まだ見ぬ春よ
第四話 別世界の住人
〇1-A教室(朝)
HR前。
心春は自席で漫画を読むふりをしつつ、いつものように日が差し込む窓際の席に座る蒼司をちらりと見ている。
【あの日から数日経つが、私と藤崎君の関に変化はない。二人でいる時は普通の高校生に見えたけど、教室という空間に戻って来ると、また別世界の人間に感じてしまう。】
すると美和子が教室に入ってきて、心春の後ろの席に座る。
美和子「加山美和子、完全復活よ!」
心春「みわちゃん!久しぶり!会いたかったよ~!」
美和子「私もよ!」
ハグをして抱き合う二人。美和子は心春の耳に顔を近づける。
美和子「(こそこそと)……で、そんなことよりあれはどうだったの?」
心春「あれ?」
美和子「藤崎君とのコラボカフェに決まってるじゃない!」
心春「え、えーと…」
返答をためらい再度ちらりと窓側を見ると、一瞬にやっと笑いかけてくる蒼司。
心春「!」
思わず顔を赤らめる心春。
美和子「その反応!何かあったのね!?」
心春「な、何にもないよ!」
美和子「えー?心春はそればっかりなんだから~!」
心春(本当に何にもない。強いて言うならちょっと仲良くなれた程度。そう、だからそんな些細なことで舞い上がっている私がおかしいんだ)
頭を抱えてしゃがみ込む心春と不思議そうな表情を浮かべる美和子。
心春「あ~…!」
美和子「ほんとに何があったのよ?」
その様子を見て何やら楽し気な表情を浮かべる蒼司を見比べて、訝しげな表情を浮かべる陽キャ女子四人組。
〇同・教室(中休み)
心春が黒板を消しているも、高いところに手が届きづらい様子。
そんな心春を見ていた蒼司が、グループの輪から外れ心春の元へ向かう。
蒼司「俺、ちょっと手かしてくるわ」
小林「え?ちょ、おい」
蒼司が声をかけると、心春は驚いたような表情を浮かべる。
心春に「大丈夫だよ」と言われるも、「いいから」と黒板消しを持ち手伝う蒼司。
その様子を遠くから見ていた真辺と小林、陽キャ女子四人組はー…。
真辺「蒼司、最近小山内と仲良くねぇ?」
女子B「…別に、気のせいでしょ」
真辺「そうかぁ?」
女子C「真辺はノンデリだし、そういうの鈍そうだよね~」
真辺「はぁ!?うっせ!」
黒板を消し終わり、心春にペコペコと頭を下げられ感謝されている蒼司。
心春「ありがとう!助かった!」
蒼司「このくらい全然。じゃあ」
心春「うん!」
心春と手を振って別れると、戻って来る蒼司。
真辺「ひゅー藤崎君優しいねぇ」
小林「イケメンじゃんー」
蒼司「はいはい」
顔を合わせて、眉をひそめる陽キャ女子四人組。
〇学校の廊下(昼)
心春が美和子と廊下を歩いていると、蒼司が近づいて来る。
蒼司「小山内ちょっと良い?」
心春「え!?」
それを聞いた美和子は何かに勘付いたような表情を浮かべると、にんまりと笑う。
美和子「どうぞごゆっくり!心春、先行ってるわね!」
心春「えっ、みわちゃん!?」
一足先に教室に戻る美和子。
心春「…あの、どうしたの?」
蒼司「はい、これ」
心春「え?」
蒼司から突然手渡された重い茶封筒の中を覗くと…
心春「…あ!原稿!」
蒼司「そ。この前言ってたやつ」
心春「すごい…!生原稿初めて見る……!!ありがとう!!」
心春は目を輝かせて分厚い原稿を見ている。
蒼司「いえいえ。読んだら感想聞かせて。あ、てきとーだったら許さないよ?」
心春「えっ!?」
蒼司「あははっ、冗談」
心春「なっ…もう!…あ、でも感想はちゃんと伝えるからね!」
蒼司「それはそれで照れるって」
心春「えー?あはははは」
すっかり打ち解けた雰囲気の二人を、遠くから怖い顔をして見ている陽キャ女子四人組。
女子A「…………」
〇学校・女子トイレ前(昼休み)
心春がトイレから出てくるタイミングで、陽キャ女子四人組に囲まれる。
女子A「ねえ小山内さん。今ちょっと良い?」
心春「!」
サーっと青ざめ、一歩後ろに後退る心春。
心春(わ、私何かしちゃった…?)
