まだ見ぬ春よ
第二話 非現実的な現実
〇漫画部部室
部長「新入部員のみなさん!ようこそ崖っぷち漫画部へ!」
副部長「去年は新入生が1人も来なかったから、君たちが来なければ廃部になるところだったんだよ~」
部長「来てくれて本っ当にありがとう!」
部長と副部長が喜んでいる中、気が動転している心春。
心春(一体何が起きてるの?あの青春代表ですみたいなオーラを纏った藤崎君が……漫画部??)
部長「じゃあ早速だけど、自己紹介していこっか!名前と~あと好きな漫画とか、どんな漫画を描きたいかとか、漫画に関することなら何でも!あ、好きなカップリングや性癖を発表していただいても良いですよ!ふふふ!」
心春「!?」
部長の攻めた発言に衝撃を受ける心春。
心春(初回からエンジン全開だ…!藤崎君引かないかな……!?こ、ここは私が先に自己紹介して流れを変えないと…!)
心春「あのっ!」
部長「ではそこの男の子からそうぞ!」
心春(あー!!)
頭を抱えて心配する心春をよそに、蒼司はスッと立ち上がる。
蒼司「初めまして、藤崎蒼司です。友人の体験入部に付き合ってたんで部室に来るのは初めてなんですけど、漫画描きたかったので入学する前からここに入ることは決めてました。漫画はジャンル問わず何でも読むんですけど、特に少女漫画が好きで、最近は『君色バスケットボール』っていう漫画にハマってます」
心春(え!好きな漫画同じ!ていうか少女漫画とか読むんだ!……意外)
蒼司「推し…生涯を共にすることを誓った嫁は『天使な四姉妹』の名森 萌奈ちゃんです」
心春(…ん?)
蒼司「好きなカップリングは○○×△△です。俺はこの二人の(ピー音)の同人誌を読んで(ピー音)に目覚めました」
心春(…………??)
蒼司「将来は少女漫画家になりたいので、高校でも沢山漫画描きます。よろしくお願いします」
蒼司は一礼すると、席に戻る。
一瞬の静寂の後(皆ポカンとしている)、拍手喝采。
部長「おー!萌奈ちゃん推しとは分かってるねぇ!漫画歴も長そうだし、期待の新人君だ!」
数々の情報の矢印が心春の頭にぶっ刺さってくる。
心春(……驚きを通り越して、情報量の多さでパンクしそう……)
部長「では次、小山内さん!」
心春はぷすぷすと音を立てて頭から煙を出し、壊れたロボットのように動かない。
部長「小山内さーん?」
美和子が心春の肩をポンポンと叩く。
美和子「こーはるっ」
心春「え?…あっ、はい!」
弾かれたように立ち上がる心春。
心春「小山内心春です!えっと、漫画は読む専なんですけど、ちょっとだけ四コマ漫画描いたことあります!好きな漫画は…藤崎くん…と同じで『君色バスケットボール』です。よろしくお願いします!」
心春が勢いよく頭を下げると拍手が起こる。
部長「よろしくー!私も漫画は読む専だし、気にしなくて良いよ!好きなように楽しもー!」
心春「あはは、そう言っていただけるとありがたいです…」
蒼司「……」
頭を掻き、やや照れながら着席する心春を、蒼司が意味ありげに見つめている。
その後、美和子と部長、副部長が順に自己紹介をしていく。
× × ×
自己紹介が終わると、部長の提案でLINE交換の流れに。
部長「グループ作りたいからみんなLINE教えてくれる?」
蒼司のアカウントをフレンド追加する心春。
承認する際にアイコンを見ると、友人と海に行った時に撮られたであろう写真が使われている。
心春「アイコンまで青春を体現しているとは……」
蒼司「何か言った?」
心春「あ、いや!何でもない!勝手にじろじろと見てすみませんでした!」
蒼司「?」
一通りの挨拶や交換が終わると、部長が締めの挨拶をする。
部長「さてと!初回の活動はこれにて終わりになります!(手を叩いて)じゃあみんな、これからよろしくね!」
一同「はいっ!」
〇通学路(夕)
一緒に帰る新入部員三人組(心春・蒼司・美和子)。
× × ×
(回想)
部長「私たちはまだやることあるから先帰ってて良いよー」
副部長「じゃあまた明日~」
× × ×
