無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~
〇校門前・次の日の夕方
美恋が一人で待っているところに、遠くから現れた朝灯。
覚悟が決まった顔をした美恋に、なんとなく何を言われるのかを察して複雑な表情で手を上げた。
朝灯「ごめんなさい。お待たせしてしまいましたね」
美恋「ううん。来てくれてありがとう」
朝灯「いえいえ。美恋先輩の為ならどこにでも参りますわ!」
美恋「……うん」
朝灯の言葉に胸を痛める美恋。
朝灯「それで……お話というのは?」
美恋「……その」
言いよどんでいると、朝灯は控えめに覗き込んでくる。
朝灯「告白のお返事、でしょうか」
美恋「っ」
図星をつかれてたじろぐ美恋だが、やがて決意を固めて頷く。
と、朝灯は悲しそうにほほえんだ。
朝灯「やっぱり、岩船先輩が好きなんですね」
美恋「……うん」
朝灯「そうですか。……そんな気はしていました。ずっと、貴女を見ていましたから」
朝灯「ご家族のことも、神社のことも知っていました。貴女がわたしを選んでくれるのなら、ご家族を納得させるほど強くなるつもりでした。そのくらい、本気でしたの。……でも」
朝灯は寂しそうに目を反らす。
朝灯「貴女の心は、既に彼に傾いていたんですね」
美恋「ごめんなさい。朝灯くんが私を真っ直ぐに見てくれていたのは伝わってきていたし、嬉しかったの。でも、どうしても私は……」
美恋(香云じゃなきゃ、イヤだから)
美恋はがばっと頭を下げた。
朝灯「謝らないでください。わたしはこの気持ちが実らないことくらい、分かっていましたから」
美恋「……え?」
朝灯「だって美恋先輩、岩船先輩を見つめるときすごく愛おしそうに見つめるんですもの。すぐに相思相愛なんだってことは分かったわ」
思わず顔を上げると泣きそうに笑う朝灯がいた。
そして独白のように語る。
朝灯「……わたしね、こんな見た目をしているから、いじられたり、変な目で見られることばかりだったの。でも先輩は男でしょとか、女だったらとか、そう言うのを言わないで自然に受け入れてくれた。普通の友達のように接してくれた。それが何より嬉しかったの」
朝灯「だから貴女とずっと一緒にいたかった。でも、本当に貴女のことを思うなら、潔く身を引くべきだったわ。それでも気持ちを打ち明けたのは、単なるわたしのわがまま。少しでも貴女のそばにいる時間を伸ばしたくて……」
朝灯「だから謝らないで。むしろ謝るべきはわたしなのだから」
美恋「朝灯くん……」
朝灯「ありがとう。わたしに時間を使ってくれて。彼氏にはなれなかったけれど、一緒にすごせてよかったわ。……それじゃあ」
ムリして作った笑みを浮かべ去っていく朝灯。
どう見ても痛々しい笑みに思わず手が伸びそうになるが、留まる。
美恋(私に彼を慰める権利なんて、ないから)
朝灯の背中を見ているのが辛くて涙が浮かんでくる。
それでも目を反らさずに見届けた。
美恋(知らなかった。恋って、楽しいだけじゃないんだ。辛くて、切なくて、苦しいこともあるんだ……)
美恋は涙を拭って、朝灯とは反対側へと歩き出した。