無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~

 〇美恋の家の中

 家に入り安心すると、一気に力が抜ける美恋。
 倒れそうなところを香云に受け止められ、横抱きにされる。


 美恋「え!? 香云!?」
 香云「ムリすんな。そのまま掴まってろ」


 リビングに運ばれ、ソファにゆっくりと降ろされる。


 香云「けがは?」
 美恋「あ……だ、大丈夫。ちょっと力が抜けただけだから」


 香云は美恋に怪我がないと分かると大きく息を吐きだして脱力した。


 香云「……よかった。本当にどこもなんともないんだな?」
 美恋「平気だよ。ちょっと腕を掴まれただけ」


 そういうと香云は悲しそうに眉を下げた。


 香云「腕、赤くなってる」

 美恋「あ、本当だ。でもこれくらい平気だよ」
 香云「ダメだ。ちょっと待ってろ」


 香云は救急箱を持ってきて、丁寧(ていねい)処置(しょち)をしていく。


 美恋「そんなに心配しなくても……」
 香云「心配するに決まってるだろ。俺にとってお前は何よりも大切な相手なんだから」


 心配そうに腕に触れる香云。
 一方の美恋はしれっと大切な相手と言われたことに赤くなる。


 香云「痛むか?」
 美恋「……ううん。平気」

 香云「ごめんな。怖い思いをさせて」
 美恋「! なんで香云が謝るの? 香云はなにも悪くないじゃない!」

 香云「それでもお前を一人にしなかったら起こらなかったかもしれない。……お前に何かあったら、俺は……っ」


 腕に触れている香云の手が小さく震えていることに気がつく美恋。
 悔しくて仕方がないというように眉を寄せた香云に、胸が痛む。


 美恋(なんで、香云がそんな顔するの?)


 香云「お前は自分よりも人の心配を優先するような奴だ。だからさっきも逃げるんじゃなくて、不審者を取り押さえようとしていただろ」
 美恋「……気がついていたんだ」


 香云「当たり前だ。俺がどれだけお前と一緒にいたと思ってんだ」


 香云「お前がそういうやつだってことは知っている。だが俺は……他の誰よりもお前が大切なんだ。だからもっと自分を大切にしてくれ。一人でなんでもやろうとするな。助けを呼んでくれよ。お前が呼んでくれるのなら、俺はどこにだって行くから……」


 美恋(そっか……。香云は怖かったんだ)


 香云にとっては、美恋が傷つくことが何よりも恐ろしいこと。
 真っ直ぐに見つめられてようやくそのことに気がついた美恋、震える香云の手を取る。


 美恋「……ごめん」


 美恋「心配かけてごめんね。これからは助けを……ちゃんと香云を呼ぶから」
 香云「……約束だからな」

 美恋「うん。約束する。それから、助けてくれてありがとう」


 美恋、香云の胸に頭を預ける。
 香云もそれを受け入れ、ぎゅっと抱きしめられる。


 (美恋のモノローグ)


 いつもやる気のなさそうな香云が、あんな顔をしているところなんて見たことがなかった。


 少しも傷ついてほしくない。危険なことに巻き込まれてほしくない。

 そんな思いが、震える手から伝わってきた。


 どうして自分のことのように怒ってくれるの?

 どうしてそんな風に思ってくれるの?


 何度考えても、その答えは一つ。


 香云は私が思っているよりも、私のことが大事なのだろう。


 そんな香云に、私は――


 (美恋のモノローグ終了)

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