龍神島の花嫁綺譚
「おきたら、かあさまいなかったの」
「そうでしたか。それはびっくりしましたね」 

 蒼樹がふえーっと泣き出す紫苑を抱きしめて、なだめる。その声は優しく穏やかで、紫苑を心から慈しんでいることが伝わってくる。

「そじゅ、いっしょにさがして」
「そうですね。陽葉さんのごはんをよそったら、いっしょに探しに行きましょう」
「ひよ、って?」

 首をかしげる紫苑に、蒼樹がにこっと笑いかける。

「陽葉さんはこちらの女性です。もしかしたらこの方も、紫苑のお母様になるかもしれませんよ」
「かあさま……?」

 紫苑が、上目遣いに陽葉を見てくる。頼りなさげなその表情がかわいらしくて、海の村で暮らしていたときの下の子たちのことを思い出す。

 だが……。

「ちょ、ちょっと待ってください……! お母様って……。その子は?」
「お察しのとおり、うちの子です」
「うちの子……?」
「ええ、可愛いでしょう」

 蒼樹がデレ顔で紫苑に頬をすり寄せる。それをちょっと迷惑そうに手で押しやる紫苑の優しい目元は、たしかに蒼樹に似ているかもしれない。

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