不遣の雨
出会い
ブーブーブーブー
ベッドサイドの横に置かれた藤編みの
アンティーク調のチェストの上に置かれたスマホが起床だと呼びかけると、
まだ少し眠い頭をなんとか働かせて
アラームを止めた
トクン‥トクン‥トクン
規則正しい心臓の音を確認すると
開けっぱなしのカーテンから見える
空の色を眺める
‥‥‥‥なんて綺麗な空色なんだろう。
白群を混ぜたような淡い空色に向かい
手を伸ばした後、ゆっくり起き上がり
うーんと背伸びをした。
「うん‥‥‥今日も生きてる‥‥。」
当たり前だけど時間は止まってくれない
眠ってしまえば必ず朝はやってくる。
朝目覚めてからこうして空を見上げる
ようになって、どれくらいの月日が
経過したのだろう‥‥。
ベッドから起き上がると窓を開けて、
朝の空気を部屋に取り込んだ後、
部屋を取り囲む植物達にお水を与え
ポットにお湯を沸かした。
オーダーでブレンドしてもらっている
ハーブティーの良い香りを嗅ぎながら
ゆっくりと朝の時間を過ごし、
ラムレーズンと胡桃が練り込まれた
パンを一切れとヨーグルトを食べた。
温かくなったから、ようやく厚手の
服の入れ替えも終わり、暖かな春服が
楽しめる季節がやって来たね‥‥。
うーん‥‥今日はこっちでいいかな。
ベビーブルーカラーの胸元に白地の
刺繍が施されたシャツを身につけ、
グリカラーのロングプリーツスカートを
履いた。
靴はブラウンのローファーにしようかな
家に鍵を掛けてから、朝の通勤ラッシュ
の人混みに紛れて地下鉄を乗り継ぎ、
名古屋駅までやってくると、徒歩5分
の場所にあるオフィスがすぐに目に入る
全面ガラス張りの10階建てのビルに
朝日が反射して眩しいけど、窓際で
働く私は春の陽の温かさが好きだから、
それだけで嬉しくなってしまう
「おはようございます。」
『おはようございます。』
首からぶら下げたICカードの社員証を
機械にピッと反応させ、警備員さんに
挨拶をすると、エレベーターに乗り
5階まで上がった。
朝早く来ないと味わえない1人きりの
時間に、パソコンを立ち上げると、
家と同様、部内の植物達に順番に
水をあげるのだ。
えっ!?
嘘!?サボテンの花が咲いてる!!
先週の終わりには咲く気配も見せて
いなかったデスクのサボテンの天辺に、
白い小さな花が咲いていたので、
嬉しくなり窓辺の棚の上にそっと置いた