美和子「にしても新入部員三人って少ないわねー」
心春「あはは」
蒼司「昨年度0ならまだましだろ」
美和子「部活存続のためにも、絶対に退部者を出さないようにしないとだわ」
心春「私達のオアシスだもんね!」
蒼司「別にガチな部活じゃねーし、他のことやりたいなら兼部すれば良いいじゃん」
美和子「それもそうね」
心春「案外、人数少ない方が楽かもだし!」
蒼司「俺はもう少しいてくれても良いけど」
美和子「出たわね、陽キャ」
蒼司「別に陽キャじゃねーよ」
美和子「ダウト」
心春「あははは!」
蒼司「漫画語れる奴は多ければ多いほどいいだろ!」
三人の雰囲気は良く、そのままワイワイと喋りながら歩いていく。
〇駅前
駅前に到着すると、立ち止まる三人。
美和子「私は地下鉄だけど、二人はどうやって帰るの?」
蒼司「(J/Rを指さして)俺はこっち」
心春「あ、一緒だ」
美和子「じゃあ、ここでお別れね」
蒼司「お疲れ様」
心春「みわちゃん、また明日!」
美和子と別れる蒼司と心春。
〇電車内
つり革を掴み、肩を並べて立っている心春と蒼司。
心春(藤崎君と二人きり…ちょっと…いや、かなり気まずい……!ど、どうしよ、今日の自己紹介すごかったですね!とか話振る?いやいやいや!いきなりそんなこと言うとか、関係値低いのに失礼すぎでしょ…!みわちゃん助けて…!!)
緊張でキリキリと痛む胃を抑えている心春に、蒼司が突然話しかけてくる。
蒼司「あのさ」
心春「はいっ!」
蒼司「もしかしなくても、緊張してる?」
心春「え…」
動揺で言葉が詰まり、目を泳がす心春。
心春「……その、うん……ごめん、藤崎君が嫌とかじゃなくて、男子と二人になること自体あんまり慣れてなくて……」
蒼司「そう。別に気にしなくて良いよ。俺も女子と話すのそんなに得意じゃないし」
心春「うそ!?私てっきり藤崎君そういうのは百戦錬磨(?)だと……」
蒼司「現実の女子に上手く馴染める奴に、二次元の嫁とかいると思う?」
心春「た、確かに…?」
蒼司「わー失礼だなぁー(笑)」
心春「藤崎君が言ったんだよね!?」
少しの沈黙の後、顔を見合わせて笑い合う二人。
心春・蒼司「「あはははっ」」
その後、やや打ち解けた雰囲気で話をする。
しばらくして、車内に「次は~○○駅~」というアナウンスが流される。
蒼司「俺、次の駅で降りる」
心春「そっか…!お疲れ様!」
明るく振舞うも、まだ無理をして喋っているような心春の様子を見て、蒼司は口を開く。
蒼司「『君バス』…同じ漫画好きって言ってたじゃん。今度機会あったら語ろ」
心春は驚いた表情を浮かべた後、笑顔になる。
心春「うん!」
その表情を見た蒼司は唇の端を小さく上げる。
蒼司「それじゃ」
蒼司は手をひらひらと振って降車していく。
心春「また明日!」
頬を染め、手を振り返す心春の眼には、少しのキラキラが宿っていた。
〇小山内家・玄関(夜)
玄関の扉を閉め、もたれかかると「ふー」と息を吐く心春。
先程の会話を反芻しながら、笑みを浮かべていると、先に帰宅していた姉・千春が通りかかる。
小山内 千春:心春の四つ上の姉。友人が多く、恋愛経験も豊富。青春を謳歌している。
漫画には疎く、心春とは真逆の性格。でも仲はそこそこ良い。
姉「何にやついてんの?」
心春「に、にやついてないわ!」
〇学校・下駄箱(朝)
―翌日。
心春が上履きに履き替えていると、友人(複数名の男女)と登校していた蒼司が声をかけてくる。
蒼司「おはよ」
心春「…!おはよう!」
それだけ言うと、友人達と共に教室に向かう蒼司。
何やら驚いている蒼司の友人たち。
真辺「蒼司、小山内さんと仲良いの?」
蒼司「部活同じだから」
真辺「あー漫画部だっけ?お前まじバスケ部来いって!」
蒼司「行かないって言っただろ」
真辺「なんでだよー!」
女子A「蒼司ってばほんとつれないんだから~!」
その後ろ姿を見つめながら、温かくなる胸を抑える心春。
心春(多分、藤崎君にとっては何気ないこと。でも、それが嬉しい…)
