龍神島の花嫁綺譚
龍神島の五頭龍
一
龍神島の周囲の海は潮の流れが早く、波が高く荒れている。だから、村の人たちが漁に出るとき、龍神島のほうには絶対に舟を近付けない。
だが、新月の今夜は不思議なほどに海が穏やかだった。
龍神島を北に向かって回っていくと、小さな砂浜のある入り江があり、船頭がそこに小舟をつける。
砂浜はそのまま岩場の洞窟の入口へとつながっており、冷たく不気味な空気が漂ってきていた。
(ここが、龍神島……)
正直なところ、無事に島に辿り着けるとは思っていなかった。
「降りろ」
ぼんやりと洞窟を見上げる陽葉に、舟頭が乱暴に声をかけてくる。
「あ、はい……」
「ああ、ちょっと待て」
立ち上がって舟を降りようとすると、舟頭が陽葉の肩を掴んで引き留めた。
「これは、舟のお代としていただく。そうじゃねえと、こんな不気味な島への輸送なんてわりに合わねえ」
舟頭が陽葉の髪から白い花かんざしをもぎ取る。そうして、あとは用済みだと言わんばかりに陽葉を小舟の外へと突き飛ばした。
「きゃっ……」
陽葉が砂浜に倒れると、舟頭がすかさず舟を出す。
「ま、待ってください……! 私はこれからどうすればいいんですか?」
「知らねえよ。俺の仕事はここまでだ。海が荒れる前に退散させてくれ」
必死に呼びかけたが、舟頭は陽葉を置き去りにして行ってしまった。
だが、新月の今夜は不思議なほどに海が穏やかだった。
龍神島を北に向かって回っていくと、小さな砂浜のある入り江があり、船頭がそこに小舟をつける。
砂浜はそのまま岩場の洞窟の入口へとつながっており、冷たく不気味な空気が漂ってきていた。
(ここが、龍神島……)
正直なところ、無事に島に辿り着けるとは思っていなかった。
「降りろ」
ぼんやりと洞窟を見上げる陽葉に、舟頭が乱暴に声をかけてくる。
「あ、はい……」
「ああ、ちょっと待て」
立ち上がって舟を降りようとすると、舟頭が陽葉の肩を掴んで引き留めた。
「これは、舟のお代としていただく。そうじゃねえと、こんな不気味な島への輸送なんてわりに合わねえ」
舟頭が陽葉の髪から白い花かんざしをもぎ取る。そうして、あとは用済みだと言わんばかりに陽葉を小舟の外へと突き飛ばした。
「きゃっ……」
陽葉が砂浜に倒れると、舟頭がすかさず舟を出す。
「ま、待ってください……! 私はこれからどうすればいいんですか?」
「知らねえよ。俺の仕事はここまでだ。海が荒れる前に退散させてくれ」
必死に呼びかけたが、舟頭は陽葉を置き去りにして行ってしまった。