まだ見ぬ春よ
第五話 恋と桜
〇体育館(2限目)
バスケットボールを持って近づいて来る蒼司。
蒼司「小山内―」
しかし心春はそれを無視するかのように美和子の元に走っていく。
心春「みわちゃん呼んだ!?」
美和子「呼んでないわよ?」
〇教室(昼休み)
心春と美和子の席に近づく蒼司。
蒼司「おさな」
しかしお腹をおさえて、痛みに悶え始める(演技をする)心春。
心春「ごめんちょっと腹痛が……!」
美和子「弁当の食材があたったのかしら?」
〇廊下(中休み)
廊下で歩いていた心春に蒼司が話しかけようとする。
蒼司「おさ」
心春「!」
蒼司から逃げようとして走り出すも、濡れ雑巾で拭いた後の床で滑ってしまい、バタンと倒れる。
周囲の女子生徒「ちょっ…大丈夫ですか!?」
周囲の男子生徒「誰か、保健室連れてけー!」
挙動不審な心春を見て、蒼司は不可解だという表情を浮かべる。
蒼司「…?」
〇部室(放課後)
心春の顔には大きめの絆創膏が貼られている。
美和子「転んだって聞いた時はびっくりしたけど…軽傷で良かったわ」
心春「ほんとね、もう廊下は絶対に走らないって決めたよ」
美和子「今日は安静にしてなさいよ」
心春「そのつもり!」
× × ×
やや遅れて入って来た蒼司が部室内で1人黙々と漫画を積み上げる心春に話しかけようと…。
蒼司「お」
心春「てことで!今日は漫画に一本集中するから誰も話しかけないでください!!!」
美和子「お…おぉ……」
相変わらず蒼司のことを避けてしまう心春。
蒼司「……」
蒼司も流石に異変に気付き、訝し気な表情を浮かべている。
〇帰り道(夕)
(回想)
一時間前部室にて……
蒼司「俺バイトあるから今日は先帰ってるわ」
美和子「あら、頑張ってね」
心春「お、おつかれさま」
× × ×
というやりとりがあり、美和子と二人で帰っている心春。
美和子「小春、最近藤崎君と何かあったの?」
心春「なっ…にもない、よ」
美和子「何もないわけないでしょ」
心春「!」
美和子「バレバレだから。別に全部じゃなくても良いけど、口に出さないと相手には伝わらないわよ」
心春「……ごめん」
美和子「別に謝って欲しいわけじゃないわよ。まぁでも、落ち着いたら教えて」
心春「…うん。ありがとう」
落ち込む心春の頭を撫でる美和子。
心春「(落ち込んだ声色で)みわちゃ~ん…」
美和子「はいはい」
〇駅前
駅につくと、二人は別れる。
心春「また明日!」
美和子「また明日~」
手を振りながら、駅に向かう心春の姿を見送る美和子。
その姿が見えなくなるとポツリと呟く。
美和子「…今私にできることはなさそうね。早く仲直りできると良いけど」
〇自室(夜)
自室で宿題をしている心春。
一段落して伸びをすると、ふと机の片隅に置いてあった蒼司の原稿が目に入る。
心春(すごい読みたいし、なるべく早く返した方が良いってことも分かってる……でも、その時はしっかり顔を合わせて御礼と感想を言わないとだよね)
× × ×
(回想)
心春「なっ…もう!…でも感想はちゃんと本気で言うから」
蒼司「…それはそれで照れるんだけど」
心春「えー?あはははは」
× × ×
そんなやりとりを思い出し、心春は活を入れるために自らの頬を両手で軽く叩く。
心春(えーい!もう余計なこと考えずに読もう!いずれにしても読まないって選択肢はないんだから!)
