無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~
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 美恋(この人、なにも変わってないんだ)


 悲しみと怒りでうつむいてしまう美恋。
 うつむく美恋を見て、木村はにんまりと笑った。


 木村「なにお前。せっかくの祭りなのに男にでも逃げられた? まあしょうがねーよ。もっと女磨きした方がいいって」


 覗き込むように近づいてきた木村は、美恋の頭に腕を伸ばす。


 木村「しょうがねーから俺らと回る? みてらんねーのよ。かわいそうな女」


 ?「かわいそうなのは、どっちだよ」
 木村「いってぇ!」



 美恋の頭に手が届くかというとき、香云の声が降ってきて、顔を上げる美恋。
 そこには木村の腕を掴んだ香云の姿があった。


 香云「悪い。遅くなった」
 美恋「……香云」


 美恋は泣きそうな顔で香云を見つめる。
 香云はそれを見ると、空いている手で美恋の頭を安心するように撫でた。


 香云「大丈夫だ。すぐ終わらせる」


 視線を木村に戻す香云の瞳は、底冷えするほどの怒気が秘められているのがありありと分かる。

 木村の腕を掴む手にも力が(こも)る。


 香云「お前さ、どの面下げてここにきた?」
 木村「あ?」

 香云「二度も美恋を傷つけやがって。許されると思うなよ」


 香云の怒気に怯む木村。
 けれどプライドの高い木村は、威勢(いせい)だけはいい。


 木村「別に本当のことを言っただけだろうが。なにも悪くねえよ!」
 香云「……知ってるか。人の容姿(ようし)を悪く言うやつはな、自分の容姿にコンプレックスを持っているからって言われてるんだよ」


 木村「は?」
 香云「つまり、自分に自信がねえやつってことだ。だから自分より優れた奴を(けな)して優位に立とうとする。お前はそんな底の浅いやつなんだよ」

 木村「っ!」


 侮蔑(ぶべつ)のこもった香云の視線に、木村は顔を赤くした(図星(ずぼし)だった)。


 木村「うるせえ! てめえに何が分かるってんだ!?」


 激高(げきこう)した木村は、香云を黙らせようと殴りにかかってきた。


 けれどすぐに香云に取り押さえられ、何が起ったのか分からないという表情で地面に膝をつく。



 香云「分かるわけねえだろうが」



 香云は静かに、けれど怒りの滲んだ声を発する。


 香云「こいつを泣かせたやつのことなんて、分かりたくもない」


 香云は過去に泣いている美恋を見てきた。
 だから許せないという思いが強い。


 木村の腕を掴む力が増していく。


 木村「い、いってえええええ!」


 メキメキと骨がきしむ音が聞こえ、木村は情けない悲鳴を上げる。


 そのとき、美恋が香云の腕に抱き着いた。


 美恋「……香云。もういいよ」
 香云「いいわけないだろ! こいつのせいで……!」


 美恋「いいの!」



 美恋「……そんな人を締め上げるより、早くこの人から離れたいの」
 香云「……わかった」


 抱き着いてくる美恋の腕が少し震えていることに気がついた香云、ため息をつきながら木村を離す。


 木村「くそ、なんなんだよ! 覚えてろ!」


 木村は離された瞬間、ギャルを放って逃げていった。

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