無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~

 〇美恋の家、夕方

 家につき、玄関(げんかん)を開けると一足の靴が置いてある。
 見覚えのある靴を見た美恋(みこ)は、家の奥へと声をかけた。


 美恋「ただいまー。香云(かい)、いるの?」
 香云「んー。おかえり」


 美恋の声に応える様に、香云がリビングから頭をひょっこりと出した。


 岩船(いわふね) 香云(かい)濃紺(のうこん)の短髪にニュアンスパーマをかけた、眠たげな目をした幼なじみの男の子。小さいころから神社の道場に通っているが、常にやる気のなさそうな顔をしている。小学校から美恋と同じ学校に通っており、ネックレスを肌身離さず持っている。


 美恋「今日は早いんだね。どうかしたの?」
 香云「いや、お前の兄さんに頼まれた。今日は家に美恋しかいないから、早めにきて面倒見てやってくれって」
 美恋「……ああ。いつもの」


 過保護(かほご)な兄に頭を抱える美恋。
 美恋の家族は美恋を極力(きょくりょく)一人にしておかない(たち)だった。


 美恋(小さいころは体が弱くて生死の狭間(はざま)を何度もさまよったから、心配なのはわかるけど……)


 美恋「香云さ、いくら幼なじみで小さいころから一緒に育ってきた兄妹みたいなものだからって言っても、いい加減断ってくれていいんだよ?」
 香云「別に。どうせ道場がはじまるまでの間だし。それに俺ん家も夜は店があって親いないし、一緒にいろって言われてるから」


 香云はそっぽを向いた。


 香云「それより、飯、食べるんだろ?」
 美恋「あ、うん」
 香云「ならさっさと支度(したく)しろ。もうすぐできるから」
 美恋「あ、ありがとう」


 急いで手を洗いリビングに向かうと、既に湯気の立つ料理が並べられていた。


 美恋「ごめん。今日は私の番だったのに」
 香云「別にいいって。お前より俺が作った方が美味いし」
 美恋「うっ、それはそうだけど」


 香云の家は料理屋を開いていて、香云自身も後を継ぐべく勉強しているため料理が上手。

 女子力で負けているような気がしてしょんぼりしながらも、お皿を並べていく美恋。
 あっという間に夜ごはんができあがった。


 美恋・香云「「いただきます」」


 二人で座り、手をあわせる。美恋はお味噌汁を手に取った。


 美恋「ああ~やっぱりおいしい。香云、すぐにでもお店継げるんじゃない?」
 香云「ふん。まあ俺だからな。つーかそれよりお前は大丈夫なのか?」
 美恋「私?」
 香云「まさか忘れてないよな。もうすぐ神事(しんじ)神楽(かぐら)披露(ひろう)するんだろ?」
 美恋「ああ」


 来週の神事で巫女(みこ)として(まい)奉納(ほうのう)することを思いだす美恋。


 美恋「練習はいつもしているし、いつも通りやれば大丈夫だと思う」
 香云「ならいいけど。……じゃあなんでそんな変な顔してんの?」

 美恋「変な顔?」
 香云「なんか悩んでますーって顔。なに? また恋愛相談でもされた?」

 美恋「うっ……その通りです」


 言葉に詰まった美恋に(あき)れる香云。


 香云「またかよ」
 美恋「だ、だって、あんなに必死にお願いされたら断れないよ」
 香云「恋愛経験ないくせに、見栄(みえ)張るから困るんだよ」
 美恋「うぐっ」


 美恋(今日はなんでこんなにグサグサ刺されるわけ!?)


 恨みがましい目つきで香云を見る美恋。


 美恋「そりゃあ私だって恋できるならしたいよ!」
 香云「そうなの?」
 美恋「当たり前じゃん! 恋する女の子の可愛さと言ったら、そりゃあもう見てるこっちがキュンキュンしちゃうくらいだし」


 学校でのことを思いだし目を輝かせる美恋。


 香云「ふーん。やめといたほうがいいと思うけど。お前、男を見る目ないし」
 美恋「はああー!?」

 香云「事実だろ。昔あこがれてた先輩がクズだったの、忘れたか?」
 美恋「……そうでしたね」


 赤くなって怒る美恋だったが、すぐに過去を思い出して苦い顔になる。
 思いだすのは中学時代にあこがれていた先輩のこと。


 美恋(優しくしてくれたからいいなと思っていたけど……)


 その先輩は陰で美恋を笑い、「可愛くない女は恋愛する権利がない」と言っていた。


 美恋(そんなこと言われなくても分かってるよ)


 憂鬱(ゆううつ)な気分でため息をつく。


 美恋「はあ~。どうせ見る目ないですよーだ」
 香云「本当にな。近くにこんな優良物件がいるのに」
 美恋「優良物件って、自分でいう?」


 美恋は呆れた顔で香云を見る。


 美恋(まあ、顔はいいと思うけどさ)


 美恋「だって香云、面倒くさがりじゃない。部活も委員会も、なんにも入ろうとしないくらい」
 香云「そりゃあ面倒だからな」

 美恋「またそういうこという。学生生活楽しまないでどうするのよ」
 香云「学校生活よりも大切なことがあるからいいんだよ。それに、成績もいいから先生たちだってなんも言わないだろ」

 美恋「やる気ないくせに頭はいいもんね」
 香云「やることちゃんとやってりゃ、口出しされないからな」


 飄々(ひょうひょう)とする香云に白けた目を送る。


 美恋「道場くらい真剣に取り組んでいたら、相当モテると思うのに……。もったいない」
 香云「不特定多数にモテても意味ないだろ。本命に意識してもらえなかったら骨折り損だし」

 美恋「骨折り損て……。ん? 香云本命の子いるの?」
 香云「……いる」

 美恋「えー!? 初耳だよ! だれ!?」


 ガタンと机を立つ美恋。
 なんだかんだ言っても恋バナは好き。


 香云「……お前さ」
 美恋「うん?」
 香云「……はあ。なんでもない」


 目を輝かせて会を見つめる美恋に対して、香云は呆れ顔でため息をついた。

 美恋(何だったんだろう?)

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