まだ見ぬ春よ
第一話 春の訪れは突然に
【『努力は必ず報われる』『石の上にも三年』とかいう言葉があるけど、世の中には欲しくても手に入らないもの、頑張っても近づけない存在、そういうものがわりとある。きっと私にとってのそれは…『青春』だ】
〇1-A教室(朝)
HR前。窓の外は晴天で桜の花びらが舞っている。
友人達とだべったり、黙々と読書をしたり、寝ていたりと各々が自由に過ごしている。
【高校一年生、春。入学してまだ二週間しか経っていないというのに、クラスの構図は既に固まりつつある。青春を謳歌する者と、それ以外の者。そしてそのピラミッドの頂点にいるのが……】
真辺「蒼司!」
心春(彼、藤崎 蒼司)
一際目立つ陽キャ集団のメンバーが窓際に集まっており、中心には蒼司がいる。
周りの生徒(肩を組んで楽しそうに話しかける男子・頬を染めて話しかける女子)の対応からも彼が人気者でクラスの中心人物であることが分かる。
心春がその様子を教室の端の席からこっそり眺めていると、後ろから背中をつつかれる。
美和子「心春!」
心春「わっ!みわちゃん!」
加山 美和子:心春の友人。ロングの黒髪おさげにして、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女の子。
美和子「おはよ!何ぼーっとしてたの?」
心春「いやっ、何でもない!」
美和子「何かあるような言い方ね」
心春「ほ、ほんとに何でもないから!おはよう!」
美和子「ふーん?」
心春「ほんとだよ……!」
鐘が鳴り、教室の扉がガラリと開き担任(30代・男性)が教室に入って来る。
担任「ほらー、HR始めるぞー席つけー」
心春はほっとした表情で、前に向き直る。
担任は朝の挨拶や今日の予定確認をした後、入部届について言及する。
担任「それと仮入部期間も終わったことだし、入部届は明日締め切りだから忘れずに持って来いよー」
心春「部活…」
〇同・教室(昼休み)
教室でお弁当を食べながら話す美和子と心春。
美和子「心春は部活何にするか決めた?」
心春「うーん……まだちょっと迷ってる。みわちゃんは漫画部だよね?」
美和子「(得意げに)もちろん。もう既に部活の先輩とコラボカフェ行く約束もした」
心春「はや!」
美和子「まあねー。オタクは普段あんまり人と関わらない分、同士とはあっという間に打ち解けられるのよ」
その言葉を聞いた心春は机の中からスッと漫画を取り出す。
心春「私たちみたいに?」
美和子「(にやりと笑って)そう!」
× × ×
美和子と心春は少女漫画を一緒に読みながら、ワイワイと話している。
【みわちゃんとは名前順で席が前後だったこと、共通の趣味が漫画であったことからすぐに仲良くなった。この学校における、私の数少ない友達だ】
少女漫画のヒロインが体育祭で全力疾走して、ヒーローにバトンを渡すシーンについて熱弁する心春。
心春「でね!ここのシーンが最高なの!今まで感情を表に出さなかった主人公の本気さが伝わって来て、こっちまで胸熱っていうか……!」
美和子「分っかる~めっちゃ良いよね!……でもザ・青春って感じで私には眩しすぎるんだわ。なんか別世界って感じ」
心春「別世界…?」
心春は日の当たる場所で沢山の人に囲まれて笑う蒼司と、廊下側の日陰で座る自分を見比べる。
真辺「蒼司~サッカー部かバスケ部かどっちにする?」
小林「おいお前何勝手に決めてんだよ(笑)」
真辺「いや聞かなくたってこの二択っしょ?なぁ蒼司?」
蒼司「俺はどっちもパス」
真辺「はー?一緒にバスケやろーぜー!」
蒼司「昼休みに付き合ってやるって(笑)」
真辺:バスケ大好きな男子高校生。ノンデリ。背が小さい。
小林:硬派で落ち着いている。ノリが良い。高身長。
心春(もし青春が一つの世界なら、確かに私にとってそこは別世界なのかもしれない)
〇本屋(放課後)
本屋に立ち寄って大好きな月刊少女漫画誌を買いに来た心春。
心春(今日はついに『君色バスケットボール』の最新話掲載!そして巻頭カラー!先月からずっと展開が気になって夜しか眠れなかったけど、ついに…!!)