女子B「聞いてるんだけど。時間ある?」
心春「あり……ます」
心春は条件反射で頷いてしまい、女子たちに連行されるも、心の中では頭を抱えている。
心春(ばか!素直に答えなくても良かったのに!多分……良いことではない、よね)
〇学校裏
陽キャ女子四人組に囲まれている心春。
女子A「小山内さんさ、自分の立場分かってる?」
心春「は、はい…」
心春の返答を聞いた女子Cは長いウェーブの髪を指に巻き付けながら、不満そうに口を開く。
女子C「分かってなさそうだから呼んだんだよねー」
心春「はい……」
心春(少女漫画でよく見たやつだ……!実際にされるとめちゃめちゃ怖い……!)
震える心春を無視して話を続ける女子B。
女子B「単刀直入に聞くけどさ、蒼司とどういう関係なの?」
心春(藤崎君との関係?そんなの聞かなくたって分かるはず……)
心春「たっ、ただのクラスメイトです!」
女子D「嘘つかないでよ。この前、二人が街で歩いてるところ見たんだからね?」
心春「!」
女子C「ほら、その顔心当たりあるんでしょ?」
心春「あれは…その」
心春(…この人達藤崎君がオタクってことどれくらい知ってるんだろう。ああいう一面って一軍の中ではそんなに歓迎されないよね…?私がもしここで全てを説明しようとしたら、絶対にそこに触れないといけない。でもそれは、藤崎君が築き上げてきたものに対して、あまりに失礼だ…)
心春はぎゅっと拳を握る。
心春「あの時は、偶然会って挨拶しただけで…」
女子A「……ふーん?じゃあ、あの時はそれで良いとして、その後も学校でいきなり喋るようになったじゃん。蒼司って女子に興味ない感じだったのに。あれは何?」
心春「それは多分、部活が同じだからで…」
煮え切らない心春の返事にイライラした様子の陽キャ女子達。
女子A「~!あのさ!まどろっこしいから単刀直入に聞くけど、小山内さんと蒼司って付き合ってるの?」
心春「つ……!?ち、違う!断じて違います!!」
その返答を聞いて胸をなでおろす女子たち。
女子C「なーんだ。心配して損したぁ」
女子B「蒼司、まじで色んな子に優しいから疑っちゃうわー」
女子D「ほんとそれな?」
女子A「あそうだ。あともう一個あって」
心春「?」
女子A「小山内さんと蒼司じゃさ、住む世界違うじゃん?そのこと、これからも忘れないでね?」
有無を言わさぬ笑みを向けられる心春。
自分と彼女たちの間に一本の線が敷かれ、その境界線の向こう側には蒼司もいるように感じてしまう。
心春「……はい」
※昼休みの終了を知らせる鐘が鳴る。
女子D「え、もうこんな時間?」
女子C「授業始まっちゃうし戻ろー」
女子A「ばいばい小山内さーん」
去っていく、陽キャ女子四人組。
心春は壁に背を付けずるずるとしゃがみ込む。顔は俯いていて見えない。
〇小山内家・心春の自室(夜)
ベッドに横たわり、今日言われた言葉を反芻する心春。
女子A『小山内さんと蒼司じゃ住む世界違うじゃん』
心春「そんなことくらい分かってる……」
抱いていたクッションをギュッと握りしめる小春。
女子B『蒼司、まじで色んな子に優しいから疑っちゃうわー』
心春(でも…私、本当に勘違いしてた。藤崎君は誰にでも優しくて、だからあそこまで人に好かれているんだ。少しだけ仲良くなれたかもって、少しは近づけたかもって、私、勝手に舞い上がってた…)
心春「青春なんて世界に、私の居場所はないのに」
〇1-A教室(朝)
―翌日。HR前。
いつものように1人席に座る心春に、教室に入って来た蒼司が話しかけてくる。
蒼司「小山内―はよー」
心春「藤崎君、おはよう」
蒼司「…なんか顔色悪くね?寝不足?」
心春「え!そうかな、これ…は……」
蒼司の後ろから陽キャ女子達から厳しい視線を感じ、思わず口を閉ざしてしまう心春。
心春「ご、ごめん!ちょっと用事あったの忘れてて、それで、今からとある場所に行かないとなの!それじゃあ!」
心春は席を立つと、教室を出る。
蒼司「ちょ…!」
心春を追いかけようとする蒼志だが、陽キャ女子四人組に絡まれる。
女子A「蒼司―これ見てよー、まじ面白くない?」
蒼司「いや、俺…」
