龍神島の花嫁綺譚
 進むにつれて橙の光は眩しくなり、やがて開けた空間に出る。

 前にも訪れたことのある、五体の石祠がある場所だ。

 白、蒼、紅、黄――。

 石祠の中の石を端から順に追っていた陽葉の目が、ひとつだけ離れて置かれた石祠の黒の石をとらえる。そのとき。

『もっとこっちへ』

 黒の石が陽葉を呼んだ。低く掠れた、けれどなぜかなつかしさを感じる声。その声に操られるかのように足を進めた陽葉は、黒の石の置かれた石祠の前で跪いた。

 前もそうだった。なぜか妙に心を惹かれる石だ。

 艶やかな光を放つなめらかな黒の球体には、訝しげに眉を寄せる陽葉の顔が逆さまに映っている。

 少し顔を近付けてみるが、さっきの声はもう聞こえてこない。

(空耳だったのかしら)

 首をかしげて立ちあがろうとした次の瞬間、洞窟内に突然風が吹いた。

 石祠の中の黒の石が、パァーッと妖しい黒の光を放ち、カタカタと震える。

 驚く陽葉の耳に、また声が届いた。

『あ、あ――、よう……くだ……ほ……とうに、長かった……は、やく、その手を――』

 途切れ途切れだが、その声が陽葉に切実に訴えかけてくる。脳内を揺らして痺れさせるような声に、陽葉は額を押さえた。

 その声を知っていると思った。なぜそう思うのかわからないけれど、知っているのだ。

 もう、あきれるほどにはるかずっと昔から。

 陽葉の意志とは関係なしに、両手が黒の石を求める。なめらかな石の表面に触れた手のひらが、燃えるように熱くなり、得体のしれない霊気のようなものがドクドクと流れ込んでくる。

(怖い……!)

 だが、黒の石に触れた手を離せない。

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