無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~
〇空き教室
むすっとした香云の横に座る美恋。その向かい側には問題の美少女下級生が座っている。
美恋「え、ええっと。もう一回聞くけど、あなたの好きな人って……」
下級生「陽縁先輩です!」
美恋「香云じゃなくて?」
下級生「ええ?」
下級生は一瞬疑問顔になったが、すぐに腑に落ちた顔をした。
下級生「それはないですよ。だってわたし、男ですから!」
美恋「えっ、は、ええ!?」
下級生「あはは! やっぱり驚きますよねぇ」
下級生「改めてご挨拶いたします。わたし、一年の東雲朝灯と言います。姉が三人いて、小さいころから着せ替え人形にされていたので、今じゃこっちの恰好の方がしっくり来るようになりましたけど、こう見えてれっきとした男です!」
下級生は立ち上がってくるりと一回転した。回った拍子にスカートがふわりと円を描く。
その姿はどこからどう見ても女の子にしか見えない。
朝灯「ちなみに性自認は男ですし、恋愛対象も女の子です! あ、でも別にトイレとか更衣室とか、女湯とかに入りたいって願望はないから、安心してくださいね!」
美恋「あ、え、ああ。うん……?」
朝灯「まあわたしの骨格的にも女の子の服が似合うし、声もこの通り高いでしょう? この高校は校則がわりと自由で、服装も好きな方を選べるから選んだわけですが……その。入学式の日に偶然見かけた陽縁先輩に一目ぼれをしてしまって」
キャッと恥ずかしがる朝灯。
頬を染める姿は女性でも見惚れてしまう程可愛らしい。
朝灯「すっごく驚いたのよ! こんなに凛としたキレイな人がいるんだって」
美恋「え、へへへ」
身長も低くて中学生に間違われたこともある美恋、ちょっと嬉しそう。
美恋「そ、そんな風に言ってもらえたのは初めてだよ」
朝灯「ええ? そうなんですか? その人たち見る目ないですよ。だって先輩、こんなに可愛くてキレイなのに」
美恋「へへへへ」
朝灯の褒めたおしに赤くなっていく美恋。
一方の香云の機嫌はだんだんと落ちていく。
香云「おい。いい加減離れろ」
朝灯「あら。嫉妬ですか?」
香云「あぁ?」
挑発された香云は額に青筋を浮かべる。
香云「こいつの魅力に気がついたのは褒めてやる。だが譲るつもりなんてない」
朝灯「あら。譲るだなんて。まだ岩船先輩の彼女ではないはずよ?」
香云「前も言っただろ。こいつはお前にはムリだって」
朝灯「やる前から諦めるなんて、わたしの信条に反するの。そちらこそ諦めていただけます?」
香云「てめぇ……」
朝灯「あらあら、やりますか?」
険悪な雰囲気に首を傾げる美恋。
美恋「ん? 前って?」
香云「お前がキスしているところを見たとか言った、あのときだよ」
美恋「え?」
香云「だから、あれはキスされていたわけじゃなくて、さっきみたいに胸倉を掴まれて宣戦布告を受けていただけだってこと」
(事件の真実の回想)
香云の影に隠れて見えなかったあの時のやり取り
香云は胸倉を掴まれた状態。
朝灯「わたしね、陽縁先輩と付き合いたいの。だから邪魔なんです。貴方が」
香云「あ?」
朝灯「聞きましたよ。まだ付き合っていないんでしょう? なのにずっと彼女の隣を独占して、何なんですか。いい加減退いてくださいよ」
香云「はっ。退くわけけねぇだろ。俺はあいつの隣を譲るつもりなんざねえ。諦めるんだな」
バチバチと視線がぶつかり合う。
(事件の真実の回想終了)