社長、子供扱いはやめてください
「また、かなぁ……?」
働いていたバイト先の倒産は、実は今回が初めてではない。これまで短期のものも含めていろんなところでアルバイトを経験してきたが、なぜか咲月と関わった店は全て潰れて無くなってしまっている。別に売り上げの悪そうなところを選んでいるつもりもないし、働いている内はそれなりに仕事量もあって忙しかった記憶がある。なのに不思議なことに、咲月が辞めてかかわりが無くなった後、風の便りで潰れたことを聞く羽目になる。
ただ、今までは辞めて縁が無くなった後ばかりだったし、今回みたいに業績の悪化の影響をモロに受けたのは初めてだ。
「それって、咲月の倒産パワーが増したってことなんじゃない? 完全にパワーアップだね!」
「勘弁してよー。こっちは就活のやり直しの危機なんだから……」
先週末に入っているはずのバイト料をアテにして飲みに行くはずが、ファストフード店の二階席でハンバーガーセットを頬張る羽目になった。急に予定変更をお願いしてきた咲月のことを、同じゼミの藤岡美奈は大笑いしながら揶揄ってくる。
倒産パワー、そんな縁起でもない力は冗談でも要らない。辞めた後とは言っても、一度でも働いたことがある場所が無くなっているのを見るのは寂しい。久しぶりに顔を出そうと訪れて、全く別の店の看板が上がっているのに気付くのは辛いものがある。
さすがに美奈も今回の深刻さは分かってくれているのか、それ以上は言っては来ない。二人揃って、二階席の窓から駅前の景色を無言で眺める。既に冷え切ったポテトにナゲットのソースを付けて口の中へ放り込んでから、咲月はタクシー乗り場の方に視線を送る。取引相手でも見送っているのか、タクシーのドアに向かって頭を下げているスーツ姿の男性。車が動き出した後もしばらくは頭を下げ続け、完全にロータリーから離れたのを見送った後、ふぅっと肩で息をしているのが見えた。
「就活、もう一回やり直しかぁ……」
「ふぁいと」
人並みに頑張ってこなしたつもりの就職活動。3年生の後半には情報収集を始めて、それなりの数の説明会にも参加した。中には最終に近いところまで残れた会社もあったが、結局は全てからお断りされてしまった。そんな愚痴をケーキ屋のバイト中に店長へ聞いて貰っていたら、「本社の事務を募集してるし、推薦してあげるよ」と。その後はとんとん拍子に本社で社長と面接してもらい、「現場の経験があると助かるよ」という言葉と共に内定をもらった。 ――はずだった。
事務とは言っても、隣でシェイクを啜っている美奈のように、外資系の証券会社みたいな華やかさも無ければ、給料だってバイトよりもちょっとマシくらいだろう。それでも何とか縁があり正社員として雇って貰えると安堵していた。だけど、今日の店との電話からすると、先行きには不安しかない。
働いていたバイト先の倒産は、実は今回が初めてではない。これまで短期のものも含めていろんなところでアルバイトを経験してきたが、なぜか咲月と関わった店は全て潰れて無くなってしまっている。別に売り上げの悪そうなところを選んでいるつもりもないし、働いている内はそれなりに仕事量もあって忙しかった記憶がある。なのに不思議なことに、咲月が辞めてかかわりが無くなった後、風の便りで潰れたことを聞く羽目になる。
ただ、今までは辞めて縁が無くなった後ばかりだったし、今回みたいに業績の悪化の影響をモロに受けたのは初めてだ。
「それって、咲月の倒産パワーが増したってことなんじゃない? 完全にパワーアップだね!」
「勘弁してよー。こっちは就活のやり直しの危機なんだから……」
先週末に入っているはずのバイト料をアテにして飲みに行くはずが、ファストフード店の二階席でハンバーガーセットを頬張る羽目になった。急に予定変更をお願いしてきた咲月のことを、同じゼミの藤岡美奈は大笑いしながら揶揄ってくる。
倒産パワー、そんな縁起でもない力は冗談でも要らない。辞めた後とは言っても、一度でも働いたことがある場所が無くなっているのを見るのは寂しい。久しぶりに顔を出そうと訪れて、全く別の店の看板が上がっているのに気付くのは辛いものがある。
さすがに美奈も今回の深刻さは分かってくれているのか、それ以上は言っては来ない。二人揃って、二階席の窓から駅前の景色を無言で眺める。既に冷え切ったポテトにナゲットのソースを付けて口の中へ放り込んでから、咲月はタクシー乗り場の方に視線を送る。取引相手でも見送っているのか、タクシーのドアに向かって頭を下げているスーツ姿の男性。車が動き出した後もしばらくは頭を下げ続け、完全にロータリーから離れたのを見送った後、ふぅっと肩で息をしているのが見えた。
「就活、もう一回やり直しかぁ……」
「ふぁいと」
人並みに頑張ってこなしたつもりの就職活動。3年生の後半には情報収集を始めて、それなりの数の説明会にも参加した。中には最終に近いところまで残れた会社もあったが、結局は全てからお断りされてしまった。そんな愚痴をケーキ屋のバイト中に店長へ聞いて貰っていたら、「本社の事務を募集してるし、推薦してあげるよ」と。その後はとんとん拍子に本社で社長と面接してもらい、「現場の経験があると助かるよ」という言葉と共に内定をもらった。 ――はずだった。
事務とは言っても、隣でシェイクを啜っている美奈のように、外資系の証券会社みたいな華やかさも無ければ、給料だってバイトよりもちょっとマシくらいだろう。それでも何とか縁があり正社員として雇って貰えると安堵していた。だけど、今日の店との電話からすると、先行きには不安しかない。