漫画のコーナーでお目当ての雑誌を見つけて目を輝かせる心春。
心春(もし私が少女漫画のヒロインなら、こういう時ヒーローと同じ本に手を伸ばして…)
心春が雑誌に向かって手を伸ばすと、男性と思わしき誰かの手と重なる。
心春「ひゃっ……!」
???「あ、すみません」
心春が慌てて手を引っ込めると、帽子を深く被った少年がやや驚いた顔で心春の方を見る。
心春(わ…綺麗な人……)
一瞬だけ交わった視線はすぐに外され、少年は雑誌を差し出してくる。
???「どぞ」
心春「!ありがとうございます!」
心春がそれを受け取ると、少年は自分用に一冊取り、レジへと向かっていく。
その後ろ姿を唖然とした表情で眺める心春。
心春(…び、びっくりした~!ていうか雰囲気イケメンすぎ!等身すご…!)
心春「人生、こんなこともあるんだ……」
〇小山内家・心春の自室(夕)
―帰宅後。
制服のまま布団にダイブし、漫画を読み始める心春。
『君色バスケットボール』の最新話を読んで悶えている。
漫画ではヒロインが部活動のバスケットボールを通して、ヒーローの男子と距離が縮まっていく様子が描かれている。
心春「私もこういう青春してみたいな……」
心春(でもそう意気込んでテニス部とか、バレー部とか色々体験入部してみたけど、結局運動音痴とコミュ障が遺憾なく発揮されてしまい上手くいかなかった……)
数々の失態を思い出し、枕に頭を埋めて悶える心春。
心春「うわ~!」
一頻り悶えて枕から顔を出し、うっすらと涙を浮かべる心春。
心春(昔からそうだった。運動もダメ、勉強もダメ、男子と話すのも苦手。でも少女漫画が好きで、信じていて。いつか自分にも自分を理解してくれる王子様が現れて、一度しかない最高の青春を送るんだと思っていた……でも、現実はそう甘くない)
心春「もういっそ帰宅部にでもなろうかな……」
ちらりとベッドの下を見ると、漫画雑誌の見開きでヒロインが「だって好きなんだもん!」と言っているページが視界の端に映る。
心春「……(何かを考えている様子)」
心春は通学バックから入部届を取り出し、じーっと見つめる。
〇学校の廊下(放課後)
―翌日。
入部届を握り締め、どこかへ向かってズンズンと歩いている心春。
心春(分かってる。漫画部に入ったって、出会えるのはオタク友達。少女漫画みたいな王道の青春を送りたければ、もっと華やかな部活に行くべきだってことくらい。でも……漫画好きなんだもん!それに運動苦手なんだもん……!無理なものは無理!好きなものは好きだ……!)
〇漫画部部室…狭いが日当たりは良い。ポスターや漫画、グッズなどが所狭しと並べられている
部室の前に着くと、息を吐き、ガラッと勢いよく部室の扉を開ける心春。
心春「失礼します!」
先に到着していた美和子が驚いた表情をした後、嬉しそうに顔をほころばせる。
美和子「心春、漫画部入部するの!?」
心春「うん!よろしく!」
心春と美和子が楽し気に喋っていると、後ろからドアが開く音がし、誰かが入って来る。
笑顔で振り向くものの、その姿を見てピシッ…と石のように固まる心春。
オタクの集い場である文化部の一室には見合わぬ容姿とオーラを纏うその人は……
蒼司「ここ漫画部の部室で合ってる?」
あの、クラスの人気者・藤崎蒼司だった。
美和子「そうよ。って、あら藤崎君。漫画部に入るの?」
蒼司「うん、よろしく。えーと、同クラの……」
美和子「加山美和子。でこっちは」
心春「おっ、小山内…心春……です(声が裏返る)」
蒼司「おっけ。覚えた」
机の上にバックを置いて心春の隣に座る蒼司。
蒼司「小山内、よろしく」
心春「よっ、よろしく」
心春(うそ、うそ……!)
新入生三人が席につくと、部長と副部長が入って来る。
部長:眼鏡をかけたオタク気質の先輩。姉御肌。明るくて豪快。高校三年生。推しについて語らせると止まらない。漫画は読む専。
副部長:気の優しい男の先輩。高校三年生。特撮が好きで、それをモチーフにした漫画を描いている。音ゲーガチ勢。
部長「あら!新入部員が三人も!」
美和子は部長と親し気に挨拶し、蒼司も副部長に話しかけている。
そんな中、1人現状を飲み込ずにテンパったまま顔を俯けている心春。
心春(人生、こんなことってある……!!?)