突如スマホがポロンと鳴り、心春が画面を見ると美和子からメッセージが来ている。
美和子からのメッセージ『インフルかかったからしばらく学校休むことになったわ』
心春「え!」
急いで返信する心春。
心春のメッセージ『わー大変だ!お大事にね。授業の内容送るから、安心してね!』
美和子からのメッセージ『神(泣)』
心春「そっか…みわちゃん休みかぁ…」
〇1~6限までの授業風景がダイジェストで描かれる
理科(実験で水を床にこぼしてしまう心春)→数学(難問に頭を悩ませている心春)→体育(ボールに頭をぶつける心春)→国語(体育終わり、疲れて寝ている心春)→英語(隣の男子と英語を使って必死に会話する心春)→社会(必死にノートを取る心春)
〇学校の廊下(放課後)
ヘロヘロになりながら部室に向かう心春。
心春「つ…疲れた……」
心春(五教科全部あるとか…水曜日やばい…ていうかみわちゃんもいなくてぼっちだし…辛い……)
〇漫画部部室
心春「失礼しまー…」
ガラリと音を立てて扉を開けると、先に着いて漫画を読んでいた蒼司が膝を組んで伏し目がちに漫画を読んでいる。
膝を組んで優雅に座るその姿は非常に美しい。
眩しそうに目を細める心春に気づいた蒼司が顔を上げる。
蒼司「あ、小山内……って何そんなにへばってんの?」
心春「逆に藤崎君は何でそんな眩しいの…」
蒼司「はぁ?」
× × ×
二人がちょうど席についたあたりで副部長がやって来る。
副部長「今日部長も休んでてさー風邪流行ってるみたいだから気を付けてねー。僕は今日音ゲーのイベント走るからできるだけ話しかけないでくれると助かるよー」
心春「はい!」
蒼司「うっす」
× × ×
副部長はイヤホンをし、ガチな目でスマホを連打している。
向かい合って椅子に腰かけている心春と蒼司。
心春「ってことで今日は二人だね」
蒼司「なー。何する?」
心春「うーん……」
突如心春のスマホが鳴る。
発信者名に『みわちゃん』と表示されている。
心春「え!みわちゃん!?」
急いでビデオ通話を繋げる心春。
冷えピタを貼ったオフの美和子が映る。
美和子「やっほー」
心春「みわちゃん!大丈夫?」
美和子「まぁね。インフルっていっても熱とだるさ以外は特に症状ないし」
蒼司「あんま調子乗んなよ」
美和子「言われなくても分かってるわよ。…っていうか心春聞いてよ。私こんなんだから部長と約束してたコラボカフェ行けなくなっちゃたの!しかも部長も風邪っぽいし…絶対どっちかがどっちかに移しちゃったのよ…」
画面越しに頭を抱える美和子。
心春「カフェって…この前言ってたやつ?」
美和子「そう!これ!」
美和子がコラボカフェのチラシを映すと、蒼司が前のめりになって画面を見る。
蒼司「は!?これ『てんしま(※天使な四姉妹)』のコラボカフェ整理券じゃん!俺が一時間前から待機してたのに取れなかったやつ…!」
心春「え、そんなに人気なやつなの!?」
美和子「ええ。まぁ待機時間は関係なくて、サーバーに一早く繋げることができた勝者だけが手に入れられるやつなんだけど」
ゴゴゴゴゴ…という音が聞こえてきそうなほどの圧で画面の向こうの美和子に問いかける蒼司。
蒼司「加山それ無駄にするつもりか?」
美和子「それが嫌だから電話したの。この整理券譲渡できるやつだから……ねぇ心春、これ譲るから誰かと行ってくれない?」
蒼司が心春の方にぐいっと身を乗り出す。
蒼司「そんなの俺と行くしかないだろ」
心春「えぇ!?」
美和子「心春が決めて良いのよ」
蒼司「分かってるよな、小山内?」
心春(え?え?ここで頷いたら私藤崎君と出かけるってことだよね…?え、待って急展開すぎて脳が追い付いてない。え???)
小動物のように震えて混乱していた心春だが、とうとう蒼司の圧に負ける。
心春「(ロボットのようにカクカクと頷いて)ワ、ワカッタ。フジサキクントイク」
美和子「おっけー!じゃあ後で電子整理券送っておくから。感想聞かせてね!」
蒼司「まじでありがと」
美和子と心春を拝む蒼司と、放心状態の心春。
心春(何でこうなった……?)
