無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~

 〇水族館の飲食店

 イルカショーを見終わって休憩中。


 香云「これでいいか?」
 美恋「あ、うん。ありがとう。お金払うよ」

 香云「いいって。彼女に(おご)るのは彼氏の特権(とっけん)だからな」
 美恋「……そう、ですか」


 照れた美恋は複雑(ふくざつ)な顔でジュースを飲む。


 美恋(なんだか今日の香云、今までより、その……優しすぎて落ち着かないんだよね)


 (休憩(きゅうけい)に至るまでのデートのダイジェスト)


 ・家に迎えに来てくれる

 ・恋人繋ぎで優し気なほほえみをむけてくる

 ・服や髪型を可愛いと褒めてくれる

 ・人ごみから守ってくれる

 など


 (ダイジェスト終了)


 付き合う前の数倍は優しいし、甘やかされているという自覚がある。


 美恋(いや、今までが優しくなかったわけじゃないよ!? そういうわけじゃないんだけど……)


 美恋はちらりと香云を見る。
 美恋の視線に気がついた香云は嬉しそうにほほえむ。美恋はくっと胸をおさえた。


 美恋(視線がっ! 視線が甘いのよ!!)


 恥ずかしくなって顔を反らす美恋。

 恋愛経験の乏しい美恋ですら分かるほど視線に甘さが含まれている。
 今まで気がつかなかったのがふしぎなくらいだった。


 香云「ね、それ一口頂戴(ちょうだい)
 美恋「え?」


 突然香云が美恋の食べているパフェを指さした。

 海を模したパフェで、生クリームたっぷりの甘そうなやつ。


 美恋「香云、甘いの苦手じゃなかった?」
 香云「一口食べてみたくて」

 美恋「そう? なら、はいどーぞ」
 香云「んー」


 香云にパフェを差し出すも、一向に動く気配がない。

 不審(ふしん)に思って首を(かし)げると笑顔で口を開かれた。
 その仕草は……。


 美恋(……あーんしろってこと!?)


 察した美恋、はわわとなる。


 香云「……ダメ?」
 美恋「っ、ダ、ダメってわけじゃないけど」


 下から覗き込むように上目遣いで見られた美恋は赤くなってそっぽを向く。


 美恋(うう……。香云に甘えられるのってなんだか変な気分……! それに……)


 しどろもどろする美恋の反応を楽しんでいる香云。
 目が合うと楽しそうに笑われる。


 美恋(絶対に恥ずかしがるってわかっててやってる!!)


 香云は確信犯だった。


 美恋(むむむ)


 香云ばかり余裕(よゆう)があって悔しくなり、美恋は勢いに任せてスプーンを香云の口に入れる。


 香云「うまいな」

 美恋「……ソウデスカ」
 香云「なんでカタコトなんだよ」


 香云が幸せそうにはにかむものだから、何も言えなくなる美恋。
 結局撃沈(げきちん)する羽目になった。


 美恋(心臓が、心臓が持たないのよっ!)


 今までとは明らかに違う香云の一面が見れて、ずっとドキドキしっぱなし。


 美恋「香云さ……」
 香云「ん?」

 美恋「明らかに今までと違う態度(たいど)だからさ、家族にもバレている気がするんだけど。なんかお兄ちゃんからすごい生暖かい視線を受けているの」
 香云「まあそうだろうな」

 美恋「わざとそうしてない?」
 香云「あ、バレた?」


 香云の答えに思わず顔をあげる。


 美恋「ちょっと! 恥ずかしいじゃない!」

 香云「今更だろ。だって俺、昔からお前と付き合うために道場に通ってたくらいだし。お前に告白したのも、親父さんにようやく納得してもらえるくらいに強くなったからだし。その時点でお前の家族は知っていたんだけど?」


 香云は美恋の家族の「俺たちを倒せる強い男じゃないと認めん!」というムーブに従っていたという話を思いだす。


 美恋「……お兄ちゃんたちもお兄ちゃんたちだけど、それに付き合う香云も香云なのよ」


 若干(じゃっかん)(あき)れた美恋に「そうかもな」と笑う香云。


 香云「でも、好きな女の家族には、どのみち認めてもらう必要があったしな。ちょうどよかったよ」

 美恋「!? え、ど、どういう意味!?」
 香云「さあ? どういう意味だと思う?」


 さらっと言われ考える美恋。

 香云を見れば、とろけるような甘い目とかちあう。
 その目は「家族」「好きな女」という意味に深みを持たせるには十分で、恥ずかしくなった美恋はぶわりと赤くなる。


 美恋「~~っ!」


 美恋「そ、外堀(そとぼり)から埋めすぎでは?」
 香云「なりふり構ってられなかったんだよ」


 香云は机に手をつき、美恋の頬に手を伸ばした。
 顔を上げさせられ、視線が絡む。


 香云「お前はどんどんきれいになるし、周りも美恋の魅力(みりょく)に気がつきだすやつがいたし」
 美恋「魅力って……そんなのある?」

 香云「あるよ。美恋は可愛いし、素直だし、なにより……人の幸せを心から願える人だからさ」


 香云の指が頬を伝い、唇に。


 美恋(~~っ! キスされる!?)


 思わず目を(つぶ)る美恋。
 けれどいつまで待っても感触が降りてくることはなく、そろりと目を開ける。


 香云はクスクスと笑っていた。


 香云「クリーム、ついてただけだって」
 美恋「!」


 勘違(かんちが)いしたことに気がついた美恋、顔を(おお)う。

 上から香云の笑う声が聞こえてきた。


 香云「ま、こうして俺を選んでくれたから良しとするけどさ。……今までさんざん焦らされた分は帳尻(ちょうじり)合わせてもらわないとな」


 香云が、美恋の口元から取ったクリームを舐めたのが指の間から見える。

 それがまた恥ずかしさを煽り、ついに机に突っ伏してしまうのだった。


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