社長、子供扱いはやめてください

1.

 最寄り駅前の銀行ATMで、泉川咲月は通帳を片手に茫然と立ち尽くしていた。今まさに記帳したばかりの自分名義の銀行口座。その残高の数字が、予定していたよりも全然少ないのだ。

 ――え、え、えっ?! なんで、なんでぇ……?!

 後ろに並ぶ老婦人から急かすように咳き込まれて、慌ててATMの機械前から離れる。人の列の邪魔にならないよう壁際に移動して、もう一度通帳をこっそり開いて確認する。

 ――バイト代が、振り込まれてないっ?! え、今日って26日だよね……?!

 毎月25日に支払われるはずのアルバイト料。今月は日曜だったから、前倒しで23日の金曜には振り込まれているはずだった。確認する為にスマホのホーム画面を覗いてみるが、間違いなく今日の日付は26日の月曜日と表示されている。

 週末は手持ちがまだあったからと、余裕を見たつもりで銀行を訪れてきた。なのにまだ、バイト代が入っていないのは何故だ?

 入っていると思っていたはずのものは無いけれど、光熱費もスマホ料金もちゃっかりと引き落としは済んでいる。出る一方で入金はゼロだ。おかげで口座内に残されている預金残高は完全にスズメの涙。これから飲みに行くなんて調子に乗ったことをしたら、来月には消費者金融のお世話になってもおかしくはない。

 大学生活4年目。去年まではそれなりにバイトを頑張って貯金していたつもりだった。別にブランド物には興味は無いし、旅行も海外よりも国内のパワースポット巡りの方が性に合う。

 自他共に認める安上がりな女。なのに、どうしてここまでギリギリでやっているのかは、いつまで経っても終わらなかった就職活動のせい。おかげでシフトに入れる日数が極端に減ってしまっていた。この一年は少ない稼ぎと貯金を切り崩して頑張ってきたつもりだった。
 勿論、実家からの仕送りはあるにはあるけれど、それは家賃と光熱費できれいさっぱり消えてしまう。それ以外の生活費くらい自分で何とかするよと啖呵切ってしまった過去の自分が恨めしい。

 半ば諦めモードになりつつも、銀行の建物の外に出てから、咲月はスマホに登録しているバイト先の電話番号を呼び出す。

「お電話ありがとうございます、パテル東町店です」

 咲月も聞き慣れている、おっとりとした中年女性の声。古参のパート勤務の中谷で、小学生の男の子二人のママだ。平日のバイトリーダー的存在でもあり、入ったばかりの咲月に仕事を教えてくれたのが彼女だ。
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