心春は意を決して茶封筒を手に取ると、中から原稿用紙を取り出し、読み始める。
タイトルは『恋して革命』。
心春(わぁ…絵綺麗…女の子可愛い…)
内気で自分の意見を言えなかったヒロインが、破天荒で問題児のイケメン転校生と関わっていく中で成長していくラブストーリー。
心春(コマ割りも丁寧で読みやすい…あ、この表情良いな…)
次第に心春は思考する間もない程、物語にのめり込んでいく。
× × ×
そしてヒロインが思いの丈をヒーローに伝えるページに辿り着いた時、台詞に見入って手を止める心春。
ヒロイン『ずっと怖かったの。私が変なこと言って周りから嫌われちゃったらどうしようって。傷つけたらどうしようって。でもそうやって人の顔色伺って…一番傷ついてたのは自分だった。しんどくて、辛くて…でもそんな時熊ケ谷君に出会って、勇気をもらった。私もこんな風に、自分の気持ちに素直になりたいって思ったの。誰かに迷惑かけるかもだし、嫌がられるかもしれないけど、自分の心を大切にしてあげたいって…!』
瞬間、心春の目から一筋の涙が零れる。
心春「……え」
自身の涙に驚くも、次の瞬間我に返る心春。
心春「げ、原稿に染みついちゃう……!!」
心春は自らと原稿バッと離し、急いで袖口で涙を拭うも、その後やや放心状態になる。
胸にはあのヒロインの言葉が残っている。
心春はおもむろに机上のスマホを手に取ると、連絡先から蒼司とのメッセージを開く。
そして『明日、もし良ければこの前一緒に行った公園に来て欲しいです』と打ち、震える手で送信ボタンを押す。
すぐに既読がつき、蒼司から『おっけ。午後バイトあるから、それまでなら』と返信が来る。
心春は驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべ、ギュッとスマホを握り締める。
〇公園(昼)
―翌日(土曜日)。
心春が公園に着くと、既に蒼司が到着しており入口あたりで立っている。
心春(え!?うそ、まだ15分前なのに…)
心春が驚いて駆け寄ると、蒼司がにやりと笑って口を開く。
蒼司「『え!?うそ、まだ15分前なのに…』って思った?」
心春「なっ、なんでそれを…」
蒼司「あははっ、この前は小山内が早く到着してたから、今日は俺が先に待ってようと思って」
心春「私が誘ったんだしそんなの気にしなくて良いのに!」
蒼司「そんなの俺の勝手だろ?」
心春「そうだけど…!」
二人は少し打ち解けた雰囲気になるが、心春は改まって頭を下げる。
心春「……あ、それで、その…休日に時間作ってくれて本当にありがとう」
蒼司「別にいーよそんなこと。まぁ、とりあえずこれ。はい」
蒼司は温かいお汁粉を心春に手渡す。
心春「え!?どうしたのこれ!?」
蒼司「さっきそこの自販機で買った。甘いくて温かいもん飲めば少しはリラックスできるかなって」
蒼司の優しさと気遣いに涙が込み上げてくる心春。
心春「…ありがとう」
蒼司は優しい笑みを浮かべながら、必死に涙をこらえている心春を見つめる。
× × ×
二人はコラボカフェに出かけた日と同じようにベンチに腰かけている。
蒼司「で?今日はどういったご用件で?」
心春(…しっかり話さないと)
心春は息を吸い込むと、蒼司に頭を下げる。
心春「まず、ここ三日くらい藤崎君のこと避けていて本当にごめんなさい」
蒼司「…」
心春「私…勉強も運動もできないし、友達も少ないし、明るいわけでもなくて……そんな自分がクラスの中心にいる藤崎君とこれ以上関わるべきじゃないって…そう勝手に決めつけて、距離を取ってた」
心春はスカートの裾をぎゅっと握る。
心春「でも藤崎君の漫画読んで、気づいたの。今の私は自分の気持ちも、藤崎君の気持ちも蔑ろにしているって。本当は藤崎君に話しかけてもらえるのすごい嬉しいし、それを無視したらすごい辛い。なのに一人でうだうだ悩んで、藤崎君に迷惑かけて、何してるんだろうって」
バックの中から原稿用紙が入った茶封筒を取り出し、震える手でそれを蒼司に返却する心春。