部長「新入部員のみなさん!ようこそ崖っぷち漫画部へ!」
副部長「去年は新入生が1人も来なかったから、君たちが来なければ廃部になるところだったんだよ~」
部長「来てくれて本っ当にありがとう!」
部長と副部長が喜んでいる中、気が動転している心春。
心春(一体何が起きてるの?あの青春代表ですみたいなオーラを纏った藤崎君が……漫画部??)
部長「じゃあ早速だけど、自己紹介していこっか!名前と~あと好きな漫画とか、どんな漫画を描きたいかとか、漫画に関することなら何でも!あ、好きなカップリングや性癖を発表していただいても良いですよ!ふふふ!」
心春「!?」
部長の攻めた発言に衝撃を受ける心春。
心春(初回からエンジン全開だ…!藤崎君引かないかな……!?こ、ここは私が先に自己紹介して流れを変えないと…!)
心春「あのっ!」
部長「ではそこの男の子からそうぞ!」
心春(あー!!)
頭を抱えて心配する心春をよそに、蒼司はスッと立ち上がる。
蒼司「初めまして、藤崎蒼司です。友人の体験入部に付き合ってたんで部室に来るのは初めてなんですけど、漫画描きたかったので入学する前からここに入ることは決めてました。漫画はジャンル問わず何でも読むんですけど、特に少女漫画が好きで、最近は『君色バスケットボール』っていう漫画にハマってます」
心春(え!好きな漫画同じ!ていうか少女漫画とか読むんだ!……意外)
蒼司「推し…生涯を共にすることを誓った嫁は『天使な四姉妹』の名森 萌奈ちゃんです」
心春(…ん?)
蒼司「好きなカップリングは○○×△△です。俺はこの二人の(ピー音)の同人誌を読んで(ピー音)に目覚めました」
心春(…………??)
蒼司「将来は少女漫画家になりたいので、高校でも沢山漫画描きます。よろしくお願いします」
蒼司は一礼すると、席に戻る。
一瞬の静寂の後(皆ポカンとしている)、拍手喝采。
部長「おー!萌奈ちゃん推しとは分かってるねぇ!漫画歴も長そうだし、期待の新人君だ!」
数々の情報の矢印が心春の頭にぶっ刺さってくる。
心春(……驚きを通り越して、情報量の多さでパンクしそう……)
部長「では次、小山内さん!」
心春はぷすぷすと音を立てて頭から煙を出し、壊れたロボットのように動かない。
部長「小山内さーん?」
美和子が心春の肩をポンポンと叩く。
美和子「こーはるっ」
心春「え?…あっ、はい!」
弾かれたように立ち上がる心春。
心春「小山内心春です!えっと、漫画は読む専なんですけど、ちょっとだけ四コマ漫画描いたことあります!好きな漫画は…藤崎くん…と同じで『君色バスケットボール』です。よろしくお願いします!」
心春が勢いよく頭を下げると拍手が起こる。
部長「よろしくー!私も漫画は読む専だし、気にしなくて良いよ!好きなように楽しもー!」
心春「あはは、そう言っていただけるとありがたいです…」
蒼司「……」
頭を掻き、やや照れながら着席する心春を、蒼司が意味ありげに見つめている。
その後、美和子と部長、副部長が順に自己紹介をしていく。
× × ×
自己紹介が終わると、部長の提案でLINE交換の流れに。
部長「グループ作りたいからみんなLINE教えてくれる?」
蒼司のアカウントをフレンド追加する心春。
承認する際にアイコンを見ると、友人と海に行った時に撮られたであろう写真が使われている。
心春「アイコンまで青春を体現しているとは……」
蒼司「何か言った?」
心春「あ、いや!何でもない!勝手にじろじろと見てすみませんでした!」
蒼司「?」
一通りの挨拶や交換が終わると、部長が締めの挨拶をする。
部長「さてと!初回の活動はこれにて終わりになります!(手を叩いて)じゃあみんな、これからよろしくね!」
一同「はいっ!」
〇通学路(夕)
一緒に帰る新入部員三人組(心春・蒼司・美和子)。
× × ×
(回想)
部長「私たちはまだやることあるから先帰ってて良いよー」
副部長「じゃあまた明日~」
× × ×
美和子「にしても新入部員三人って少ないわねー」
