無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~
〇帰り道・夕方
日芽花の後押しで、香云と一緒に帰ることになった美恋。
美恋(うう……どうしてこんなことに)
今までも香云と過ごすことなどたくさんあったはずなのに、どうにも落ち着かない。
そわそわしてしまい、隣の香云を見上げるも、香云はいつも通りの眠たげな顔だった。
美恋(やっぱり、緊張しているのは私だけみたい)
美恋(冗談……だったのかな)
心の中でモヤモヤと考えていると、急に腕を引かれ引き寄せられる。
美恋「え!?」
驚いている美恋のそばを自転車が通り過ぎた。
美恋(あ、ああ。自転車がきてたんだ)
美恋「あ、ありがとう」
香云「ん」
そっけない返事をした香云は、そのまま車道側を歩き出す。
バクバクとうるさい心臓を感じつつ、美恋も後を追った。
香云「……お前さ、今日、なんか変だぞ。なんかあったか?」
しばらくすると香云が伺うように美恋を見る。
美恋(変て……)
美恋「香云のせいじゃん!?」
思わずツッコんでしまう美恋。
香云は一瞬だけ驚いた顔をしたが、次第にニヤニヤとしていった。
香云「ふーん? 俺のせいなんだ」
美恋「うっ」
香云「自転車にも気がつかないくらい、俺のことを考えてくれてたんだ?」
美恋「う、うう」
図星を突かれて赤くなる美恋。
うっかり口を滑らせてしまったが「ずっとあなたのことを考えていた」と言ったも同然で、恥ずかしくてそっぽをむく。
香云「いいじゃん。もっと俺のこと考えてよ」
美恋「もう! 冗談なら止めてよね!」
香云「は?」
美恋「いくら幼なじみといってもその一線はこえちゃいけないで……しょ」
言葉の途中で香云の手が美恋の顔を上げさせ、強引に自分の方を向ける。(美恋の首からごきっと音がした)
美恋「首痛いんですけど!?」
香云「これが冗談言っているように見える?」
美恋「え……」
上から覗き込んでくる香云は、真剣な顔をしていた。
その目を見た途端、顔が熱くなる。
香云「俺はさ、そういう冗談なんて言わない。そんなの、美恋だって分かってるだろ」
美恋「あ、えと……」
至近距離で見つめられて、言葉がでなくなる美恋。
香云の目からは、冗談にはさせないという強い意志が見て取れた。
香云「それとも、冗談にしたいくらいイヤだったか?」
美恋「そ、ういうわけじゃ。だ、だって香云、今までそんな素振り見せなかったから……」
バツが悪くなった美恋は視線を反らした。
香云はため息をついて美恋を離す。
香云「今までだって好意は見せてたよ。お前は気がつかないっつーか、自分が好かれているだなんて微塵も考えていなかったみたいだけど」
美恋「それは……だって」
香云「まだ昔のこと気にしてんの?」
美恋「う……」
図星を突かれた美恋、黙り込む。
香云はそんな美恋の顔を上げさせた。
香云「そんな男の言葉を信じるより、俺の言葉を信じろ。恋人がほしいなら、俺を選べ」
いつもと違い、グイグイと詰めてくる香云に困惑する。
美恋「な、なんでそんな急にやる気だすのよ」
香云「好きな相手が『恋したい』なんて言ってたんだから、やる気ないとか言ってられないだろ。俺はお前のことならやる気になれる。それだけだ」
美恋「う、うそ」
香云「嘘じゃない。なんなら試してみるか?」
美恋「試すって……」
香云「俺の思いが本物だって分かってもらえるまで、言葉を尽くすけど?」
美恋「っ」
その言葉が、視線が、確かに熱を帯びている。
それに気がつくといたたまれない気分になり、再び顔が熱くなった。
美恋(……本気、なんだ)
香云「まあ、返事は急いでねえからさ。じっくり考えてくれ。それじゃ、俺こっちだから」
美恋「え? あ、う、うん」
気がつくともう神社の石段の前についていた。
香云「考えては欲しいけど、ぼうっとし過ぎて階段から落ちねえようにな。それに、最近不審者情報が出てたから、考えるなら家の中でにしろよ」
香云は軽く手を上げて歩いていった。美恋は石段を登りつつ考える。
香云は冗談でも、からかっているわけでもない。
本当に美恋のことを好きと言っていたと思い知らされた。
美恋(それなら、私は?)
美恋(私にとって、香云は……)
美恋「……わかんないや」
恋愛にあこがれながらも発展することのなかった美恋では、自分の気持ちがどうなのか分からない。
美恋「……確かめないと」
美恋は決意した顔をする。