心春「中に細かく感想書いた紙入ってるから、後で読んでくれると嬉しい。全部好きだったけど、特に主人公が熊ケ谷君に気持ちを吐露するシーンが本当にジーンときて…こんなに素敵な作品読ませてくれてありがとう。もう私と関わりたくないかもだけど、最後にどうしてもこの気持ちを伝えたくて…」
心春から茶封筒を受け取った蒼司は少し間をおいて、口を開く。
蒼司「たしかに俺、傷ついたよ。理由分からずに突然避けられて驚いた」
心春「…それは本当にごめんなさ」
謝罪する心春の言葉を遮るように、蒼司が言葉を重ねる。
蒼司「でも。それよりも俺の漫画読んで、読者の心を動かせたことの方が何倍も嬉しくて、そんなのどうでもよくなった」
晴れやかな表情でそう言った蒼司を見て、ポカンと口を開ける心春。
心春「……え?怒ってないの?」
心春が恐る恐る尋ねると、蒼司はおかしそうに笑う。
蒼司「怒ってるわけないじゃん。むしろその逆。ちょー最高な気分」
その笑顔を見た心春の心の中に、桜の花びらが一枚落ちる(演出)。
スッと手を差し出してくる蒼司。
蒼司「はい、仲直りの握手」
心春「!…うん」
心春がおずおずと手を差し出すと、二人は握手を交わす。
蒼司「これで俺達、また友達な。これからも沢山話そう」
その言葉を聞き、目頭が熱くなるのを感じながら大きく首を縦に振る心春。
心春「うんっ…!」
『ピピピピッ!』
心春「わぁ!?」
蒼司「!」
突如蒼司のポケットからスマホのアラームが鳴り出す。
蒼司「やべ、俺そろそろバイト行かなくちゃ」
心春「あ、そっか!あの…今日忙しい中、時間作ってくれて本当にありがとう!」
蒼司「そんなかしこまらなくていいって」
心春「でも」
蒼司「だって俺達、友達でしょ?」
心春の涙腺は遂に決壊する。
心春「(号泣して)……藤崎君、優しすぎるよぉ!」
蒼司「あははっ!」
〇桜道
二人は公園を出た二人は、それぞれ反対の道を歩き出す。
心春は胸に手を当てて、赤く染まった顔を俯けている。
心春(さっきからずっとドキドキが止まらない…)
× × ×
(回想)
蒼司「俺達友達でしょ?」
× × ×
心春(「友達」…。多分、私藤崎君に同じ気持ちを返せてない。だってこの気持ちは、きっと……)
蒼司「小山内!」
背後からかけられた蒼司の声につられて心春が振り返る。
蒼司「また俺の漫画読んでよ!」
心春「…うんっ」
心春が頷くと、蒼司は満足そうに笑い、走っていく。
心春(認めざるを得ない)
散りゆく桜の花びらが風に舞う。
小さくなっていく蒼司の背を見つめながら、心春が小さな声で呟く。
心春「…好き」
【青い春を司るような、キラキラと輝く君に、私は恋をしてしまったんだ。】
バスケットボールを持って近づいて来る蒼司。
蒼司「小山内―」
しかし心春はそれを無視するかのように美和子の元に走っていく。
心春「みわちゃん呼んだ!?」
美和子「呼んでないわよ?」
〇教室(昼休み)
心春と美和子の席に近づく蒼司。
蒼司「おさな」
しかしお腹をおさえて、痛みに悶え始める(演技をする)心春。
心春「ごめんちょっと腹痛が……!」
美和子「弁当の食材があたったのかしら?」
〇廊下(中休み)
廊下で歩いていた心春に蒼司が話しかけようとする。
蒼司「おさ」
心春「!」
蒼司から逃げようとして走り出すも、濡れ雑巾で拭いた後の床で滑ってしまい、バタンと倒れる。
周囲の女子生徒「ちょっ…大丈夫ですか!?」
周囲の男子生徒「誰か、保健室連れてけー!」
挙動不審な心春を見て、蒼司は不可解だという表情を浮かべる。
蒼司「…?」
〇部室(放課後)
心春の顔には大きめの絆創膏が貼られている。
美和子「転んだって聞いた時はびっくりしたけど…軽傷で良かったわ」
心春「ほんとね、もう廊下は絶対に走らないって決めたよ」
美和子「今日は安静にしてなさいよ」
心春「そのつもり!」
× × ×
やや遅れて入って来た蒼司が部室内で1人黙々と漫画を積み上げる心春に話しかけようと…。
蒼司「お」
心春「てことで!今日は漫画に一本集中するから誰も話しかけないでください!!!」
美和子「お…おぉ……」
相変わらず蒼司のことを避けてしまう心春。
蒼司「……」
蒼司も流石に異変に気付き、訝し気な表情を浮かべている。
〇帰り道(夕)
(回想)
一時間前部室にて……
蒼司「俺バイトあるから今日は先帰ってるわ」
