龍神島の花嫁綺譚

「今日は陽葉さんのために、私も米を炊くお手伝いをしたんですよ。おいしく焚けるように火の調整を手伝いました」

 そう言って、蒼樹が手のひらの中にぼうっと青い炎を起こしてみせる。それはとても神秘的で綺麗だ。

 だが、それよりも、蒼樹と陽葉の様子を見つめるあやかしの女たちの好奇心たっぷりのまなざしが気になった。

 彼女達とは東の邸宅を訪れる度に何度か顔を合わせるが、誰も陽葉に直接話しかけてこない。いつも遠巻きに陽葉を見つめながら、あやかし同士で噂話するのだ。

「今日も来たわ」
「来たわね」

 本人たちはコソコソ話しているつもりのようだが、キイキイと高い彼女たちの声は全て陽葉の耳に入ってくる。それは蒼樹にも聞こえているはずだが、彼はとくに彼女たちの噂話を止めることはなかった。

「うん、いい感じにできていますね。どれくらい持っていきますか、陽葉さん」

 にこにこと笑いかけてくる蒼樹は、安定のマイペースだ。

「ああ、えーっと……」

 陽葉が苦笑いでお櫃の蓋を開けたとき。

「かあさまぁ、どこなのお」

 小さな子どもの泣き声が聞こえてきた。

 海の村にいるときは日常に溢れていた子どもの声。それを聞くのは、いつぶりだろう。

 けれど、龍神島に子どもなんて……。空耳かと思って振り向くと、台所の戸口に小さな男の子が立っている。

 年は五つほどだろうか。泣きべそをかいて、鼻と頬が真っ赤だ。

「どうしたのです、紫苑(しおん)
「そじゅっ!」

 紫苑と呼ばれた子どもが、いきおいよく蒼樹にとびついた。
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