【かくして私は、知らず知らずのうちに、青春という別世界に一歩足を踏み入れたのだった】
〇1-A教室(朝)
HR前。窓の外は晴天で桜の花びらが舞っている。
友人達とだべったり、黙々と読書をしたり、寝ていたりと各々が自由に過ごしている。
【高校一年生、春。入学してまだ二週間しか経っていないというのに、クラスの構図は既に固まりつつある。青春を謳歌する者と、それ以外の者。そしてそのピラミッドの頂点にいるのが……】
真辺「蒼司!」
心春(彼、藤崎 蒼司)
一際目立つ陽キャ集団のメンバーが窓際に集まっており、中心には蒼司がいる。
周りの生徒(肩を組んで楽しそうに話しかける男子・頬を染めて話しかける女子)の対応からも彼が人気者でクラスの中心人物であることが分かる。
心春がその様子を教室の端の席からこっそり眺めていると、後ろから背中をつつかれる。
美和子「心春!」
心春「わっ!みわちゃん!」
加山 美和子:心春の友人。ロングの黒髪おさげにして、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女の子。
美和子「おはよ!何ぼーっとしてたの?」
心春「いやっ、何でもない!」
美和子「何かあるような言い方ね」
心春「ほ、ほんとに何でもないから!おはよう!」
美和子「ふーん?」
心春「ほんとだよ……!」
鐘が鳴り、教室の扉がガラリと開き担任(30代・男性)が教室に入って来る。
担任「ほらー、HR始めるぞー席つけー」
心春はほっとした表情で、前に向き直る。
担任は朝の挨拶や今日の予定確認をした後、入部届について言及する。
担任「それと仮入部期間も終わったことだし、入部届は明日締め切りだから忘れずに持って来いよー」
心春「部活…」
〇同・教室(昼休み)
教室でお弁当を食べながら話す美和子と心春。
美和子「心春は部活何にするか決めた?」
心春「うーん……まだちょっと迷ってる。みわちゃんは漫画部だよね?」
美和子「(得意げに)もちろん。もう既に部活の先輩とコラボカフェ行く約束もした」
心春「はや!」
美和子「まあねー。オタクは普段あんまり人と関わらない分、同士とはあっという間に打ち解けられるのよ」
その言葉を聞いた心春は机の中からスッと漫画を取り出す。
心春「私たちみたいに?」
美和子「(にやりと笑って)そう!」
× × ×
美和子と心春は少女漫画を一緒に読みながら、ワイワイと話している。
【みわちゃんとは名前順で席が前後だったこと、共通の趣味が漫画であったことからすぐに仲良くなった。この学校における、私の数少ない友達だ】
少女漫画のヒロインが体育祭で全力疾走して、ヒーローにバトンを渡すシーンについて熱弁する心春。
心春「でね!ここのシーンが最高なの!今まで感情を表に出さなかった主人公の本気さが伝わって来て、こっちまで胸熱っていうか……!」
美和子「分っかる~めっちゃ良いよね!……でもザ・青春って感じで私には眩しすぎるんだわ。なんか別世界って感じ」
心春「別世界…?」
心春は日の当たる場所で沢山の人に囲まれて笑う蒼司と、廊下側の日陰で座る自分を見比べる。
真辺「蒼司~サッカー部かバスケ部かどっちにする?」
小林「おいお前何勝手に決めてんだよ(笑)」
真辺「いや聞かなくたってこの二択っしょ?なぁ蒼司?」
蒼司「俺はどっちもパス」
真辺「はー?一緒にバスケやろーぜー!」
蒼司「昼休みに付き合ってやるって(笑)」
真辺:バスケ大好きな男子高校生。ノンデリ。背が小さい。
小林:硬派で落ち着いている。ノリが良い。高身長。
心春(もし青春が一つの世界なら、確かに私にとってそこは別世界なのかもしれない)
〇本屋(放課後)
本屋に立ち寄って大好きな月刊少女漫画誌を買いに来た心春。
心春(今日はついに『君色バスケットボール』の最新話掲載!そして巻頭カラー!先月からずっと展開が気になって夜しか眠れなかったけど、ついに…!!)
