無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~

 〇休憩(きゅうけい)後、水族館デートを楽しむ二人

 手を繋いでクラゲのエリアに差し掛かると、テンションが上がる美恋。


 美恋「わあ……! すごいすごい! プラネタリウムみたいだよ!」
 香云「本当だな。きれいだ」


 ふわふわと宙を舞うかのように展示されているクラゲたち。
 美恋はそれに誘われるように香云の手を離した。


 美恋「あっちにフォトスポットがあるみたい! いってみようよ!」
 香云「あ、おい!」


 前を見ずに走り出したので、他の客にぶつかりそうになる美恋。


 美恋「わ!」


 すんでのところで、後ろから香云の腕に抱きとめられ、ぶつからずにすむ。
 香云の腕はお腹に回り、力強く引き寄せられて密着している。


 香云「……たく、お前は」
 美恋「ご、ごめん」


 慌てて謝る美恋だったが、頭の中は背中に感じる香云の体温のことでいっぱいに。


 美恋(付き合いだしてから手はつないだことあったけど、こんなに密着(みっちゃく)したのは……!)


 周りはうるさいはずなのに、自分の心臓の音しか聞こえない。


 美恋(香云、ちゃんと男の子の腕してる……)


 お腹に回された腕が、記憶の中のものよりはるかにがっしりとしていて、変に意識してしまって赤くなる。


 美恋「あ、あの香云? そろそろ離してほしいなあ~なんて」

 美恋(じゃないと心臓がそろそろ限界なので!)


 香云「……ふ」


 変に意識していることを悟られないようにいつも通りの声を出したつもりだったが、後ろから香云の笑い声が聞こえてきた。


 香云「なんだよ。意識しちゃった?」
 美恋「!」

 香云「耳も首も、面白いくらい真っ赤だ。こっちから見えないけど、顔も赤くなってるんだろ?」


 少しのイジワルさを含んだ声が、耳に直接流れ込んでくる。
 美恋は思わずびくりと震えてしまう。


 美恋「ま、まって。そこで話されると」
 香云「ふーん? 耳、弱いんだ」

 美恋「っ! う、うぅ」
 香云「ならこのまま行くか? 危なっかしいし、捕まえてないとまたすぐにぶつかるかもしれないだろ」

 美恋「まってまって、本当に降参(こうさん)! これ以上はもう、ムリだからぁ!」
 香云「っ」


 白旗(しろはた)を上げるとすぐに解放されて、息を整える美恋。

 涙目で耳を押さえて、香云を睨む。香云は(こら)えるような表情に。


 美恋「もう! ここ外!」

 香云「……外じゃなかったらいいの?」
 美恋「なっ!? か、からかわないでよ!」


 ポコポコと香云を叩く。


 香云「ごめんって」


 降ってきた声はなんだか弱弱しくて、不思議に思い見上げる美恋。
 すると香云の顔は心なしか赤くなっていた。


 美恋「香云、顔……」

 香云「……みるなよ」


 口元を押さえてそっぽを向いた香云にキュンとする。


 美恋(か、かわいい!)


 みるなと言われたけれど美恋は覗き込む。


 香云「お前なぁ」


 照れ隠しに怒る香云が可愛くて笑ってしまう。


 (美恋のモノローグ)


 香云は私のことを大切に思ってくれている。

 その想いの大きさに驚いてしまうほどに。


 でもその想いに負けないくらい、たぶん私も香云のことが好きなのだ。


 だって、からかわれても香云の顔を見たらどうでもよくなってしまうから。


 なんて。

 香云も相当だけど、私も相当なのかもしれないな。


 (美恋のモノローグ終了)

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