龍神島の花嫁綺譚

「いらっしゃい、陽葉さん」

 陽葉が東の邸宅の前に着くと、まるで図ったように蒼樹が玄関の戸を開けた。

「ようやく、私のところに来る決意を固めてくれましたか」 
 手をとって、にっこりと笑いかけてくる蒼樹に、陽葉は「いえ」とひきつった笑みを返した。

「今日の分のお米をいただきに……」

 いつものようにお櫃を差し出す陽葉に、蒼樹が「そうですか」とやや声のトーンを落とす。

「どうぞ入ってください。ちょうど今、釜戸で炊けた米を蒸らしているところです」

 蒼樹に招かれて、陽葉は東の邸宅の中に足を踏み入れた。

 案内されて向かうのは、東の邸宅の台所。食事を分けてもらうために何度かお邪魔したその場所では、三人の女性が料理しながらおしゃべりをしていた。

 額の上に小さなツノが二本生えた彼女たちは、人ではなく東の邸宅に使える使用人のあやかし。彼女達は、蒼樹に連れて来られた陽葉を見るとおしゃべりをぴたりとやめた。

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