漫画のコーナーでお目当ての雑誌を見つけて目を輝かせる心春。
心春(もし私が少女漫画のヒロインなら、こういう時ヒーローと同じ本に手を伸ばして…)
心春が雑誌に向かって手を伸ばすと、男性と思わしき誰かの手と重なる。
心春「ひゃっ……!」
???「あ、すみません」
心春が慌てて手を引っ込めると、帽子を深く被った少年がやや驚いた顔で心春の方を見る。
心春(わ…綺麗な人……)
一瞬だけ交わった視線はすぐに外され、少年は雑誌を差し出してくる。
???「どぞ」
心春「!ありがとうございます!」
心春がそれを受け取ると、少年は自分用に一冊取り、レジへと向かっていく。
その後ろ姿を唖然とした表情で眺める心春。
心春(…び、びっくりした~!ていうか雰囲気イケメンすぎ!等身すご…!)
心春「人生、こんなこともあるんだ……」
〇小山内家・心春の自室(夕)
―帰宅後。
制服のまま布団にダイブし、漫画を読み始める心春。
『君色バスケットボール』の最新話を読んで悶えている。
漫画ではヒロインが部活動のバスケットボールを通して、ヒーローの男子と距離が縮まっていく様子が描かれている。
心春「私もこういう青春してみたいな……」
心春(でもそう意気込んでテニス部とか、バレー部とか色々体験入部してみたけど、結局運動音痴とコミュ障が遺憾なく発揮されてしまい上手くいかなかった……)
数々の失態を思い出し、枕に頭を埋めて悶える心春。
心春「うわ~!」
一頻り悶えて枕から顔を出し、うっすらと涙を浮かべる心春。
心春(昔からそうだった。運動もダメ、勉強もダメ、男子と話すのも苦手。でも少女漫画が好きで、信じていて。いつか自分にも自分を理解してくれる王子様が現れて、一度しかない最高の青春を送るんだと思っていた……でも、現実はそう甘くない)
心春「もういっそ帰宅部にでもなろうかな……」
ちらりとベッドの下を見ると、漫画雑誌の見開きでヒロインが「だって好きなんだもん!」と言っているページが視界の端に映る。
心春「……(何かを考えている様子)」
心春は通学バックから入部届を取り出し、じーっと見つめる。
〇学校の廊下(放課後)
―翌日。
入部届を握り締め、どこかへ向かってズンズンと歩いている心春。
心春(分かってる。漫画部に入ったって、出会えるのはオタク友達。少女漫画みたいな王道の青春を送りたければ、もっと華やかな部活に行くべきだってことくらい。でも……漫画好きなんだもん!それに運動苦手なんだもん……!無理なものは無理!好きなものは好きだ……!)
〇漫画部部室…狭いが日当たりは良い。ポスターや漫画、グッズなどが所狭しと並べられている
部室の前に着くと、息を吐き、ガラッと勢いよく部室の扉を開ける心春。
心春「失礼します!」
先に到着していた美和子が驚いた表情をした後、嬉しそうに顔をほころばせる。
美和子「心春、漫画部入部するの!?」
心春「うん!よろしく!」
心春と美和子が楽し気に喋っていると、後ろからドアが開く音がし、誰かが入って来る。
笑顔で振り向くものの、その姿を見てピシッ…と石のように固まる心春。
オタクの集い場である文化部の一室には見合わぬ容姿とオーラを纏うその人は……
蒼司「ここ漫画部の部室で合ってる?」
あの、クラスの人気者・藤崎蒼司だった。
美和子「そうよ。って、あら藤崎君。漫画部に入るの?」
蒼司「うん、よろしく。えーと、同クラの……」
美和子「加山美和子。でこっちは」
心春「おっ、小山内…心春……です(声が裏返る)」
蒼司「おっけ。覚えた」
机の上にバックを置いて心春の隣に座る蒼司。
蒼司「小山内、よろしく」
心春「よっ、よろしく」
心春(うそ、うそ……!)
新入生三人が席につくと、部長と副部長が入って来る。
部長:眼鏡をかけたオタク気質の先輩。姉御肌。明るくて豪快。高校三年生。推しについて語らせると止まらない。漫画は読む専。
副部長:気の優しい男の先輩。高校三年生。特撮が好きで、それをモチーフにした漫画を描いている。音ゲーガチ勢。
部長「あら!新入部員が三人も!」
美和子は部長と親し気に挨拶し、蒼司も副部長に話しかけている。
そんな中、1人現状を飲み込ずにテンパったまま顔を俯けている心春。
心春(人生、こんなことってある……!!?)
【かくして私は、知らず知らずのうちに、青春という別世界に一歩足を踏み入れたのだった】
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