女子B「小山内さん?用事あるっぽいし、後にすれば?」
蒼司「…………」
スマホを見せる女子たちと、どこか腑に落ちない様子の蒼司。
教室を出て走って廊下の隅で立ち止まり、ギュッと目を閉じて涙を浮かべる心春。
HR前。
心春は自席で漫画を読むふりをしつつ、いつものように日が差し込む窓際の席に座る蒼司をちらりと見ている。
【あの日から数日経つが、私と藤崎君の関に変化はない。二人でいる時は普通の高校生に見えたけど、教室という空間に戻って来ると、また別世界の人間に感じてしまう。】
すると美和子が教室に入ってきて、心春の後ろの席に座る。
美和子「加山美和子、完全復活よ!」
心春「みわちゃん!久しぶり!会いたかったよ~!」
美和子「私もよ!」
ハグをして抱き合う二人。美和子は心春の耳に顔を近づける。
美和子「(こそこそと)……で、そんなことよりあれはどうだったの?」
心春「あれ?」
美和子「藤崎君とのコラボカフェに決まってるじゃない!」
心春「え、えーと…」
返答をためらい再度ちらりと窓側を見ると、一瞬にやっと笑いかけてくる蒼司。
心春「!」
思わず顔を赤らめる心春。
美和子「その反応!何かあったのね!?」
心春「な、何にもないよ!」
美和子「えー?心春はそればっかりなんだから~!」
心春(本当に何にもない。強いて言うならちょっと仲良くなれた程度。そう、だからそんな些細なことで舞い上がっている私がおかしいんだ)
頭を抱えてしゃがみ込む心春と不思議そうな表情を浮かべる美和子。
心春「あ~…!」
美和子「ほんとに何があったのよ?」
その様子を見て何やら楽し気な表情を浮かべる蒼司を見比べて、訝しげな表情を浮かべる陽キャ女子四人組。
〇同・教室(中休み)
心春が黒板を消しているも、高いところに手が届きづらい様子。
そんな心春を見ていた蒼司が、グループの輪から外れ心春の元へ向かう。
蒼司「俺、ちょっと手かしてくるわ」
小林「え?ちょ、おい」
蒼司が声をかけると、心春は驚いたような表情を浮かべる。
心春に「大丈夫だよ」と言われるも、「いいから」と黒板消しを持ち手伝う蒼司。
その様子を遠くから見ていた真辺と小林、陽キャ女子四人組はー…。
真辺「蒼司、最近小山内と仲良くねぇ?」
女子B「…別に、気のせいでしょ」
真辺「そうかぁ?」
女子C「真辺はノンデリだし、そういうの鈍そうだよね~」
真辺「はぁ!?うっせ!」
黒板を消し終わり、心春にペコペコと頭を下げられ感謝されている蒼司。
心春「ありがとう!助かった!」
蒼司「このくらい全然。じゃあ」
心春「うん!」
心春と手を振って別れると、戻って来る蒼司。
真辺「ひゅー藤崎君優しいねぇ」
小林「イケメンじゃんー」
蒼司「はいはい」
顔を合わせて、眉をひそめる陽キャ女子四人組。
〇学校の廊下(昼)
心春が美和子と廊下を歩いていると、蒼司が近づいて来る。
蒼司「小山内ちょっと良い?」
心春「え!?」
それを聞いた美和子は何かに勘付いたような表情を浮かべると、にんまりと笑う。
美和子「どうぞごゆっくり!心春、先行ってるわね!」
心春「えっ、みわちゃん!?」
一足先に教室に戻る美和子。
心春「…あの、どうしたの?」
蒼司「はい、これ」
心春「え?」
蒼司から突然手渡された重い茶封筒の中を覗くと…
心春「…あ!原稿!」
蒼司「そ。この前言ってたやつ」
心春「すごい…!生原稿初めて見る……!!ありがとう!!」
心春は目を輝かせて分厚い原稿を見ている。
蒼司「いえいえ。読んだら感想聞かせて。あ、てきとーだったら許さないよ?」
心春「えっ!?」
蒼司「あははっ、冗談」
心春「なっ…もう!…あ、でも感想はちゃんと伝えるからね!」
蒼司「それはそれで照れるって」
心春「えー?あはははは」
すっかり打ち解けた雰囲気の二人を、遠くから怖い顔をして見ている陽キャ女子四人組。
女子A「…………」
〇学校・女子トイレ前(昼休み)
心春がトイレから出てくるタイミングで、陽キャ女子四人組に囲まれる。
女子A「ねえ小山内さん。今ちょっと良い?」
心春「!」
サーっと青ざめ、一歩後ろに後退る心春。
心春(わ、私何かしちゃった…?)