美和子「あら、頑張ってね」
心春「お、おつかれさま」
× × ×
というやりとりがあり、美和子と二人で帰っている心春。
美和子「小春、最近藤崎君と何かあったの?」
心春「なっ…にもない、よ」
美和子「何もないわけないでしょ」
心春「!」
美和子「バレバレだから。別に全部じゃなくても良いけど、口に出さないと相手には伝わらないわよ」
心春「……ごめん」
美和子「別に謝って欲しいわけじゃないわよ。まぁでも、落ち着いたら教えて」
心春「…うん。ありがとう」
落ち込む心春の頭を撫でる美和子。
心春「(落ち込んだ声色で)みわちゃ~ん…」
美和子「はいはい」
〇駅前
駅につくと、二人は別れる。
心春「また明日!」
美和子「また明日~」
手を振りながら、駅に向かう心春の姿を見送る美和子。
その姿が見えなくなるとポツリと呟く。
美和子「…今私にできることはなさそうね。早く仲直りできると良いけど」
〇自室(夜)
自室で宿題をしている心春。
一段落して伸びをすると、ふと机の片隅に置いてあった蒼司の原稿が目に入る。
心春(すごい読みたいし、なるべく早く返した方が良いってことも分かってる……でも、その時はしっかり顔を合わせて御礼と感想を言わないとだよね)
× × ×
(回想)
心春「なっ…もう!…でも感想はちゃんと本気で言うから」
蒼司「…それはそれで照れるんだけど」
心春「えー?あはははは」
× × ×
そんなやりとりを思い出し、心春は活を入れるために自らの頬を両手で軽く叩く。
心春(えーい!もう余計なこと考えずに読もう!いずれにしても読まないって選択肢はないんだから!)
心春は意を決して茶封筒を手に取ると、中から原稿用紙を取り出し、読み始める。
タイトルは『恋して革命』。
心春(わぁ…絵綺麗…女の子可愛い…)
内気で自分の意見を言えなかったヒロインが、破天荒で問題児のイケメン転校生と関わっていく中で成長していくラブストーリー。
心春(コマ割りも丁寧で読みやすい…あ、この表情良いな…)
次第に心春は思考する間もない程、物語にのめり込んでいく。
× × ×
そしてヒロインが思いの丈をヒーローに伝えるページに辿り着いた時、台詞に見入って手を止める心春。
ヒロイン『ずっと怖かったの。私が変なこと言って周りから嫌われちゃったらどうしようって。傷つけたらどうしようって。でもそうやって人の顔色伺って…一番傷ついてたのは自分だった。しんどくて、辛くて…でもそんな時熊ケ谷君に出会って、勇気をもらった。私もこんな風に、自分の気持ちに素直になりたいって思ったの。誰かに迷惑かけるかもだし、嫌がられるかもしれないけど、自分の心を大切にしてあげたいって…!』
瞬間、心春の目から一筋の涙が零れる。
心春「……え」
自身の涙に驚くも、次の瞬間我に返る心春。
心春「げ、原稿に染みついちゃう……!!」
心春は自らと原稿バッと離し、急いで袖口で涙を拭うも、その後やや放心状態になる。
胸にはあのヒロインの言葉が残っている。
心春はおもむろに机上のスマホを手に取ると、連絡先から蒼司とのメッセージを開く。
そして『明日、もし良ければこの前一緒に行った公園に来て欲しいです』と打ち、震える手で送信ボタンを押す。
すぐに既読がつき、蒼司から『おっけ。午後バイトあるから、それまでなら』と返信が来る。
心春は驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべ、ギュッとスマホを握り締める。
〇公園(昼)
―翌日(土曜日)。
心春が公園に着くと、既に蒼司が到着しており入口あたりで立っている。
心春(え!?うそ、まだ15分前なのに…)
心春が驚いて駆け寄ると、蒼司がにやりと笑って口を開く。
蒼司「『え!?うそ、まだ15分前なのに…』って思った?」
心春「なっ、なんでそれを…」
蒼司「あははっ、この前は小山内が早く到着してたから、今日は俺が先に待ってようと思って」
心春「私が誘ったんだしそんなの気にしなくて良いのに!」
蒼司「そんなの俺の勝手だろ?」
心春「そうだけど…!」
二人は少し打ち解けた雰囲気になるが、心春は改まって頭を下げる。