心春「あはは」
蒼司「昨年度0ならまだましだろ」
美和子「部活存続のためにも、絶対に退部者を出さないようにしないとだわ」
心春「私達のオアシスだもんね!」
蒼司「別にガチな部活じゃねーし、他のことやりたいなら兼部すれば良いいじゃん」
美和子「それもそうね」
心春「案外、人数少ない方が楽かもだし!」
蒼司「俺はもう少しいてくれても良いけど」
美和子「出たわね、陽キャ」
蒼司「別に陽キャじゃねーよ」
美和子「ダウト」
心春「あははは!」
蒼司「漫画語れる奴は多ければ多いほどいいだろ!」
三人の雰囲気は良く、そのままワイワイと喋りながら歩いていく。
〇駅前
駅前に到着すると、立ち止まる三人。
美和子「私は地下鉄だけど、二人はどうやって帰るの?」
蒼司「(J/Rを指さして)俺はこっち」
心春「あ、一緒だ」
美和子「じゃあ、ここでお別れね」
蒼司「お疲れ様」
心春「みわちゃん、また明日!」
美和子と別れる蒼司と心春。
〇電車内
つり革を掴み、肩を並べて立っている心春と蒼司。
心春(藤崎君と二人きり…ちょっと…いや、かなり気まずい……!ど、どうしよ、今日の自己紹介すごかったですね!とか話振る?いやいやいや!いきなりそんなこと言うとか、関係値低いのに失礼すぎでしょ…!みわちゃん助けて…!!)
緊張でキリキリと痛む胃を抑えている心春に、蒼司が突然話しかけてくる。
蒼司「あのさ」
心春「はいっ!」
蒼司「もしかしなくても、緊張してる?」
心春「え…」
動揺で言葉が詰まり、目を泳がす心春。
心春「……その、うん……ごめん、藤崎君が嫌とかじゃなくて、男子と二人になること自体あんまり慣れてなくて……」
蒼司「そう。別に気にしなくて良いよ。俺も女子と話すのそんなに得意じゃないし」
心春「うそ!?私てっきり藤崎君そういうのは百戦錬磨(?)だと……」
蒼司「現実の女子に上手く馴染める奴に、二次元の嫁とかいると思う?」
心春「た、確かに…?」
蒼司「わー失礼だなぁー(笑)」
心春「藤崎君が言ったんだよね!?」
少しの沈黙の後、顔を見合わせて笑い合う二人。
心春・蒼司「「あはははっ」」
その後、やや打ち解けた雰囲気で話をする。
しばらくして、車内に「次は~○○駅~」というアナウンスが流される。
蒼司「俺、次の駅で降りる」
心春「そっか…!お疲れ様!」
明るく振舞うも、まだ無理をして喋っているような心春の様子を見て、蒼司は口を開く。
蒼司「『君バス』…同じ漫画好きって言ってたじゃん。今度機会あったら語ろ」
心春は驚いた表情を浮かべた後、笑顔になる。
心春「うん!」
その表情を見た蒼司は唇の端を小さく上げる。
蒼司「それじゃ」
蒼司は手をひらひらと振って降車していく。
心春「また明日!」
頬を染め、手を振り返す心春の眼には、少しのキラキラが宿っていた。
〇小山内家・玄関(夜)
玄関の扉を閉め、もたれかかると「ふー」と息を吐く心春。
先程の会話を反芻しながら、笑みを浮かべていると、先に帰宅していた姉・千春が通りかかる。
小山内 千春:心春の四つ上の姉。友人が多く、恋愛経験も豊富。青春を謳歌している。
漫画には疎く、心春とは真逆の性格。でも仲はそこそこ良い。
姉「何にやついてんの?」
心春「に、にやついてないわ!」
〇学校・下駄箱(朝)
―翌日。
心春が上履きに履き替えていると、友人(複数名の男女)と登校していた蒼司が声をかけてくる。
蒼司「おはよ」
心春「…!おはよう!」
それだけ言うと、友人達と共に教室に向かう蒼司。
何やら驚いている蒼司の友人たち。
真辺「蒼司、小山内さんと仲良いの?」
蒼司「部活同じだから」
真辺「あー漫画部だっけ?お前まじバスケ部来いって!」
蒼司「行かないって言っただろ」
真辺「なんでだよー!」
女子A「蒼司ってばほんとつれないんだから~!」
その後ろ姿を見つめながら、温かくなる胸を抑える心春。
心春(多分、藤崎君にとっては何気ないこと。でも、それが嬉しい…)
突如スマホがポロンと鳴り、心春が画面を見ると美和子からメッセージが来ている。