女子B「聞いてるんだけど。時間ある?」
心春「あり……ます」
心春は条件反射で頷いてしまい、女子たちに連行されるも、心の中では頭を抱えている。
心春(ばか!素直に答えなくても良かったのに!多分……良いことではない、よね)
〇学校裏
陽キャ女子四人組に囲まれている心春。
女子A「小山内さんさ、自分の立場分かってる?」
心春「は、はい…」
心春の返答を聞いた女子Cは長いウェーブの髪を指に巻き付けながら、不満そうに口を開く。
女子C「分かってなさそうだから呼んだんだよねー」
心春「はい……」
心春(少女漫画でよく見たやつだ……!実際にされるとめちゃめちゃ怖い……!)
震える心春を無視して話を続ける女子B。
女子B「単刀直入に聞くけどさ、蒼司とどういう関係なの?」
心春(藤崎君との関係?そんなの聞かなくたって分かるはず……)
心春「たっ、ただのクラスメイトです!」
女子D「嘘つかないでよ。この前、二人が街で歩いてるところ見たんだからね?」
心春「!」
女子C「ほら、その顔心当たりあるんでしょ?」
心春「あれは…その」
心春(…この人達藤崎君がオタクってことどれくらい知ってるんだろう。ああいう一面って一軍の中ではそんなに歓迎されないよね…?私がもしここで全てを説明しようとしたら、絶対にそこに触れないといけない。でもそれは、藤崎君が築き上げてきたものに対して、あまりに失礼だ…)
心春はぎゅっと拳を握る。
心春「あの時は、偶然会って挨拶しただけで…」
女子A「……ふーん?じゃあ、あの時はそれで良いとして、その後も学校でいきなり喋るようになったじゃん。蒼司って女子に興味ない感じだったのに。あれは何?」
心春「それは多分、部活が同じだからで…」
煮え切らない心春の返事にイライラした様子の陽キャ女子達。
女子A「~!あのさ!まどろっこしいから単刀直入に聞くけど、小山内さんと蒼司って付き合ってるの?」
心春「つ……!?ち、違う!断じて違います!!」
その返答を聞いて胸をなでおろす女子たち。
女子C「なーんだ。心配して損したぁ」
女子B「蒼司、まじで色んな子に優しいから疑っちゃうわー」
女子D「ほんとそれな?」
女子A「あそうだ。あともう一個あって」
心春「?」
女子A「小山内さんと蒼司じゃさ、住む世界違うじゃん?そのこと、これからも忘れないでね?」
有無を言わさぬ笑みを向けられる心春。
自分と彼女たちの間に一本の線が敷かれ、その境界線の向こう側には蒼司もいるように感じてしまう。
心春「……はい」
※昼休みの終了を知らせる鐘が鳴る。
女子D「え、もうこんな時間?」
女子C「授業始まっちゃうし戻ろー」
女子A「ばいばい小山内さーん」
去っていく、陽キャ女子四人組。
心春は壁に背を付けずるずるとしゃがみ込む。顔は俯いていて見えない。
〇小山内家・心春の自室(夜)
ベッドに横たわり、今日言われた言葉を反芻する心春。
女子A『小山内さんと蒼司じゃ住む世界違うじゃん』
心春「そんなことくらい分かってる……」
抱いていたクッションをギュッと握りしめる小春。
女子B『蒼司、まじで色んな子に優しいから疑っちゃうわー』
心春(でも…私、本当に勘違いしてた。藤崎君は誰にでも優しくて、だからあそこまで人に好かれているんだ。少しだけ仲良くなれたかもって、少しは近づけたかもって、私、勝手に舞い上がってた…)
心春「青春なんて世界に、私の居場所はないのに」
〇1-A教室(朝)
―翌日。HR前。
いつものように1人席に座る心春に、教室に入って来た蒼司が話しかけてくる。
蒼司「小山内―はよー」
心春「藤崎君、おはよう」
蒼司「…なんか顔色悪くね?寝不足?」
心春「え!そうかな、これ…は……」
蒼司の後ろから陽キャ女子達から厳しい視線を感じ、思わず口を閉ざしてしまう心春。
心春「ご、ごめん!ちょっと用事あったの忘れてて、それで、今からとある場所に行かないとなの!それじゃあ!」
心春は席を立つと、教室を出る。
蒼司「ちょ…!」
心春を追いかけようとする蒼志だが、陽キャ女子四人組に絡まれる。
女子A「蒼司―これ見てよー、まじ面白くない?」
蒼司「いや、俺…」
女子B「小山内さん?用事あるっぽいし、後にすれば?」
蒼司「…………」
スマホを見せる女子たちと、どこか腑に落ちない様子の蒼司。
教室を出て走って廊下の隅で立ち止まり、ギュッと目を閉じて涙を浮かべる心春。