心春「……あ、それで、その…休日に時間作ってくれて本当にありがとう」
蒼司「別にいーよそんなこと。まぁ、とりあえずこれ。はい」
蒼司は温かいお汁粉を心春に手渡す。
心春「え!?どうしたのこれ!?」
蒼司「さっきそこの自販機で買った。甘いくて温かいもん飲めば少しはリラックスできるかなって」
蒼司の優しさと気遣いに涙が込み上げてくる心春。
心春「…ありがとう」
蒼司は優しい笑みを浮かべながら、必死に涙をこらえている心春を見つめる。
× × ×
二人はコラボカフェに出かけた日と同じようにベンチに腰かけている。
蒼司「で?今日はどういったご用件で?」
心春(…しっかり話さないと)
心春は息を吸い込むと、蒼司に頭を下げる。
心春「まず、ここ三日くらい藤崎君のこと避けていて本当にごめんなさい」
蒼司「…」
心春「私…勉強も運動もできないし、友達も少ないし、明るいわけでもなくて……そんな自分がクラスの中心にいる藤崎君とこれ以上関わるべきじゃないって…そう勝手に決めつけて、距離を取ってた」
心春はスカートの裾をぎゅっと握る。
心春「でも藤崎君の漫画読んで、気づいたの。今の私は自分の気持ちも、藤崎君の気持ちも蔑ろにしているって。本当は藤崎君に話しかけてもらえるのすごい嬉しいし、それを無視したらすごい辛い。なのに一人でうだうだ悩んで、藤崎君に迷惑かけて、何してるんだろうって」
バックの中から原稿用紙が入った茶封筒を取り出し、震える手でそれを蒼司に返却する心春。
心春「中に細かく感想書いた紙入ってるから、後で読んでくれると嬉しい。全部好きだったけど、特に主人公が熊ケ谷君に気持ちを吐露するシーンが本当にジーンときて…こんなに素敵な作品読ませてくれてありがとう。もう私と関わりたくないかもだけど、最後にどうしてもこの気持ちを伝えたくて…」
心春から茶封筒を受け取った蒼司は少し間をおいて、口を開く。
蒼司「たしかに俺、傷ついたよ。理由分からずに突然避けられて驚いた」
心春「…それは本当にごめんなさ」
謝罪する心春の言葉を遮るように、蒼司が言葉を重ねる。
蒼司「でも。それよりも俺の漫画読んで、読者の心を動かせたことの方が何倍も嬉しくて、そんなのどうでもよくなった」
晴れやかな表情でそう言った蒼司を見て、ポカンと口を開ける心春。
心春「……え?怒ってないの?」
心春が恐る恐る尋ねると、蒼司はおかしそうに笑う。
蒼司「怒ってるわけないじゃん。むしろその逆。ちょー最高な気分」
その笑顔を見た心春の心の中に、桜の花びらが一枚落ちる(演出)。
スッと手を差し出してくる蒼司。
蒼司「はい、仲直りの握手」
心春「!…うん」
心春がおずおずと手を差し出すと、二人は握手を交わす。
蒼司「これで俺達、また友達な。これからも沢山話そう」
その言葉を聞き、目頭が熱くなるのを感じながら大きく首を縦に振る心春。
心春「うんっ…!」
『ピピピピッ!』
心春「わぁ!?」
蒼司「!」
突如蒼司のポケットからスマホのアラームが鳴り出す。
蒼司「やべ、俺そろそろバイト行かなくちゃ」
心春「あ、そっか!あの…今日忙しい中、時間作ってくれて本当にありがとう!」
蒼司「そんなかしこまらなくていいって」
心春「でも」
蒼司「だって俺達、友達でしょ?」
心春の涙腺は遂に決壊する。
心春「(号泣して)……藤崎君、優しすぎるよぉ!」
蒼司「あははっ!」
〇桜道
二人は公園を出た二人は、それぞれ反対の道を歩き出す。
心春は胸に手を当てて、赤く染まった顔を俯けている。
心春(さっきからずっとドキドキが止まらない…)
× × ×
(回想)
蒼司「俺達友達でしょ?」
× × ×
心春(「友達」…。多分、私藤崎君に同じ気持ちを返せてない。だってこの気持ちは、きっと……)
蒼司「小山内!」
背後からかけられた蒼司の声につられて心春が振り返る。
蒼司「また俺の漫画読んでよ!」
心春「…うんっ」
心春が頷くと、蒼司は満足そうに笑い、走っていく。
心春(認めざるを得ない)
散りゆく桜の花びらが風に舞う。
小さくなっていく蒼司の背を見つめながら、心春が小さな声で呟く。
心春「…好き」
【青い春を司るような、キラキラと輝く君に、私は恋をしてしまったんだ。】