美和子からのメッセージ『インフルかかったからしばらく学校休むことになったわ』
心春「え!」
急いで返信する心春。
心春のメッセージ『わー大変だ!お大事にね。授業の内容送るから、安心してね!』
美和子からのメッセージ『神(泣)』
心春「そっか…みわちゃん休みかぁ…」
〇1~6限までの授業風景がダイジェストで描かれる
理科(実験で水を床にこぼしてしまう心春)→数学(難問に頭を悩ませている心春)→体育(ボールに頭をぶつける心春)→国語(体育終わり、疲れて寝ている心春)→英語(隣の男子と英語を使って必死に会話する心春)→社会(必死にノートを取る心春)
〇学校の廊下(放課後)
ヘロヘロになりながら部室に向かう心春。
心春「つ…疲れた……」
心春(五教科全部あるとか…水曜日やばい…ていうかみわちゃんもいなくてぼっちだし…辛い……)
〇漫画部部室
心春「失礼しまー…」
ガラリと音を立てて扉を開けると、先に着いて漫画を読んでいた蒼司が膝を組んで伏し目がちに漫画を読んでいる。
膝を組んで優雅に座るその姿は非常に美しい。
眩しそうに目を細める心春に気づいた蒼司が顔を上げる。
蒼司「あ、小山内……って何そんなにへばってんの?」
心春「逆に藤崎君は何でそんな眩しいの…」
蒼司「はぁ?」
× × ×
二人がちょうど席についたあたりで副部長がやって来る。
副部長「今日部長も休んでてさー風邪流行ってるみたいだから気を付けてねー。僕は今日音ゲーのイベント走るからできるだけ話しかけないでくれると助かるよー」
心春「はい!」
蒼司「うっす」
× × ×
副部長はイヤホンをし、ガチな目でスマホを連打している。
向かい合って椅子に腰かけている心春と蒼司。
心春「ってことで今日は二人だね」
蒼司「なー。何する?」
心春「うーん……」
突如心春のスマホが鳴る。
発信者名に『みわちゃん』と表示されている。
心春「え!みわちゃん!?」
急いでビデオ通話を繋げる心春。
冷えピタを貼ったオフの美和子が映る。
美和子「やっほー」
心春「みわちゃん!大丈夫?」
美和子「まぁね。インフルっていっても熱とだるさ以外は特に症状ないし」
蒼司「あんま調子乗んなよ」
美和子「言われなくても分かってるわよ。…っていうか心春聞いてよ。私こんなんだから部長と約束してたコラボカフェ行けなくなっちゃたの!しかも部長も風邪っぽいし…絶対どっちかがどっちかに移しちゃったのよ…」
画面越しに頭を抱える美和子。
心春「カフェって…この前言ってたやつ?」
美和子「そう!これ!」
美和子がコラボカフェのチラシを映すと、蒼司が前のめりになって画面を見る。
蒼司「は!?これ『てんしま(※天使な四姉妹)』のコラボカフェ整理券じゃん!俺が一時間前から待機してたのに取れなかったやつ…!」
心春「え、そんなに人気なやつなの!?」
美和子「ええ。まぁ待機時間は関係なくて、サーバーに一早く繋げることができた勝者だけが手に入れられるやつなんだけど」
ゴゴゴゴゴ…という音が聞こえてきそうなほどの圧で画面の向こうの美和子に問いかける蒼司。
蒼司「加山それ無駄にするつもりか?」
美和子「それが嫌だから電話したの。この整理券譲渡できるやつだから……ねぇ心春、これ譲るから誰かと行ってくれない?」
蒼司が心春の方にぐいっと身を乗り出す。
蒼司「そんなの俺と行くしかないだろ」
心春「えぇ!?」
美和子「心春が決めて良いのよ」
蒼司「分かってるよな、小山内?」
心春(え?え?ここで頷いたら私藤崎君と出かけるってことだよね…?え、待って急展開すぎて脳が追い付いてない。え???)
小動物のように震えて混乱していた心春だが、とうとう蒼司の圧に負ける。
心春「(ロボットのようにカクカクと頷いて)ワ、ワカッタ。フジサキクントイク」
美和子「おっけー!じゃあ後で電子整理券送っておくから。感想聞かせてね!」
蒼司「まじでありがと」
美和子と心春を拝む蒼司と、放心状態の心春。
心春(何でこうなった……?)