不遣の雨
主任を見送ると、植物を飾る間に
お湯を沸かし、早速いただいた
ハーブティーを飲んでみる事にした。


飲まないと感想が伝えられないのに、
なんだか飲むのが勿体ないな‥‥


大さじ一杯ほどを掬ってポットの
茶漉しに入れると、少しだけ冷ました
お湯を静かに注いでから蓋を閉め
蒸らす間、ガラスのティーポットを
眺めていた。


今日は、主任の知らない顔を沢山
見れた気がする。


仕事中は話す機会もないし、
とても厳しい方だから、明日からは
あんな顔は見れないと思う。


亡くなられた奥さんが生きていたら、
きっと名古屋の街で沢山一緒に
出掛けれただろうと思うと、やっぱり
観光名所などは行かなくて良かった。


大切にしていると言った時の主任の
顔が浮かび、私も主任のように
大切にしてくれる人と会えたら
どんなに幸せだろうと願ってしまうし、
主任にも今後素敵な人と出会える日が
来たら楽しんで欲しい。


「‥‥‥いいなぁ。」


心臓をギュッと押さえると、
ティーカップに丁寧に注ぎ、香りを
鼻から体に取り込んだ。


良い香り‥‥‥
カモミールジャーマンの香りに包まれ
ると、リラックスして体の力が
抜けていきホッとする。


もう次はないと思うし、なかなか
上司と出掛けることすら珍しい
ことなのだから、お礼だとしても
貴重な時間を過ごせて良かったと
思える休日だった。
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