」

 書斎の黄怜に声をかけるが、いつものように返事はない。本を読んでいるときの黄怜には、周囲の音が届かないのだ。
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