龍神島の花嫁綺譚
「陽葉、早く東の邸宅を出なさい。彼女たちは私が止めるから」
「だったら、志津姉も一緒に行こう!」
あやかし三人組が蒼樹に告げ口したら、志津は何か罰を受けてしまうかもしれない。けれど、手を差し伸べた陽葉に、志津は淋しそうに微笑んで首を横に振った。
「ごめんね、私は行けないの」
「どうして?」
夕凪の刻や舟のことを調べていたということは、志津は今も人里に帰ることを望んでいるのではないか。
「だめなのよ。私の心はもう、蒼の龍神様に心を囚われている」
そう告げた志津は、どこか虚ろな瞳をしていた。
「私の中にある醜さを軽蔑してくれて構わない。陽葉、私はね、可愛かったあなたにでさえ、蒼樹様のそばを奪われたくないと思っているの」
優しかった志津が、突然、自我を失ったようにニィッと笑う。
「早く、私の前から消えなさい」
冷たい声で、思いきり背中を突き飛ばされて、陽葉は台所を飛び出した。
『蒼の龍神様に心を囚われている』
そう言った志津は、もう陽葉の知る志津ではない気がした。
あれが、龍神島の一部になるということ――?
背筋がゾクリとし、手足が震える。
大好きだった志津の優しい笑顔を思い出しながら、陽葉は泣くのを堪えて懸命に走った。
「だったら、志津姉も一緒に行こう!」
あやかし三人組が蒼樹に告げ口したら、志津は何か罰を受けてしまうかもしれない。けれど、手を差し伸べた陽葉に、志津は淋しそうに微笑んで首を横に振った。
「ごめんね、私は行けないの」
「どうして?」
夕凪の刻や舟のことを調べていたということは、志津は今も人里に帰ることを望んでいるのではないか。
「だめなのよ。私の心はもう、蒼の龍神様に心を囚われている」
そう告げた志津は、どこか虚ろな瞳をしていた。
「私の中にある醜さを軽蔑してくれて構わない。陽葉、私はね、可愛かったあなたにでさえ、蒼樹様のそばを奪われたくないと思っているの」
優しかった志津が、突然、自我を失ったようにニィッと笑う。
「早く、私の前から消えなさい」
冷たい声で、思いきり背中を突き飛ばされて、陽葉は台所を飛び出した。
『蒼の龍神様に心を囚われている』
そう言った志津は、もう陽葉の知る志津ではない気がした。
あれが、龍神島の一部になるということ――?
背筋がゾクリとし、手足が震える。
大好きだった志津の優しい笑顔を思い出しながら、陽葉は泣くのを堪えて懸命に走った。