無気力な幼なじみは、私にだけアツくなる~縁結び神社のみこちゃんが恋を知るまで~
〇神社・日中
本番前の準備で皆バタバタとしている。
美恋は舞姫姿(白衣と千早、緋袴、頭飾りを身に付けている)で舞台袖に待機している。
そこに香云がやってきた。
香云「よう。準備はできているみたいだな」
美恋「おはよう香云。外はもう結構人いる?」
香云「まあそれなりにな」
この神事は一般の人たちが見学できるもので、既に境内にはたくさんの人が集まっていた。
香云と普通に話ができていることに安堵する美恋だったが、それでも緊張の面持ちが抜けない。
香云「緊張してるのか?」
美恋「そりゃあね。こればっかりは何度やっても慣れないよ」
固い表情の美恋。少しだけ手が震えていた。
香云はそれに気がつくと、美恋の肩をかるく叩く。
香云「いつも通りやれば大丈夫だ。お前が頑張ってきたのは俺が誰よりもよく知ってるんだから」
ニカッと笑う香云に、つられて笑みを零す美恋。
緊張が和らぎ、自然な笑みに。
美恋「ふふ、なあに? それ」
香云「当然だろ。ずっと見てきたんだから」
美恋「あはは。まあでも、香云がそう言ってくれるのなら大丈夫かな」
香云「おう。自信持て」
美恋「ふふ、うん。行ってきます」
出番を告げるナレーションと、楽器の音が聞こえてくる。
美恋は小さく深呼吸をして舞台へと上がっていく。
舞台に上がると、見物客の中に日芽花とその彼氏・暁彦の姿を見つけた。
嬉しく思いつつ、息を軽く吐き出して集中する。
楽器の音がはじまると、美恋はすっと目を閉じる。
次に目を開けたときには、凛とした巫女の顔つきになっていた。
◇神楽舞の描写(五色の布がひらひらと宙を舞う。澄んだ鈴の音が空気を包むように広がっていく)
音に合わせて舞う美恋は、人目を奪うのに十分。
それを舞台袖から眺めている香云。
その視線は愛おしいものを見る目そのもの。
香云は舞が終わり歓声が上がるまで、ずっと美恋だけを見つめていた。